天

福本先生の魅力と成長が詰まった代表作

天 福本伸行
完兀
完兀
「初期の作品にはその人の要素が全て詰め込まれている」なんて話を聞いたことがある。 反例がいくらでも出てくる主張だが、比較的合致する例だってある。福本先生の場合、この「天」が合致するだろう。 人情話、ピカレスクロマン、極限勝負下の心理描写、緻密な勝負を構成する理による駆け引き、勝負を制する理の守破離、そして福本先生による人生哲学… 面白いと評される福本先生の要素が、ほぼ全て詰め込まれていると思われる。欠けているのは敗者の悲惨な末路描写と格闘描写ぐらいだろうか(ただしバイオレンスシーンなら天にもある)。 成長も詰め込まれている。絵の成長、演出の成長、話の構成の成長も魅力的なキャラ描写の成長も全てある。初期~中期の福本先生と共にあった漫画なんだからそれは当然なわけだが… そういった点で、天を軸に他の同時期作品と並読するのも面白い。 ただし、葬式編からは並読はできない。読んでいて涙がぼろぼろ出てしまうあの最終章に、横槍は禁物だ。       この漫画には、私がどうしても取り上げたくなる一節がある。 あまり顧みられることのない、ともすればあまり触れないでおこうみたいな風潮もみられる最初期赤木の、印象的なセリフだ。 私はそれを、作者による自己言及も含んだ創作論だと勝手に思い込んでいる。 というわけで、独断と偏見に基づいて私的解釈によるセリフ改変を傲慢にも以下に記す。     『お前この世で一番うまいもの何だか知ってるか? たとえば漫画だ…世の中には頓狂な奴がいてよ こんなラチのあかねえ娯楽に… 自分の分こえた代価 人生さえ賭けちまう奴もいるのさ…… まあそんな奴だから… 頭は悪いんだけど…… 描きたい気持ちはスゲェーもんだ… 後のない…勝負処での大事な一作に バカはバカなりに必死さ… 持てる全知全能をかけて描き上げる 決断して そして躊躇して それでもやっぱりこれしかない……て そりゃもうほとんど 自分の魂を切るように描く漫画があるんだよ その魂の乗った漫画 そういう漫画を読むこと…… それはまるで人の心を喰らうようだ… この世じゃ人の心が一番うまいんだ……』
天

が…ダメッ…!

天 福本伸行
酒チャビン
酒チャビン
個人的には福本先生の最高傑作だと思います。それまであまり売れてなかったらしいのですが、この作品でブレイクを果たしたそうですね。さもありなん。傑作です。 序盤は今の作風からするとなぜなのかというありがちな人情ものなのです。「しろうとのたけし軍団相手に本気でホームランかっとばしちゃうヤクルトの大杉です」などギャグも豊富に出てきます。 ですが、2〜3巻くらいから初期カイジとかアカギっぽいビリビリした勝負ものの感じが出てきます。 最後16〜18巻はなんと麻雀なし(注:近代麻雀掲載マンガです)。が…そこが特に素晴らしいです。アカギの某選択をめぐって「生きるとは」というテーマを深く抉ります。メッセージ性もあり、すごくよかったと思います。 ちなみに「アカギ」という作品は本作からのスピンオフです。本作では50過ぎの一線からは退いたジジイで、初登場時は目の下のたるみもやばいのですが、切れ味は衰えてません。「オレのアンコはそこにある」など名言も多数です。 もしカイジしか読んだことないよって方は、絶対に読んだ方がいいと思います。ハンチョウしか読んだことないよって方は、やめた方が無難だと思います。
新黒沢 最強伝説

ごくごく一部の人にはおすすめできる続編漫画

新黒沢 最強伝説 福本伸行
完兀
完兀
個人的評価☆1の新黒沢、正直わざわざ読む漫画ではない。 ハッキリ言って、名作と呼ぶにふさわしい前作に泥を塗った長大な蛇足だ。これを読むのは(ベクトルと所要時間が違うが)最強伝説仲根を読むのと同じぐらいつらい。もっとわかりやすく言えば、賭博黙示録カイジの後に(破壊録堕天録等々をすっ飛ばして)直接の続編として24億円脱出編が来るぐらいつらい。 しかし私はごく一部の人にはおすすめだと思う。 その理由は愛生流影の大黒柱にして中盤以降立ちはだかり続ける敵役、神林春樹の存在にある。 実にチンケで不快な手強さが特徴的悪役の彼だが、読んでいて「福本キャラ」のニオイを感じることができる。 恐らくは神林が全福本作品で最後の「生きた福本キャラ」、「福本伸行先生との距離が近いキャラ」になるだろう。彼の言動には作者の血が通っていると私は感じた。 逆に言えば、作者の血が通った福本キャラは神林を最後に消えてしまった。私見だが、最近の福本漫画には舞台装置または客観的観察対象としてのキャラしかいない。 つまり以上のような独断と偏見に満ちた福本漫画ファン視点からの資料的価値が神林、もとい新黒沢にはあり、この漫画がおすすめできるのはこの口コミに賛同できるか、口コミに騙されても寛容な精神で許してやろうじゃないかと言える人ぐらいに限られると思う次第である。 いるかっ…!そんな人間…!