完全なるフィクションだったらよかった、原作者と切り離して読むことができたらよかった。
事件のことを描くわけにはいかないのも、漫画として読みやすく成立させなければいけないのもわかるけど、なんだか受け入れきれないでいる。

作中の主人公も相当に愚かな男だ。
自覚ないまま親になってしまい、子どもが産まれても変わらずにいる。
妻が事故で意識不明になって、やっと妻の苦労に気づく。子どもを施設に預けてしばらく経って、やっと父親の自覚が芽生える。
完全なるフィクションだと思って読んでいたら腹が立つほど愚かだけど、逆に原作者の人となりと結びついて納得できる。
どんな悪い人もだらしない人も優しさや悲しさを抱えている。傷ついても傷つけても人は絶対にやり直すことができる。
それは当たり前だけど、当たり前だからこそ受け入れられないこともある。
子どもを思う気持ち、妻を思う気持ち、そこは真実なんだろうなあ。だからこそやるせないなあ。

わたしは郷田マモラの作品が好きだ。弱くて傷つきやすくて優しい人なんだと思っている。
傷ついた人も傷つけた人もみんな傷が癒えますように。優しいままであり続けられますように。やり直せますように。

読みたい
この小さな手
愚者の詩
この小さな手 郷田マモラ 吉田浩
(とりあえず)名無し
(とりあえず)名無し
郷田マモラは、稀有な才能である。 彼は、あのしなやかで硬質な、独自としか言いようのない描線で、極めて重いテーマを果敢にフィクションへと昇華する。 遺体の監察医が主人公の『きらきらひかる』、新人刑務官と死刑囚の友情を描く『モリのアサガオ』、さらに、裁判員制度を通して死刑を見つめた『サマヨイザクラ』など、彼の作品は不器用だけれど真率な力に溢れている。 関西の巷のエネルギーに満ちたはるき悦巳と、猥雑さにまみれた青木雄二を、足して二で割り、さらに端正にしたかのような、真にユニークな存在だったのだ。 だが、郷田マモラは、愚か者でもある。 彼が犯した罪について、ここで触れるつもりはない。 しかし明らかに、彼は愚か者だ。 本作『この小さな手』は、郷田が原作を担当し、吉田浩が作画を担当している。 マンバの「あらすじ」の、郷田が寄せたと思しきテキストにある通り、あまりキャリアがあるとは思えない吉田は、郷田が描いたネームを忠実に漫画に起こしたであろうことが、その画面からうかがえる。 本来は、郷田自らがあの筆致で描くべきだっただろう。 この、それほど優れているとは言えないかもしれない漫画には、しかし、確実に漫画家・郷田マモラがいる。 その愚かさが、傲慢さが、不器用さが、真率さが、弱さが、痛いほど脈打っている。 「漫画」という宿痾のひとつの内実が、ここにはある。
ストアに行く
本棚に追加
本棚から外す
読みたい
積読
読んでる
読んだ
フォローする
メモを登録
メモ(非公開)
保存する
お気に入り度を登録
また読みたい
幸福な人生

幸福な人生

あの”虎の子”が帰ってきた!?「虎ちゃんがゆく!」、大学生の息子が恋人を妊娠させてしまい……お互いの家族の思いが重なる「花の咲く庭」などを収録。人間の感性を揺さぶる郷田マモラ短編集、初の電子書籍化!!
考えるサル

考えるサル

サリーと呼ばれる美術学校の学生が殺害される事件が発生。大阪府警の猿田彦が捜査に当たる事になるが、被害者の顔には薬物と思われる粉末が着手していることが判明し……郷田マモラの初期作品、電子書籍となって初登場!!
人間やねん

人間やねん

”虎の子”が再び!? 「虎ちゃんがゆく! <虎ちゃん、誘拐犯になるの巻>」、実写映画化もされた遊郭で生きる女の人生を描く「蝉の女」などを収録。人情の町・大阪を舞台に、郷田マモラの描く短編集が電子書籍となって登場!!
モリのアサガオ2

モリのアサガオ2

「親友のお前の手にかかって死んでいけたら……オレは本望や」死刑囚 渡瀬満の死刑執行から10年。執行ボタンを押した及川直樹の苦悩は続いていた。たま拘置所に配属された及川は再び死刑制度の渦に飲み込まれていく。文化庁メディア芸術祭大賞受賞作の続編がついに登場!! 郷田マモラ衝撃の問題作!!
MAKOTO 完全版

MAKOTO 完全版

幽霊の見える監察医、白川真言。真言が幽霊たちのこの世に残した未練を解明すると、彼らは成仏する。想い合う二人の霊が伝えたかった事。幸せな死を迎えたはずの老人の心残り。気弱でどこまでも駄目な人間と思われた男の勇気。尊敬出来ない父親の隠された過去。年老いた元警官が晴らした村人の無念。しかし、真言にはどうしても成仏させられない幽霊がいた。妻の絵夢だ。切なく愛情に満ちた10のエピソード。
[poor] (プア) ゼラニウムの誘惑

[poor] (プア) ゼラニウムの誘惑

「英雄…かわいそうな子……」2018年10月2日、原宿のヘアサロンで殺人事件が起こった。被害者はファッションデザイナー 仙川亜衣。加害者はその店の店長 増子英雄。増子にはある秘密があった。追う者、追われる者、匿う者。事件の謎が明らかになるに連れ、それぞれの闇が浮かび上がる。奇才・郷田マモラが描き出す究極の人間ドラマ。
宇宙兄弟

宇宙兄弟

2025年。兄は、もう一度だけ自分を信じた。筑波経由火星行きの物語がはじまる!本格兄弟宇宙漫画発進!幼少時代、星空を眺めながら約束を交わした兄・六太と弟・日々人。2025年、弟は約束どおり宇宙飛行士となり、月面の第1次長期滞在クルーの一員となっていた。一方、会社をクビになり、無職の兄・六太。弟からの1通のメールで、兄は再び宇宙を目指しはじめる!
SPY×FAMILY

SPY×FAMILY

名門校潜入のために「家族」を作れと命じられた凄腕スパイの〈黄昏〉。だが、彼が出会った“娘”は心を読む超能力者! “妻”は暗殺者で!? 互いに正体を隠した仮初め家族が、受験と世界の危機に立ち向かう痛快ホームコメディ!!
【推しの子】

【推しの子】

「この芸能界(せかい)において嘘は武器だ」 地方都市で、産婦人科医として働くゴロー。芸能界とは無縁の日々。一方、彼の“推し”のアイドル・星野アイは、スターダムを上り始めていた。そんな二人が“最悪”の出会いを果たし、運命が動き出す…!? “赤坂アカ×横槍メンゴ”の豪華タッグが全く新しい切り口で“芸能界”を描く衝撃作開幕!!
BLUE GIANT

BLUE GIANT

ジャズに心打たれた高校3年生の宮本大は、川原でサックスを独り吹き続けている。雨の日も猛暑の日も毎日毎晩、何年も。「世界一のジャズプレーヤーになる…!!」努力、才能、信念、環境、運…何が必要なのか。無謀とも言える目標に、真摯に正面から向かい合う物語は仙台、広瀬川から始まる。
ゴルゴ13

ゴルゴ13

すべてが謎に包まれている男・ゴルゴ13。フィクションの背後に光る恐るべき事実……ゴルゴ13が放つ銃弾の軌跡が、世界の濁流の行方を左右する!!英国諜報部は、大戦末期に莫大な偽札を隠匿した元ナチの親衛隊長を消すためにゴルゴ13を雇った。要塞化した城で待っていたものは!?
違国日記

違国日記

【電子限定!雑誌掲載時のカラー原画を特別収録!】35歳、少女小説家。(亡き母の妹) 15歳、女子中学生。(姉の遺児) 女王と子犬は2人暮らし。少女小説家の高代槙生(こうだいまきお)(35)は姉夫婦の葬式で遺児の・朝(あさ)(15)が親戚間をたらい回しにされているのを見過ごせず、勢いで引き取ることにした。しかし姪を連れ帰ったものの、翌日には我に返り、持ち前の人見知りが発動。槙生は、誰かと暮らすのには不向きな自分の性格を忘れていた……。対する朝は、人見知りもなく、“大人らしくない大人”・槙生との暮らしをもの珍しくも素直に受け止めていく。不器用人間と子犬のような姪がおくる年の差同居譚、手さぐり暮らしの第1巻!
BLUE GIANT SUPREME

BLUE GIANT SUPREME

止まるわけにはいかない宮本大は、単身ヨーロッパに渡る。降り立ったのはドイツ・ミュンヘン。伝手も知人もなく、ドイツ語も知らず、テナーサックスと強い志があるだけだ。「世界一のジャズプレーヤーになる…!!」練習できる場を探すところから始まる挑戦。大の音は、欧州でも響くのか―――
娘の友達

娘の友達

家庭では「父親」として、会社では「係長」として、「理想的な自分」を演じるように生きてきた主人公・晃介。だが、娘の友達である美少女・古都との出会いにより、彼の人生は180度変化する。社会的には「決して抱いてはいけない感情」に支配されながらも、古都の前では自己を開放でき、社会の中で疲弊した心は癒やされていく……。「社会」のために「自己」を殺す現代社会へ鋭く切り込む、背徳のサスペンスが幕を開ける。
受け入れられないぶん祈りたいにコメントする