終末の箱庭

新たなる恐怖の幕開け! 連作ディストピアホラー #1巻応援

終末の箱庭 岬かいり
兎来栄寿
兎来栄寿

バズりにバズった「笑顔の世界」を始めとするホラー短編で『ちゃお』読者にたくさんのトラウマをもたらしたホラーの名手・岬かいりさんの新作です。 今回も、1話ごとに恐ろしい世界をたっぷりと見せてくれます。あたかも『世にも奇妙な物語』の怖い回のような、さまざまな設定がなされた世界における恐怖の数々。本作の特徴としては、単話ごとに楽しめるように描かれているのですが、それぞれのお話ごとの繋がりが明確に描かれておりやがて収斂していくことを仄めかす構成が挙げられます。 短編としても楽しめながら、大きな設定がもたらす謎やサスペンス性により1粒で2度美味しい作品です。 『笑顔の世界』のクチコミにも書きましたが、岬かいりさんの描く歪んだ世界はただ露悪的なだけではなく現実世界と地続きなのが印象的です。 さまざまなディストピア感が描かれますが、それらは決してファンタジーではなくややもすれば現実で人間の愚かさや弱さが引き起こしてしまいそうなものでもあります。逆に言えば、人間が愚かであるからこそこうした物語による警鐘が必要であり、それを浴びて生きてきた血脈がこうした物語に対して悍ましくも目が離せないという感情を抱かせるのかもしれません。 岬かいりさんは、個々のシーンにおいても「通常であれば読者はこういう感情を持つから、こういう反応を期待するだろう」という部分をそのまま描かず、たくさん裏切ってくれるのもまたホラーに合っています。 終わったときには近年のホラー系作品の中でも一際名作として聳え立っていそうです。

笑顔の世界

表紙詐欺ならぬ表紙正直

笑顔の世界 岬かいり
兎来栄寿
兎来栄寿

伝説的なバズりを記録した表題作「笑顔の世界」を始めとする、ちゃおコミやちゃおデラックスに掲載されたホラー短編を8編収録した岬かいりさんの待望の作品集です。 皆さんも、子供のころに読んでトラウマになったマンガの1つや2つはあるのではないでしょうか。私は『アウターゾーン』の「妖精」(という名の獰猛な小さいゴブリンのような怪物)が怖くて仕方なかったり、『ジョジョ』4部のしげちーのハーヴェストが億泰のズボンの下に侵入して足の肉を刮ぎ抉り取るシーンに生理的な嫌悪と恐怖を覚えたりしていました。 「笑顔の世界」を読んだことがある方ならお解りになるかと思いますが、本作は小さい頃に読んでいたらトラウマになっていただろうなと思う話が満載です。 ただ、元々の発表媒体がちゃお系だったにも関わらず、単行本のレーベルは裏少年サンデーになったのは時代の流れでしょうか。帯が伊藤潤二さんなのはホラー系を描く作家としては最高級の誉れだと思いますが、表紙の絵も間違っても小さな女児が「かわいい〜!」といって手に取らなさそうな露骨なものになっているのは個人的にはちょっと惜しい気持ちもあります。 あえて、表紙詐欺で作中のかわいい部分を押し出した形のものにして「かわいい〜!」と思って買ったらとんでもないことになった、という体験をしておくこともまた人生においては大事な経験ではないかと思うからです。現実は、もっともっと理不尽で残酷なのですから……。 という余談はさておき、岬かいりさんのホラー系短編はただ露悪的というわけではなく、かなり社会情勢や社会問題にも寄り添いながら批評的な意味合いも持っているお話が多いのが面白く、推せるところです。 「笑顔の世界」はもちろん、マスク社会で他人の素顔が都市伝説同様になってしまったという「口裂け女」や、中学受験における競争社会性を描いた「地獄の落とし穴」などは特に顕著です。「地獄の落とし穴」の最後のコマなどは非常に味わい深さがありますね。 本日、ちゃおコミに掲載された読切「社会の秘密」も併せてお楽しみください。 https://ciao.shogakukan.co.jp/webwork/47206/