(とりあえず)名無し
1年以上前
松本大洋が『ZERO』と『花男』をスピリッツに連載していた時、本当に幸福だった。
まったく新しい、スペシャルな才能が、今ここにいる…と、毎週感じさせてくれたのだから。
松本大洋のテーマは、かなり一貫している。
「天才の営為とは畢竟‘子供の遊び’であり、秀才はそれに決して追いつけず、ただ憧れるしかない」というようなもので、この初期長篇二作で、ある意味それは描き尽くされている。
最大ヒット作『ピンポン』は、そこをもっとも大ぶりに描いた集大成だろうし、最新傑作『SUNNY』は、その「先」(あるいは、その「前」)への美しいチャレンジだと思う。
しかし個人的には、『花男』を偏愛しているのです。
初長篇『ストレート』や『ZERO』『ピンポン』というスポーツ物の亜種のように見えながら、この優しい詩情に彩られた「野球漫画」ほど、スポーツの持つ「奇跡」を鮮やかに読む者の心へ染みこませてくる漫画を、他に知らない。
また『花男』は、大友克洋と谷口ジローによって日本漫画界に提示されたメビウスに代表されるヨーロッパ・コミックの豊穣さ、それをさらに一歩進めた可能性を見せてくれた作品でもあります。
Pradoが好きなんだろうなあ。そこがまた凄いよなあ。