スマイリー 服部未定
「架空戦記」でもあり「歴史」でもある
アルキメデスの大戦 三田紀房
極上の「負」のカタルシスだった。
日本が第二次大戦に突入しそして敗戦するまでを描いた戦記モノで、架空の天才軍人・櫂直(かいただし)が明晰な頭脳と冷静な分析によって開戦を、ひいては敗戦を回避すべく孤軍奮闘する話。
犠牲を払いながら手を尽くしても戦争へ突き進む軍部を止められず、事態は坂を転がり落ちるように悪化の一途をたどっていく。巻数にして30巻を超える長い長い無力感と喪失感を味わいながら、物語終盤ミッドウェー海戦で惨敗、櫂は軍を離れ、そのまま終戦、東京裁判を経て完結へ。
勝利も復讐も俺TUEEEも、およそ快感と呼べるものを与えられないまま、ずっとしんどい思いをしながら読み続けることになるものの、読後感は不思議と悪くない。むしろ心地よいまである。なぜか。
「いわんこっちゃない!」と叫びたくなるような負の感情のカタルシスの連続、喪失感、破壊(と再生)、櫂の決意と忠誠、わずかな希望……。一言であらわすなら、「大人の味すぎる娯楽」って感じ。
映画化されたこの「アルキメデスの大戦」ですが、原作を読んでいなかったので映画を観るのを見送ってしまいました。しかし、今回無料キャンペーンで1~3巻を読ませて貰い、単なる数学者がその知能を以って大型戦艦(大和)建造を阻止する物語ではなく、海軍内部事情(派閥問題)や国際情勢も踏まえた、私の様な爺さんにも読むに堪えられる漫画であると知りました。この無料の試読にまんまと嵌められ、全巻大人買いをしたくなった事を正直に認めます。