あらすじ本業の仕事はほぼゼロ、配信でのわずかな投げ銭とバイトで食い繋いでいる声優の「ゆにまる。」は、大企業勤めのOL・紺野さやかから「私のお葬式で遺書を読み上げてほしい」という予想もしない依頼をされる。訝しみつつも金額に目がくらみ、依頼を受けることにしたゆにまる。だったが、肝心のさやかは遺書の内容を決めるための会議と称して遊びまわっていて…。「第3回百合文芸小説コンテスト」百合姫賞作品原作、夢、生活、人生の豊かさ…“世界(レイヤー)”の違う二人、一度きりの夏の物語。
「第3回百合文芸小説コンテスト」百合姫賞作品が原作ということですが、そんな雰囲気をひしひしと感じる良きお点前の現代的な百合でした。 売れない声優でコンビニバイトをしながら配信で小銭を得ているゆにまる。が、ある日「インスタやってそうなキラキラ女」こと大企業に勤めるOLのさやかから「自分の遺書を読んで欲しい」という依頼を受けるところから、二人の関係性と物語の歯車が回り始めます。 猥雑なカオスに満たされたTwitterランドを居心地の良い安息の地とする人にとっては、InstagramやFacebookの意識の高いキラキラ感は眩し過ぎて直視できない違う世界の住人であるように思うことがあるのではないでしょうか(というか、私自身がそうなのですが)。本作の主人公ゆにまる。も、最初の内はまったく属性の違うはずのさやかに対して警戒心を抱きます。 やたらと羽振りも気前も良く、金払いが良いのは生活的にはありがたいにしても、普段たんぱく質を卵と豆腐でしか摂っていないような自分と全然違うさやか。金銭感覚を含めた差異に、苛立ちすら募らせます。しかし、こんなに側から見たら恵まれていそうな人間が、何故死を希求してそこに向かっていくのか。色々な感情が綯い交ぜになりながらもこの物語における最大のミステリーに少しずつ近付き、同時に二人の距離感も徐々に縮まっていくそのスピード感が絶妙でした。 以前はミヤハラミヤコ名義で『一度だけでも、後悔してます。』や『ものつく~手作り生活、はじめました。~』などを描かれていた宮原都さんの美しい絵も、本作にはピッタリとハマっていて良かったです。 英語におけるlemonの「不良品」や「役立たず」という果物とは別の意味を思いながら、そういったものに宿る価値を見出してこそ人生も輝くというものです。 今日は一段と冷え込みが厳しい冬の日でしたが、読んでいる間は夏の香を感じられました。レモネードでも飲みながら読みたい上質な1冊完結の百合です。