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個人的に、土田世紀作品の中でも、心えぐるものとして「同じ月を見ている」と同等かそれ以上の本作。
もはや紙書籍が流通していないので、電子書籍が頼みの綱でしたが、愛蔵版として再配信されたことを本当に嬉しく思います。
洋の東西、メディアを問わず「生きること」をテーマにした作品は数あれど、これほど濃度こく煮詰めた作品はないでしょう。
絵に描いたような幸せ夫婦に訪れる不幸の数々。
子供を求めては幾度も失い、あげく妻が癌に侵され「自分は何のために生きているのか?」を問う姿。
なりふりかまわず努力しても、命がけで祈っても、何一つ報われない無力感。
生々しい感情や絶望は、読んでいて悲しいとか苦しいなんて言葉では表せない、脳でも処理できない、魂レベルで慟哭します。
書き手も命削って書いているとしか思えないです。
「生きることに意味なんてない」と主治医から一つの答えがでます。
だから、1日1日を懸命に生きるべきなのだと。
当時、自分もこの考えに非常に共感しました。
泣いたり笑ったり色々あるけど、生きることが好きだから生きる。
そこに意味はないのです。あっても、後付けでしかないのです。
ただの悲劇に終わらせない底力がこの作品にはあります。
読んだ時代、年齢で違ったことを考えさせられるので、チープな言葉ですが「名作」とはこういう作品をいうのでしょう。