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北福佳猫さんの作品集が遂に! 北福佳猫さんといえば『原始人彼氏』のインパクトがあまりにも大きかったと思いますが、この1冊を読めば解るはずです。デビュー作の「明日へのla」から始まり、感情を揺さぶる正統派学園ラブストーリーの巧さや良さが煌めいているということが。 ミモザに染まった表紙絵がとても鮮やかで目を引きますが、表題作でありこの作品集に収録されている中では最も最近描かれた(それでも2021年ですが)「君に降るミモザ」は特に好きな1篇です。ドイツ系アメリカ人と日本人のハーフで、友達もいない時代を長く過ごしてきた立花クラウゼ瑠輝(るか)が転校をして新たな環境で不安で一杯の最初の日に、クラスの人気者である真風保(まかぜたもつ)と良い出逢いを果たすことでこれまでにない充実した学校生活を送っていけるようになる話です。居場所がない苦しさ、馴染めなかったらどうしようという不安で一杯の転校先で受け入れられる嬉しさ、絆が芽生え花咲く瞬間の輝きが鮮烈に描かれています。3~4月に咲いて春の訪れを告げるミモザのごとく、人生の新しい季節が降り注ぐ様子が過去の自分の想いと重なりながら感情を揺れ動かしてくれます。 男子校から転校してきた都と運命的(?)な出逢いを果たした、ちょっと重くて痛いオンナである宮本きらりを描いた「今日もやってんなキラリ」は、ヒロインの突き抜けたキャラクターが特徴的。ただ、その理由付けが上手くなされており20ページほどの短さの中で綺麗にまとめられていてもっとこのふたりの関係性を見ていたくなります。 前後編で80ページほどある「夜明けの星が燃える」は、歌劇部が非常に人気で精力的な活動をしている中高一貫の女子校に高校から入り、廃部寸前の演劇部に入部する女の子・晶の物語。数少ない演劇部員の伊万里と千世の3人だけで歌劇部に対抗すべく奮闘していく中で、徐々に明らかになっていく晶の才能とその影響も受けて変化していく関係性が見どころです。自分がやってきたことが誰かに影響を与えたとして、それが目に見えないと無かったものと思ってしまいがちですが、それでも確かに動かしたものがあってそれを知覚できたときは代え難い歓びを得るものだよなあとしみじみと思います。 デビュー作の「明日へのla」は、優等生のヒロインと、落ちこぼれながらギターに命を懸ける少年の物語でまさに青春。抑圧されて秘めた想いや憧れを解き放つ、その瞬間の気持ちよさ。無限の前途がある若者たちの相貌が瑞々しいです。 あとがきで筆者が描いていたように、今や直視できないそうですが、読者としては「明日へのla」から「君に降るミモザ」の数年間での大きな成長が見て取れて、そこもまた味わい深いです。 『原始人彼氏』のような作品も描けることを既に示している北福佳猫さん、これからまたどのようなものを生み出してくださるのか楽しみです。 余談ですが、田中メカさんとの合作の「かわいいふたり」なども今後どこかで収録して欲しいですね。
兎来栄寿
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