あらすじ

さらわれた母と美雪を助け出すべく、ともに戦うべく運命にあった仲間たちと決戦の場・暗黒寺へ向かった子郎。しかし闇の森の幻魔衆、牙の草原には争魔衆と、次々と敵の総攻撃を受ける。この危機を乗り越え、子郎は暗黒寺にたどり着けるのか?
手天童子(1)

ある日、若い夫婦の前に巨大な鬼が現れ、「15年後に迎えに来る」と言い残し一人の赤ん坊を預けた。謎の子は手天童子郎と名づけられ、夫婦に我が子のように育てられる。しかし約束の15年が近づいた頃、次々と子郎の周りで怪事件が…。呪われし運命の命ずるまま、子郎がはてなき闘争の旅へ出る!

手天童子(2)

子郎に想いを寄せるクラスメイト・美雪が学校一の不良集団・結命党にさらわれた。結命党のアジトで美雪を待ち構えていた党首はなんと異形の鬼…。鬼は美雪の身体をのっとり、子郎の正体を暴くべく近づく。鬼が知りたがる子郎の正体とは一体…?

手天童子(3)

今まで幾度となく子郎を助けてきた鬼の形をした影。美雪に化けた鬼は、それが子郎自身の力でないことを見抜き亜空間へと誘い込んだ。そこで子郎は三種類の魔物に襲われ、危機に陥る。やがて、身の危険にさらされた子郎の前についに助太刀の鬼が姿を現した!!

手天童子(4)

子郎の鬼の力は日に日に増大し、ついに額には角が…。もうすぐ人間ではなくなることを悟った子郎は、美雪らと距離をとるようになる。しかしそんなとき現れた美雪の兄・勇介は子郎の全てを受け入れてくれ、初めての友人となる。勇介の集めた仲間とともに、自分の謎を解くため、子郎は立ち上がる!

手天童子(5)

謎の新任教師・鬼谷は手天童子の抹殺を使命とする闇の仏教・暗黒邪神教の魔導師だった。鬼谷の手による幻魔衆、争魔衆に襲われた子郎たち。頼みの護鬼も助けに現れず絶体絶命の危機を迎えた時、遂に子郎自身の秘めたる鬼の力が覚醒した!

手天童子(6)

さらわれた母と美雪を助け出すべく、ともに戦うべく運命にあった仲間たちと決戦の場・暗黒寺へ向かった子郎。しかし闇の森の幻魔衆、牙の草原には争魔衆と、次々と敵の総攻撃を受ける。この危機を乗り越え、子郎は暗黒寺にたどり着けるのか?

手天童子(7)

暗黒邪神教との戦いのさなか、子郎は自分が鬼の世界で生まれた手天童子であることを知らされる。暗黒邪神教の宗主・魔邪利妖念との激しい戦いの後、子郎は己の定められた運命に従い、鬼の世界・鬼獄界へ向かうことを決意する。運命を共にする戦鬼、護鬼、美雪とともに、子郎は現世から姿を消した…。

手天童子(8)

美雪たちと離れ離れになってしまった子郎は、長い間ひとり宇宙空間をさまよっていた。地球の調査宇宙船・アルファードの危機を救った子郎は、行動を共にすることを希望し、その条件としてアルファード船内で精密検査を受ける。百年もの間、全く歳を取らなかった身体。検査の結果、子郎は驚くべき事実を知ることになる…。

手天童子(9)

自分の正体を知るべく、廃墟となった鬼の星へ向かった子郎。そこに残されていた大暗黒死夜邪来像の顔は、子郎に大きな衝撃を与えるものだった。大江山の酒呑童子伝説が、実は離れ離れになった護鬼と美雪が送るサインだったことに気づいた子郎は、はるか時を越え平安時代へ…!

手天童子(10)

二十二世紀から平安時代にタイムスリップした子郎は、美雪の救出に成功した。そして全ての謎を解くため、平安時代を離れ、鬼獄界へ最後の戦いに向かう。異形の星・鬼獄界を作った大暗黒死夜邪来とは何者なのか。そして子郎の母との関係は?全てが明かされる衝撃の最終巻!SF超大作、堂々完結!!

手天童子

漫画家に何かが憑りついて描かれた漫画と言えばこれ

手天童子 永井豪
完兀
完兀

作者に何かが憑りついて生まれる作品、あるいは見えない力に突き動かされて生まれる作品は名作率が高いと思われる。 どの創作物がこのことに当てはまりそうかは各人が知っているものに思いを馳せてくれればいいが、永井豪作品なら、いや漫画ならこの手天童子がその代表だ。 永井先生は本作制作にあたって「鬼が赤ん坊をくわえている映像が見えて、導かれるように描いた」と巻末解説やインタビューで語っている。また鬼の首取材をきっかけに執筆中は「鬼に祟られていた」とも語り、数々の怪現象と悪夢に苦しめられた結果、おはらいを受けることで最後まで描き切れたと振り返っている。 こんな背景を基にして描かれた作品、締まらない終わり方じゃ一生祟られるんじゃないかと不安になるが、そこはご安心。まさに導かれたかのような綺麗なハッピーエンドを迎える。涙涙で描いたというあの最終回をもってお祓いは完了したといえるだろう。     本作は夫婦の前に突如として現れた、恐ろしい鬼同士の取っ組み合いの争いから始まり、鬼の口の中の赤子の存在に気付いた妻・京子の、鬼にも臆さない愛ゆえの行動から物語が動きだす。 ストーリーは第一話で鬼から語られた「15年後に迎えに来る」という約束が果たされるまでの前半、果たされてからの後半に分けて考えられる。 そう、前半の終わりこそが、物語の始まりから続いてきた、子を思う母の愛が鬼によって引き裂かれる悲劇の場面なのだ。この辺を描いてるとき、永井先生は無茶苦茶苦しめられたに違いない。もしここで読むのをやめれば、読者だって悪夢にうなされかねない。 前半はサスペンス・バイオレンスホラー漫画に分類できそうだが、後半では一気にSFスペクタクルにスケールが広がる。主人公は自身の出自の謎を追いながら宇宙と時空を駆け巡るのだが、子と妻を思って孤軍奮闘する父・竜一郎パートが都度挿入され、やがて家族愛で結ばれるべく物語はクライマックスへ収束していく。 あの父がこれまたかっこいいのだ。彼の「鬼とは…」と語って狂気じみた行動に出るシーンに私は痺れた。     本作は鬼の伝承について取り上げ、またその伝説を巧みにストーリーに組み込んでいるのも魅力の一つだが、展開的に取り上げられても不思議ではなかった、ある有名な鬼がいる。しかしその鬼は作中で触れられることはない。 その鬼について触れれば、「鬼とは…」で語られる本筋からやや外れたところに焦点が合うことになりかねないから、あえて避けられたのだろう。それがまた、本作を引き締まったものにしてくれている。