「君の手はひとを救う手。俺の手はひとを殺す手」乙女の祈りは唯ひとつ……苦しむ彼にまことの愛とさいわいを■滅ぼされた祖国より命からがら逃れてきたリーリエは、中立国アルモニアの難民キャンプで看護師見習いに採用された。広がる大戦の中、アルモニアは傭兵稼業と国籍を問わない医療活動で混乱の時代を渡っている。家族すべてを失ったリーリエは、途中で脱落した級友たちのことに心を痛めながらも、長閑な景観と新しい生活にひとときの癒しを感じていた。そこに一人の青年が亡命してくる。重傷だ。リーリエは傷口を手当てしようとしたが、彼はたどたどしい彼女の看護を素っ気なく振り払い、自分で手早く処置を済ませてしまう。「あまり自分にかまわない方がいい」とミステリアスに呟く青年。シャワーを使い、支給品の衣服に着替えた彼は、誰もがハッと目を奪われるほどの美貌を持っていた。しなやかな筋肉と身のこなし。鋭い感覚。そう……彼は「元・軍人」……しかも征服戦争を引き起こしたケラスィア帝国の【英雄】と称えられるリーベルト少佐であった――
冬の終わりを告げる響きは「雷獣」と奏でる純愛のコンチェルト■「きらきらと輝く都会で恋をしたい!」という夢を抱いて東京の短大に進級した桃華は、たった一年で失意の春休みを迎えていた。軽率に付き合っては別れを繰り返す同級生。お互いの容姿ばかり気にしている品性の無い合コン。私の欲しい「恋」はこれじゃない…! 最も衝撃だったのは、一緒に上京してきた幼馴染みの真矢から突然に受胎を告げられたこと。いつ? 誰と? 短大はどうするの? 彼女までも自分の知らないイキモノになったのか―――故郷へ向かう電車の雑音に紛れて、桃華はふと遠くに雷の音を聞く。冬の終わりを告げる春雷……桃華の記憶に小さな頃の思い出が蘇った。そう、彼女は小さな頃、とても不思議な「初恋」を体験したのだ……