滅亡した世界に偶然にも生き残った人間嫌いのハカセと、しっかり者の相棒AI・クマノミ。祖父の遺した“宝物”のデータをさがして電子の世界を冒険する二人の日常は、さみしくてやさしい、一期一会の旅。ヒトとAIの終末日常ファンタジー、第1巻。
2022年に始まったきらら系作品の新連載の中でも、個人的に特に大好きな一作がこちらの『メールブルーの旅人』です。 遠い未来の世界、滅びた人類の中で唯一生き残ったハカセが「せっかく生き残ったなら最後にやっておきたい」と、AI搭載人型探査機クマノミを作り「情報の海(メールブルー)」に眠る祖父の残した宝を探し求めてさまざまな「情報世界(チャンネル)」へと向かわせるSFストーリー4コマ。 01 隔離の世界 02 保存の世界 03 本の世界 04 画一性の世界 05 階段の世界 06 ゲームの世界 07 情報の海の世界 08 部隊の世界 09 外の世界 10 レストランの世界 11 学校の世界 という目次を見ても解る通り、「情報世界」は非常に多種多様で1話1話異なる読み味を提供してくれます。感覚としては、『キノの旅』でさまざまな理の世界を旅してさまざまなものに出会い続けるのに似ています。 その中でも、私はエピソード3の「本の世界」がとても好きです。 「本って誰かが綴ってきたものでしょう? これって世界の誰かをひとりぼっちにしないためにあるんじゃないかしら! だから私は一人じゃないの! むしろ恋人がいっぱいって感じかしら!」 「たしかに研究は引き継がれたけど 過程にたくさんの思いがあるのよ でも研究には関係ないから省かれた でも省かれた思いは本(ここ)にしか無いから残したいの」 といったセリフは、本を愛する人にとっては非常に響くものではないでしょうか。 また、エピソード4の「画一性の世界」における特徴的なヴィジュアルや哲学性、そしてホラー感も良いです。 怖さを感じさせる世界もあれば、和むような世界もあり。AIのクマノミが、さまざまな世界や情報に触れることによって変わり育っていく様、また人間である博士がいつかくるクマノミとの別れを予感する様も合わさってエモーショナルです。 唯一である現実世界の人間は滅びてしまっているという根幹の設定が、何とも言えない切なさを帯びさせています。SFとしての味が確かに存在していて、ひとつひとつの言葉やシチュエーションに意味が付与されており、切り取ってそこだけ見れば何気なく見えるシーンでも深い意味を賞翫できるように作られています。 1冊を読み通した後に、冒頭で描かれる各情報世界のカラーページを読み返すと何とも言えない良さがじんわりとこみ上げてきます。 画力や演出力、構成力的にそうとは思えないレベルですが、作者のこだまりさんは初連載・初単行本ということで今後も応援していきたいです。4コマという制約の中ですら画面を上手く使った演出の上手さを感じさせてくれるので、4コマ以外の作品も見てみたいです。
2022年に始まったきらら系作品の新連載の中でも、個人的に特に大好きな一作がこちらの『メールブルーの旅人』です。 遠い未来の世界、滅びた人類の中で唯一生き残ったハカセが「せっかく生き残ったなら最後にやっておきたい」と、AI搭載人型探査機クマノミを作り「情報の海(メールブルー)」に眠る祖父の残した宝を探し求めてさまざまな「情報世界(チャンネル)」へと向かわせるSFストーリー4コマ。 01 隔離の世界 02 保存の世界 03 本の世界 04 画一性の世界 05 階段の世界 06 ゲームの世界 07 情報の海の世界 08 部隊の世界 09 外の世界 10 レストランの世界 11 学校の世界 という目次を見ても解る通り、「情報世界」は非常に多種多様で1話1話異なる読み味を提供してくれます。感覚としては、『キノの旅』でさまざまな理の世界を旅してさまざまなものに出会い続けるのに似ています。 その中でも、私はエピソード3の「本の世界」がとても好きです。 「本って誰かが綴ってきたものでしょう? これって世界の誰かをひとりぼっちにしないためにあるんじゃないかしら! だから私は一人じゃないの! むしろ恋人がいっぱいって感じかしら!」 「たしかに研究は引き継がれたけど 過程にたくさんの思いがあるのよ でも研究には関係ないから省かれた でも省かれた思いは本(ここ)にしか無いから残したいの」 といったセリフは、本を愛する人にとっては非常に響くものではないでしょうか。 また、エピソード4の「画一性の世界」における特徴的なヴィジュアルや哲学性、そしてホラー感も良いです。 怖さを感じさせる世界もあれば、和むような世界もあり。AIのクマノミが、さまざまな世界や情報に触れることによって変わり育っていく様、また人間である博士がいつかくるクマノミとの別れを予感する様も合わさってエモーショナルです。 唯一である現実世界の人間は滅びてしまっているという根幹の設定が、何とも言えない切なさを帯びさせています。SFとしての味が確かに存在していて、ひとつひとつの言葉やシチュエーションに意味が付与されており、切り取ってそこだけ見れば何気なく見えるシーンでも深い意味を賞翫できるように作られています。 1冊を読み通した後に、冒頭で描かれる各情報世界のカラーページを読み返すと何とも言えない良さがじんわりとこみ上げてきます。 画力や演出力、構成力的にそうとは思えないレベルですが、作者のこだまりさんは初連載・初単行本ということで今後も応援していきたいです。4コマという制約の中ですら画面を上手く使った演出の上手さを感じさせてくれるので、4コマ以外の作品も見てみたいです。