書籍で好みの挿絵に出会うと、いっその事、この絵で物語を漫画にしてくれたら、と思う事がある。 大庭賢哉先生の挿絵のお仕事は、物語を邪魔することなく、不思議な空気感やワクワクする世界観を伝える。しかし反面では、この絵で物語世界の空想が動き出す程の、強い魅力を持っている。 その魅力を漫画として(あのユリイカに!)連載し、単行本にした青土社の慧眼!名久井直子氏の端正な装丁に包まれ、送り出される世界観は、子供目線から見た世界の裏側、秘された真相、空想と現実のあわい。鋭く根源的な発見と、優しい読後感に満ちている。 その画面の質感と、闇と光のあわいを見据える表現は、例えば五十嵐大介先生や漆原友紀先生と比較されてもいいかもしれない。 今後も独特なポジションでの漫画表現を、見続けたい。 ●おるすばんと嵐 お母さんは僕より先に死なないよね?嵐の中、僕を脅し、唆す声に負けない! ●猫のリリー 気に入った猫を、結局飼わなかった。後日、その猫が友達に飼われたと知る。自分が選んだかもしれない可能性。 ●小人の小人の話 現れた小人には、さらに小人がいる。全ての小人にはその小人がいる?嘘だ!証明して! ●斜め前のヨシムラさん 学校でも家でも空想逞しいヨシムラさんは、嘘つき扱いされがち。彼女の空想に寄り添い、現実に繋ぎ止めるのは私だと、ぼんやり気付く。 ●ひみつのへや 引っ越しが悲しいタカコが、新居の自室を開けると……ここ前の家だ! ●となりのカナちゃん 僕は家族と似てるよね?クラスの女子に一番似てると言われ、不安になる。 ●かえりみち 公園に最後まで残っている転校生は、本当に家に帰ってる?みんなは? ●わたしの日 成長していく自分の、内面の成長を感じられず、落ち込む。周囲の方が変わっていく気がして……。 ●鳥の世話 学校で飼育する九官鳥の、本当の名前を巡る、飼育委員の女子と、二人の男子のお話。 ●朝の夢と夜の風 はじめて海に入る前に、母を振り返り安心するように、はじめての恋に踏み込む時、振り返る。 ●カミナリを捕まえる話 雷が落ちると言うなら、拾える筈じゃない?完全武装で嵐の中へ。 (画像は137ページより引用)
日常に倦む子供達は、ふとそこに潜む闇……影、死角、秘密の空間……を見つける。自分だけの楽しい「夜の時間」は、本当は危うくて、触れてはいけないと知る。 ----- 大庭賢哉先生の二冊目の単行本は「ユリイカ」の青土社から。『トモネン』より線が整理された、親しみやすい絵。ハードカバーも漫画には珍しく、名久井直子氏の装丁で「大人の児童書」の雰囲気を醸す。 子供達は世界に疑問を持ち、見えない世界を空想し、その世界に迷い込む。現実への帰還を巡り、時にシビアな冒険と決断を経て、子供達は、現実世界を生きる勇気と希望を手にする。 子供も大人も、ちょっぴり怖い空想世界にドキドキした後に、前向きな気持ちになれる作品集だ。 ●今日、犬が届く 届いたプードルはやたらでかい。対して動物園の白熊が妙に可愛い。明らかにおかしいのに、名付けられ、定義された彼らに何も疑問を持たない人々の中に……。 ●郵便配達と夜の国 現実に倦んだ少女は郵便配達夫と旅に。見知らぬ場所に行けると思ったのに……。 ●森 弟が産まれてから、家族に構ってもらえない女の子は、家出して変な森に迷い込む。そこで会った少年は……誰? ●逃げたオオカミ 怖がりの弟に「狼と七匹の子ヤギ」の狼の最期を端折って話したら、弟は狼の行方が怖くなった。曲がり角の向こうには……? ●お引っ越し 幼稚園の先生は、僕らが帰った後、幼稚園を独り占め?確かめようと隠れていたら……。 ●隣のミミ子 裏山にフクロウがいるかも!翌日現れた転入生に、夜の森に誘われて……。 ●まねっこさがし ガサツなヨリ子が隣町で目撃された。どうやら自分の偽物がいるらしい。捕まえるため、ちょっとおしとやかに変装。しかし……。 ●きつねしばい 幼稚園の劇でキツネ役になりきったサチコ。役のままで道を歩いていると、動物の言葉が分かるように!そのまま動物のテリトリーへ。 ●6:45 地下坑道を抜け、日のもとへ。昼から夜、そして昼へと歩き続ける少女と犬の、見開きイラスト集。 ●ひきだしのなか 自分の机が欲しい少女は、海岸で古びた机を見つける。少しずつ自分の秘密を作っていく。 (画像は30ページより引用)
電話の向こう、隠したスケッチブック、閉ざした心の隙間……ふと覗き見た相手と通じ合えた時、温かな感慨に包まれる。そんな子供達の少し不思議な、内なる冒険の物語。 ----- この作品集は、児童書の表紙や挿絵の仕事を主にされている大庭賢哉先生の、同人漫画作品をメインに集めた初商業出版集。 見えない私の背後、隠された相手の内面、スケールが違いすぎて目に入らないもの……それらが見えた時の、子供達の心の動き。 笑いあり涙あり、発見の驚きあり。根本的な気づきにハッとさせられる、良質な児童文学そのものである。 絵柄は宮崎駿先生の漫画作品(風の谷のナウシカ等)に近しいテイストの描線で、素朴で自由な楽しさがある。 名和田耕平氏のカバー加工やノンブルのデザインも、本としての所有欲を掻き立てられる。時折手に取り、子供達の世界に触れたい、そんな一冊だ。 ●ぬい氏の日常 ぬいぐるみが、持ち主の見てない所で…… ●トモネン 森で出会った見習い魔女ちゃん。ポテチの味を変えたり、魔女の将来設計を嘆いたり、巨人の遺構が大阪だったり……不思議世界を俗世が脱臼させる、クスリと笑えるお話達。 ●リサとガス 喧嘩中の二人が、電話越しの不思議なシンクロで仲直り。 ●帰り道と100円玉 拾った100円が喋った!他のお金も喋るんだって。 ●Go Girl 1/引っ越す友達に町の風景をプレゼント。町が私を忘れても、私は忘れない。 2/哲学的な話をし始める娘。母も一人の人間であると気付く、幼年時代の終わり。 ●リーザの左手 読心術を披露する旅芸人の少年と、学校で孤立する少女。人を見下す互いの傲慢さに気付いた時……。 ●よーこちゃん。 クールキャラのよーこちゃんは、藤井君に恥ずかしい所を見られる。自分の絵を人に見せずに来たが、隠す方が恥ずかしいかも……。 この作品だけ、絵のタッチが少し違う。現在の大庭賢哉先生はこちらの感じだ。
書籍で好みの挿絵に出会うと、いっその事、この絵で物語を漫画にしてくれたら、と思う事がある。 大庭賢哉先生の挿絵のお仕事は、物語を邪魔することなく、不思議な空気感やワクワクする世界観を伝える。しかし反面では、この絵で物語世界の空想が動き出す程の、強い魅力を持っている。 その魅力を漫画として(あのユリイカに!)連載し、単行本にした青土社の慧眼!名久井直子氏の端正な装丁に包まれ、送り出される世界観は、子供目線から見た世界の裏側、秘された真相、空想と現実のあわい。鋭く根源的な発見と、優しい読後感に満ちている。 その画面の質感と、闇と光のあわいを見据える表現は、例えば五十嵐大介先生や漆原友紀先生と比較されてもいいかもしれない。 今後も独特なポジションでの漫画表現を、見続けたい。 ●おるすばんと嵐 お母さんは僕より先に死なないよね?嵐の中、僕を脅し、唆す声に負けない! ●猫のリリー 気に入った猫を、結局飼わなかった。後日、その猫が友達に飼われたと知る。自分が選んだかもしれない可能性。 ●小人の小人の話 現れた小人には、さらに小人がいる。全ての小人にはその小人がいる?嘘だ!証明して! ●斜め前のヨシムラさん 学校でも家でも空想逞しいヨシムラさんは、嘘つき扱いされがち。彼女の空想に寄り添い、現実に繋ぎ止めるのは私だと、ぼんやり気付く。 ●ひみつのへや 引っ越しが悲しいタカコが、新居の自室を開けると……ここ前の家だ! ●となりのカナちゃん 僕は家族と似てるよね?クラスの女子に一番似てると言われ、不安になる。 ●かえりみち 公園に最後まで残っている転校生は、本当に家に帰ってる?みんなは? ●わたしの日 成長していく自分の、内面の成長を感じられず、落ち込む。周囲の方が変わっていく気がして……。 ●鳥の世話 学校で飼育する九官鳥の、本当の名前を巡る、飼育委員の女子と、二人の男子のお話。 ●朝の夢と夜の風 はじめて海に入る前に、母を振り返り安心するように、はじめての恋に踏み込む時、振り返る。 ●カミナリを捕まえる話 雷が落ちると言うなら、拾える筈じゃない?完全武装で嵐の中へ。 (画像は137ページより引用)