あらすじ
風もないのに音を立てて揺りかごが揺れる。覗きこむと、ベビーウェアに身をくるんだ可愛らしい赤ちゃんが無邪気に微笑んでいた。つられて顔を緩ませるあなたは、まだ何も知らない。柔らかく小さな身体に惨たらしい悪魔が宿っていることを!『J・スミス氏の赤ちゃん』ある総合病院でのこと。死後1ヶ月たった遺体から何か生まれ出た。直後に新生児室で前代未聞の事件が起こる。看護師たちが目を離した隙に、新生児室の赤ちゃんがみな消え去ってしまったのだ。たった1人だけ残っていたのは、スミス氏の赤ちゃんだけ。プリシラと名づけられた赤ちゃんは、両親と共に自宅に戻るものの、スミス氏一家の周りでは不吉なことばかりが起こり始める。いったい、どうして!? 表題作『黒天使(ブラックエンジェル)シンセラ』は『J・スミス氏の赤ちゃん』を原点として、磨き上げられたシリーズの1作目。新生児室の赤ちゃんがみな亡くなってしまった中たった1人元気に退院できた赤ちゃん、シンセラ。その可愛い寝顔に両親はみんなに幸せを運ぶエンジェルだと信じていた。けれど一家の周りでは不吉な事件や事故が相次いでいた。そして父のポールは愛娘シンセラの真の姿に気づいてしまうのだった。音を立てて回り始めた運命の歯車は、一家をどんな結末へと導くのだろうか?他にも『黒天使(ブラックエンジェル)シンセラ』シリーズの『愛と死のバラード』『赤い館』の2編を収録。美しいゴシックホラー映画のワンシーンのような画面に引きこむ作者の思惑に乗せられて、身の毛もよだつ悪魔の姿に震えながらも、あなたはもう引きかえせない!
とある病院で産まれた子どもたちが謎の死を遂げる中、唯一元気に退院できた天使のような赤ちゃん・シンセラ。可愛い可愛い我が子に愛を注ぐ夫婦だったが、シンセラは天使ではなく不幸をもたらす黒天使(ブラックエンゼル)であった…。 なんの因果か突然産まれる黒天使(ブラックエンゼル)。なんの理由もなく訪れるのが不幸というものなのかもしれません。 それにしてもブラックエンゼルというルビが味わい深くてグッときます。 わたなべまさこ先生の最高傑作『聖ロザリンド』では最狂殺人鬼ロザリンドちゃんは可愛い可愛い天使のお顔のまま殺戮を繰り返していましたが、シンセラちゃんは天使と悪魔の表情の変化がはっきりと描かれています。 ロザリンドちゃんはサイコパス殺人鬼のサスペンス的恐怖でしたが、シンセラちゃんは悪魔憑きのホラー的恐怖です。 そして、普段は普通の可愛らしい赤ちゃんなので母親の苦悩や葛藤が伝わります。 悪魔だろうと黒天使だろうとシンセラはわたしの愛しい子なの、という母の愛は不幸の連鎖を止めることができるのか?そもそも悪魔にとって愛は救いになるのか? 恐怖だけではなく愛の力にも注目して読んでいただきたい作品です。