江戸の街で巻き起こる怪奇なお話――。今巷では、かんざし占いが大人気。着物の仕立て屋で針子として働くお糸は、恋人である喜三郎が受け取りに来た着物に自分の針が残ってしまっている事に気付く。しかし目の前でお仕置きをうけるお志摩の姿に、それを言い出せず黙り込んでしまったお糸。そんな中、お仕置きを受けたお志摩が、川で死体となって発見され――!?
町人たちが中心となり、独自の文化・芸術を花開かせた江戸時代。しかし、人々の間には幸福や充足だけではなく、どす黒い怨念も転がっていた。虚々実々を混ぜ合わせ、数多くの怪談話が作られたのもこの時代。藤田素子先生が江戸の怪異と人情をつづった連作短編集。<収録短編あらすじ> お針子として働く娘、お糸。ある日、針が縫いこまれたままの品物を渡そうとした咎で、同僚がきびしい体罰をうけた。本当は自分のミスだったのではないかと、お糸は怖れおののく。しばらくして同僚は身投げし、不気味な出来事が起きはじめた(「針地獄」)。重病の姉とともに、細々と暮らしていた娘、お美乃。お金が無いばかりに、とうとう姉は非業の死を遂げた。残されたかんざしは、お美乃の心と体に深くつきささる(死にかんざし)。人気の無い女芸人、お菊。解雇も時間の問題だったが、ある夜の興行で怪奇現象が起こり、そこから人気が出るようになった。ほくそ笑むお菊の前に、ファンを名乗る人物が現れて……(「血の恋文」)。