川越の町で遊女となっていた志乃と再会した鉄は、楼主と懸け合い彼女を解放する。鉄の行脚の邪魔になるからと去った志乃に、幸せな結婚を祈る鉄。そして行脚を続ける鉄は、加茂峠の峻険な山道が多くの死者を出していることを知り、固い岩山にトンネルを掘り始めた。たった一人で硬い岩盤を掘り進めて行く鉄の元に、鉄のために両親を失い、幼い頃から艱難辛苦を重ねてきた座間新太郎が、復讐に燃えて現れる。そして学問を重ね自立した志乃が…。復讐を諦める新太郎。遂に叶わなかった恋に殉じた志乃。恩讐の彼方に、鉄は何を見たのか? 即身成仏を遂げた鉄の懐には、志乃の櫛が抱かれていた…。
愛と狂気は紙一重。ついそんなことを思ってしまいながら読み終わりました。村の荒くれ者がふとしたことで人を殺してしまい、惚れた女と泣く泣く別れ、仏門に入り、旅をする中で人々を助け、最後には即身仏になる…。なんとも激しい一生ですが、その昔に実在した人物なんですね。てっきりとみ新蔵先生の演出だと思っていた信じられない展開の数々が実話だとは。1970年に「週刊女性」で連載され、部数増加に貢献するほど人気だったということにも驚きましたが、当時の主婦の方々がハマった理由はなんとなく分かる気がします。まず劇画タッチで描かれる鉄門海上人が男らしくてカッコいい。あと惚れた男が僧侶になった女の心情を綺麗事ばかりじゃなく描いてるところがいい。私も「こんなのもらったってどうしようもないんじゃ!」と思いましたもんね。いやでも二人の愛は本物です。最後にはこんな成就の仕方があるのかと感動しました。