人は人を想う。しかしその一方で、弱いものを踏みつけにして社会を、暮らしを続けていく。どろぼうは社会から疎外され、名前を忘れてひとり山の中で暮していた。時折、「狩り」と称して街に下り、強欲な資産家から金目の物を盗むことを生業として。ある夜、いつものように高級馬車を襲ったところ、幼い王女がひとり…。王女もまた、王家という社会から疎外されようとしていた。利害の一致したふたりは行動を共にすることに。そんな時、ふたりの前に虚構の力のひとつ、「言語」が立ち現れる…。虚構の力は、「見えないものを“在る”と信じる力」。人々を結び付け、秩序を生み、集団の生存確率を高める力。しかしそれは同時に、弱いものを犠牲にする残酷な一面を持つ。実態を持たない虚構の力「言語」を相手に、ふたりはどう対峙するのか。これは、名前のないどろぼうと孤独な王女が出会い、実態のない虚構の力にあがらい、生き延びようとする物語。