東京は丸の内に本社ビルを構える、資本金五百億円・傘下系列会社八十四社の巨大企業、明和重工は、日本を代表するビッグビジネスとして日本重工業界に君臨していた。しかし、工場の廃液が原因の水質汚染公害をいかに穏当に補償し、事なきように収めて企業のイメージを回復するか、という喫緊の課題があった。巨大企業が金の力で自らの悪を封じ込めようとする時、闇夜に“怨”が立ち上り、人の姿になって復讐の刃を研ぐ。呪われし血を流すため、現れたのは“猟奇夫人”であった!
東旺映画で十年の助監督時代を過ごした、村瀬高之。やっと自分の書いたシナリオが認められ、監督として映画を任される事になった。その時に出会った美少女・綾小路若葉。その美しさもさることながら、彼女が自殺した大女優・梓ふみ子(綾小路芙美)の娘だと知り、絶大なチャンスが自分に向いてきたと確信する村瀬だった。しかし引退していた大御所監督・牧口健造が、若葉を使って映画を撮りたいと復帰してくる。折角の幸運を横取りされそうになった村瀬は…。ドロドロとした映画界の深層を描く長編!収録作「PART・I」「PART・II」「PART・III」「PART・IV」「PART・V」「最終章」を収録。
―――あれは夢ではなかったのだろうか。―――俺にはまだわからない。「ああ…」自らの秘所に指をあてがう少女、それをカメラに収める俺。熱病に犯された時の酩酊感にも似た感覚に犯されながら、それでも一心不乱にカメラを回す。「自涜(じとく)」、この美しい少女にはこの言葉が一番ふさわしい。それはオナニーでもマスターベーションでも、ましてや手淫でもなく自らを涜(けが)す自涜でなければならない。この甘美な映像を収めることになったのは、あの日の雨の昼下がり――――。収録作「妖美なる無声フィルム」ほか「猟奇令嬢」「兄と妹のバラード」「東京紅団」「我が恋せし主演女優」「ある閨秀作家の犯罪」「ある閨秀作家の犯罪・弐」の全7話を収録。