2年ぶりに7巻が出た。にコメントする
バーナード嬢曰く。
人は何のために本を読むのか?
バーナード嬢曰く。 施川ユウキ
名無し
僕は本当に長いこと「知的キャラってモテんじゃね?」と思っていました。勘違いです。本当に勘違いでした。なんでこのような勘違いをしてしまったのか、おそらく『幽☆遊☆白書』の蔵馬がみんな悪いように思います。そのような誤った情報に基づいた僕の青春は、それはそれは暗いものでした。読めもしない難しそうな本をこれ見よがしに振り回していたのを思い出すたびに叫びだしたくなります。一番恐ろしいのは、その性質今でも変わっていないことです。家の本棚には綺麗なままの『薔薇の名前』(ウンベルト・エーコ)がささっています(さり気なく書名、著者名をアピールするのもいやらしくてポイント高いですね)。  そんな自意識過剰気味な自称読書家を主題に描かれる『バーナード嬢曰く。』です。図書室の片隅でいつも難しそうな本を読んでいる女子高生。彼女は自分のことを「バーナード嬢って呼んで」と言うような変わった少女です。バーナード嬢(通称:ド嬢)が本を読むのは人前でだけです、自分を読書家キャラに見せたいのです。ド嬢は常に、読まずに通ぶれないかばかりを考えていて、ド嬢のことが気になる遠藤や、SF好きな神林しおりに突っ込まれています。  ド嬢と違って神林しおりは本当にSF好きらしく、一度スイッチが入ってしまうと延々と自身の見解について述べてしまいます。ド嬢が無邪気に「SFって何?」と聞いただけで逆ギレしてしまうのは、さもありなんとしか言いようがありません。  『バーナード嬢曰く。』を読んでいると、一体人は何のために本を読むのか?ということを考えてしまいます。勿論、読みたいから読むのですが、その選択には少しだけ「こうなりたい自分」があるように思います。自分の家の、手にも取らない本の背を見ていると、何もしないで何者かになりたかった自分を再発見します。それはド嬢も一緒です。だから、ド嬢のグダグダな図書室での毎日が楽しく見えるのです。
どくだみの花咲くころ
言葉が無粋になる少年たちの情緒と創作 #1巻応援
どくだみの花咲くころ
兎来栄寿
兎来栄寿
筆者の城戸志保さんは2020年に安野モヨコさんの「ANNORMAL展」を見て触発されて描いたのがこの作品だそうですが、2022年の10月に四季賞でその安野さんより「絵柄やセリフ・エピソードの選び方に独創的なセンスを感じる」「無造作な美しさが個性であり武器」と講評を受け、そして大賞を受賞。そして連載化して、今日単行本1巻が発売と創作が人の心に及ぼす素敵な連鎖を感じさせてくれます。 安野さんが指摘する通り、この物語の人物の配置は少し特殊です。癇癪持ちで怖い噂もあり関わりにくい信楽くんという問題児の存在と対置される主人公の優等生・清水くんは、一般的にはマジョリティ的感性から信楽くんに戸惑う普通の人物として描かれることが多いでしょう。しかし、清水くんは勉強も運動もできるにも関わらず、お金持ちの家の息子としてやや感性が庶民からズレており、言動も信楽くんに負けず劣らず危うく突飛なところがある少年として描かれます。 そして、何より大事なのは清水くんだけが信楽くんの創り出すものに心酔し、信楽くんに神聖性を見出すところです。他の誰も知らない、世界で自分だけが知っているダイヤモンドの原石のように。狂信的になる清水くんの気持ちも、とても解ります。 清水くんは冒頭で ″俺は自覚なく信楽くんを傷つけるだろうし そうなったら信楽くんがどうなるのかわからない それはいやだ″ と客観的な視点からの自覚を持っているのですが、その気持ちの大きさ故にとてつもなく不器用になって暴走してしまうところも痛々しいほどに解ります。子供のころなんて自分の感情を上手く表現できなくて当たり前ですし、それ故に失敗することも多々ありますが、ままならない情動に苦しむ信楽くんも含めてそんな淡く苦い記憶を呼び覚まされるようです。 人間が誰か特定の個人と結びつくのはそれだけでも貴重ですが、それが双方向的に圧倒的に強く結びつく瞬間というのは、奇跡と呼んでも差し支えないものです。そんな言葉では表せない奇跡の眩いばかりの尊さが、この物語では描かれていて惹かれます。 湿った日陰で育ち、生臭い魚のような臭いから魚腥草とも呼ばれ、海外でもfish herb・fish mint・fish wortなどとも呼ばれるどくだみ。その花言葉は、「白い追憶」「自己犠牲」「野生」。仄暗さと高潔さ、危うさを含む他者との関係性と激しさが同居するようなそれらは、この作品全体のイメージとしてどくだみは非常に合っているように感じます。 ジャリジャリのミロや、アスパラのエピソードなど、独特の感性から描き出されるひとつひとつの要素も印象的です。 果たして、彼らの関係性や未来はどのようになっていくのか。言葉では何とも言い表し切れない強い魅力が随所にあり、今目が離せない物語です。 余談1 信楽、清水、瀬戸、伊賀、砥部、美濃、九谷、小鹿田、壺屋など、登場人物の多くは焼物から名前が取られています。作っては微細なコンディションの差で失敗し、壊してまた作り直す焼物もまた本作において象徴的な存在と言えるのかもしれません。 余談2 2話の最初で、教室の後ろに掲示されている書が「一意専心」はともかく「鬼手仏心」は趣深いです。九谷さんの「魁」書道バッグも好きです。
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