あらすじ

『海獣の子供』や『リトル・フォレスト』など、自然をテーマにした壮大な作品で知られる鬼才のデビュー作を新装版で。作品の秘密に迫るインタビューも収録。
はなしっぱなし 新装版 上

まさに現代の「遠野物語」。伝説的コミックを復刻!このたび長らく入手困難だった五十嵐大介さんの作品集『はなしっぱなし』を、河出書房新社から上下巻で復刻させていただくことになりました。この作品は、漫画ファンの間ではすでに伝説と化していたもので、一遍一遍が独立した幻想綺譚の傑作になっています。近年、ハイレベルな新作を次々と発表し、再評価の高まる五十嵐さんですが、この『はなしっぱなし』には、デビュー作ということもあり、彼の作風のすべてが含まれているように思えます。切ないメルヘンから背筋のゾッとするような怪奇物まで、様々なファンタジーが収録されたこの希代の作品集を、ぜひ、御一読ください。上下巻ともに描き下ろし短編が掲載されます。

はなしっぱなし 新装版 下

『海獣の子供』や『リトル・フォレスト』など、自然をテーマにした壮大な作品で知られる鬼才のデビュー作を新装版で。作品の秘密に迫るインタビューも収録。

はなしっぱなし

現代幻想譚は「オチ」を拒否する

はなしっぱなし 五十嵐大介
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

例えば友人と話していて、とりとめのない話をしてしまうと、「オチがない」と叱られる。何故、彼は怒るのか。それは、辻褄のあった、納得出来る結末に安心したいからだろう。 では、彼に怪談をするとしたら? 怖い体験談に「オチ」をつけようと語り続けるうち、ふと口をつぐむ時が、恐らく来る。見えなくなった者達、常識の埒外にいる者達を、語り続ける事は出来ないからだ。 「え、結局なんなの……?」 「よく分からないんだ……」 というやり取りに至り、はじめて相手は、ヤバい事を聞いていると気付き、ゾッとする。 「現代の」民話集と言える『はなしっぱなし』。幻想的な物語は、根源的な理解の及ばなさに終始する。不可思議で恐ろしい出来事が、異形の存在が、微細で遠大な世界観が、語られるままに描かれ、「はなしっぱなし」のまま、オチなく放り出される。 脈絡などない。語り手は豊かで生々しい体験だけを語ると、そこから先は踏み込めない、と急に口を閉ざす。 そうして語られる現代の幻想譚には、ペンのストロークを緻密に重ねる絵の美しさと相まって、まるで見世物小屋のような恐ろしさと、妖しい魅力、そして妙な懐かしさがある。嵌る人は本当に癖になってしまう、珠玉の不思議世界。 理解するのではなく、画面をそのまま味わいたい。