お笑い芸人における相方という特殊で特別な関係性もさまざまな作品で見るようになって久しいですが、少女マンガで好き合う者同士の物語が時代を越えてさまざまなシチュエーションや設定の下に無数に存在することを考えれば、コンビ芸人の物語も無数にあって然るべきでしょう。

本作は、ちょっと特殊ないきさつでコンビを結成することになったふたりの芸人としての日常を描いた微BLストーリー4コマです。

常在戦場、日常生活からボケとツッコミが溢れていてシンプルに笑えます。最初こそやや強引ですが、それが段々馴染んできた後に出てくる味は非常に良いです。カリカチュアライズされている部分はありますが、芯はしっかり捉えている印象です。BL要素もおつまみ程度で、ギャグ要素の方が強いので普段BLを読まない男性でも楽しく読めることでしょう。

徐々に進行していくM-1がモデルになっているであろう大型大会であったり、割と強火の推しであることを自覚していないもののギャルファンとの絡みにイラっとする自分を見付け承認欲求の暴走に悩む女性ファン視点のお話もあったりと、多角的に現代の芸人像が描かれます。昨年のM-1覇者であるウエストランドを髣髴とさせるような、SNSで漫才のネタを批評する人たちを扱ったネタも。

「寝起き即プリンセス芸できんの何?」
「″神″を図形ツールで作んなよ」
辺りのツッコミが個人的に大好きです。

一方で、
「人生の漫才以外の部分は相方じゃない
 でも どんな関係になっても舞台上には二人だけだ」
というシリアス部の本質を突いたモノローグも印象的です。

同じく本日発売の『死にかけた僕はまだ芸人を辞めていない』と併せて読むことで面白さが相乗します。本当はもっと厳しいリアルがある世界でしょうけど、劇場での楽しい夢のような時間を切り取って提示してくれるこの作品も、それはそれで尊いものです。作者のお笑いと芸人への愛を感じる作品です。

1冊完結ですが、もっともっとずっと浸っていたい空気感でした。

読みたい
キメねこの薬図鑑
数gで宇宙や神へと至る物質 #1巻応援
キメねこの薬図鑑
兎来栄寿
兎来栄寿
SNSで大人気のキメねこさんによる、自称「卓越した道徳的書物」。表現の自由の極北を驀進していく1冊です。 大麻やLSDから始まり、さまざまな合法市販薬から海外で売られているキノコや薬物などの詳細なレポートマンガ、また自身が逮捕された際の留置場生活のレポートマンガなどが盛り込まれた内容です。フィクションで実在のものとは関係ないとのことですが、良い子のお友だちは真似しないでくださいね。 担当編集は『地元最高!』、『ゴールデンドロップ』、『ごくちゅう!』などでもお馴染みの草下シンヤさんということからで、内容とクオリティについては一定の安心感が生まれます。 かわいいフルカラーの絵でありながらリアルに描かれるさまざまな薬物やその使用レポート、世界の見え方の変容などはマンガという媒体の長所を生かし切っており、視覚的に解りやすく描かれています。自分と世界の区別がつかなくなるさま、音が見えたり味が輝いたりするさま、幻視や幻覚、圧倒的感謝……。 幾何学的模様が見えてくるのは、自然界において存在する黄金比のように視覚野と生命科学が生む美しい秩序であるという節などは、なるほどと得心しました。 ″神への直通回線″と呼ばれる宇宙最強の幻覚剤「アヤワスカ」など、自分では絶対に使いたくはないものの好奇心はそそられる対象についても詳述されていき面白いです。 「TDLでLSD」 「真昼のエレクトリカルパレード」 「★大麻(ガンジャ)に感謝――――――!!」 「成人は4錠、しかし聖人であれば20錠以上は飲んでおきたい」 などなど言語感覚の良さに笑わされてしまうところも多々。 他方で、 「存在するのは、毒だと分かっていても、刹那的な夢を見ようとして、取り憑かれ、堕落してしまう人間の悲しき性だけである」 といった名文もあり、さまざまな味わい深さがあります。 『ミッドサマー』のトリップ描写は解像度がとても高く正確、などの普通に生きている上ではまず見聞きしない類の情報に溢れており、普段刺激されない部分を刺激してくれます。 「絵描きの不幸はある意味で幸いである なぜなら漫画の出力を誘うためだ」 で始まる、大麻取締法違反で逮捕された際の モノクロで描かれる留置場レポートも面白く、作者のエッセイ系マンガの上手さを感じさせられます。いえ、フィクションだそうですけどね。 「ここが留置場かぁ〜  テーマパークに来たみたいだぜー」 と野原ひろしになってる場合ではない、とツッコミを入れたくなるところや 「今ち◯かわってどうなってる?」 「ち◯かわも牢屋入ってるよ」 といった会話にも笑わせられました。 終盤で出てくる、普通に生きるのには向いていなかった筆者が語る 「創作の世界だけは人格的な部分にとらわれず  最終的な成果物のみで評価してもらえる  極楽浄土です」 という言葉は胸に残りました。 大麻の合法化についてはさまざまな議論もありながら、世界的な潮流としては合法化される国が増えてきていることも言及されています。まともな議論の土台となる知識を得ようとしても、日本では違法であるためまずその第一歩が難しい状況にはあり、そういったときにこうした作品の存在がその一助になることはあろうと思います。
ごみをひろう
ゴミが付着した缶やペットボトルはリサイクルできるのか? #1巻応援
ごみをひろう
兎来栄寿
兎来栄寿
「町田洋さんが新作マンガを描かれている」 その事実だけで世界の彩度が上がるような、祝福を覚えるような心持ちになります。 Kindle限定で突如発売された、この新作『ごみをひろう』は「ごみひろいを描く連作シリーズ」ということだそうです。 1P目からいきなり想像上の妻(なぜか星の見えるソファの上で歯ブラシを持っている)と会話を始める辺りの幻想感がとても町田洋さんらしいのですが、読み進めると思った以上に実務的な内容でした。 恐らく、皆さんも疑問に感じたことがあるのではないかと思います。汚れやゴミが付いてしまっていたり、飲み残しがあったりする缶やビンやペットボトルは、どこまでを資源ゴミとして出してどこからを燃えないゴミとすればいいのか。ふせん、シールの台紙、ねぎのテープはそれぞれ何ゴミに分別すべきなのか。 想像上の妻のように気にしない人はまったく気にしないであろうもの。しかし、気になる人はとことん気になるであろう事柄。 自治体によっても違いがあるのでこれが絶対という訳ではないですが、一度調べて子供とこうした境界線上にあるものをクイズ形式で検討し合ってみたら、良い学びの機会になりそうだなと思いました。 人が活動する場所では必ずゴミは生じ、美しい景色は何もせずには保てず誰かがごみを拾ったり掃除をしたりして綺麗になっている。それは当たり前にやられていても決して当たり前のことでなく、価値ある尊い営為であるということを静かに語りかけていってくれます。こうした人によってはまったく気にも留めない世界の片隅に向けられる眼差し、そこから情緒豊かに掬い語る様は、町田洋さんの素敵なところです。
奏のララ
陽ギャルミーツ陰ボーイ&絵画 #1巻応援
奏のララ
兎来栄寿
兎来栄寿
近年も「ギャル」という存在は大人気ですが、ギャルが持ち前のスーパーポジティブさと激高コミュ力によって、普通ならコミュニケーションを図るときに存在する壁をいとも容易く瓦解させ突破していくところは爽快ですよね。そして、触れ合った者にもその陽の気を与えていくところもまた強く、物語創作においても徴用されるのもむべなるかな。 本作は、『漫画的展開で彼をオトしたい!』の西宮瑠花さんが新たに描く、ギャル×天才陰キャ少年×絵画な物語です。 この作品の主人公ララも、非常に良いギャルっぷりを見せてくれます。高校入学1ヶ月で数学の授業を落とす直前まで行っている不真面目さ加減は見せつつも、心根は優しく明るい良いギャルです。すっぴん時にはパッとしない容姿が、化粧によってバチバチに盛れるのもある種リアルです。 そんなララが、同じ学校でありながら偏差値が40も離れた芸術科で絵を描く天才・奏(かなで)に出逢うことで運命の輪が転回を始めます。奏の絵に一目惚れして、まったく未経験ながら自分も絵を描くことを始めてみようとするララ。そして、ララという最高のモチーフにして、自分を全肯定してくれる無二の存在に初めて出逢った陰の者の奏。彼らが織りなすインパクトの強いハーモニーが、胸を高鳴らせてくれます。 「サイコミといえば毒親」というくらい、サイコミ作品の主人公たちは毒親に苦しめられていることが多いのですが、本作のララのお母さんは珍しく良い意味でこの親にしてこの子ありと言えるものすごく良いお母さんです。絵を描き始めようとしたララは周囲からさまざまな理由で反対されたり難色を示されたりしますが、そんな中でも慰めて明るく励まして応援してくれる母親の姿はサイコミでは非常に珍しくて思わず感激してしまいました。その分、奏の方の家庭がいろいろと複雑ではあるのですが……。 西宮さんの画力の高さでキャラクターの魅力が引き立っていますし、また物語的にも絵に一目惚れしたというエピソードが視覚的に否応なく納得感を生んでくれてララに同調できます。好きなものを見つけて、本気で取り組んでみる瞬間は大切で美しいもの。人によっては否定するかもしれませんが、これくらいのきっかけだって全然良いですよね。 必死に努力しても届かないものに、軽い気持ちで手を出そうとするララのことが気に食わない委員長の篠原ゆりこさんや、奏の弟の春を始めサブキャラクターも味があり、主軸のふたりを含め彼らがどのようになっていくのか今後も楽しみです。 なお、1巻巻末のゴールデンレトリバーちゃんもかわいいです。
INOZ -55歳から歩いて作る日本地図-
伊能忠敬と高橋至時 #1巻応援
INOZ -55歳から歩いて作る日本地図-
兎来栄寿
兎来栄寿
小学生のころ好きな歴史上の人物をひとり選んでレポートを書くという授業があり、織田信長や徳川家康などに人気が集中する中で私が選んだのは伊能忠敬でした。 55歳から自分の脚で日本全土を歩いて測量し、当時としては途轍もない高品質な地図を完成させたというなかなか真似できない偉業に、私は惚れ込んでいました。そのころにこのマンガがあったら、絶対に喜び勇んで読んでいただろうなと思います。『猛き黄金の国 伊能忠敬』や『大河への道』など、近年伊能忠敬への注目度が高いのは嬉しいです。 『病室で念仏を唱えないでください』や『HANAGATA』のこやす珠世さんが描く本作は、齢50を目前に控えた忠敬が家業や村の仕事を引退してずっと学びたかった暦学の道へ進もうというところから始まります。 そんな忠敬の下にやってくるのが、素性の知れない、しかし忠敬を驚かす鳥瞰画を描く才能を持った青年の空。人情に厚い忠敬は、彼と共に第二の人生の幕を開いていきます。 言うまでもなく、江戸時代は今よりも平均寿命が短いです。そんな中で50歳から新しい物事を本格的に始めるというのは、容易いことではなかったでしょう。しかし、情熱や信念がそういったハードルを越えさせていくのもまた人間。余命が長くなって時間を持て余す人が多くなったであろう現代こそ、この忠敬の生き様がより響く時代になったと言えるかもしれません。 ときに頑迷固陋なところもありますが、根本にある伊能家の高潔な家訓によって育まれたであろう優しさや精神性、未知への探究心を全開にするところに忠敬の味わい深い人間としての魅力を感じさせてくれます。それは、私がかつて忠敬に抱いていたイメージにとても近いです。 忠敬ほどの知名度はないものの、忠敬が師事した極めて重要な人物である高橋至時(東岡)も登場。 https://x.com/darumaym/status/1729828197875826805?s=46&t=S5wm4E-TmT39NBg4BgQsPA 松浦だるまさんの願いも届いた感じですね。 タイトルの「伊能図」、「大日本沿海輿地全図」を完成させた高橋景保の親にあたる人物であり、彼らの測量事業が本格化していく今後の展開がとても楽しみです。 暦学や測量の歴史を読みながら楽しく学んでいける物語です。こちらも巻数を重ねていけば実写化なども期待されますし、その意義もある作品であると思います。
神血の救世主~0.00000001%を引き当て最強へ~
LINEマンガNo.1作品が単行本化! #1巻応援
神血の救世主~0.00000001%を引き当て最強へ~
兎来栄寿
兎来栄寿
元々は漫画家向けのさまざまなサービスを行ってきたナンバーナインが、社運を賭け全力で送り出してきたオリジナルWebtoon。『終極エンゲージ』や『鉄輪のカゲ・ルイ』の江藤俊司さんが原作を務める作品です。 今年の1月には月間の売上が1億円を超え、LINEマンガにおけるview数も累計1億viewを突破し、現在快進撃を続けている作品です。近い将来にアニメ化などもされ、ますますブレイクしていくのではないでしょうか。 個人的に中の方々との関係値が深いこともあり始まったときから応援してきているのですが、ここでは忌憚なき意見を述べたいと思います。 まず、率直に言って本作は面白いです。ただ、今回発売した単行本1巻の範囲では、今後の展開への期待を煽るカットバックや世界観の説明がある原作の1話がない上に、まだヒロインも登場していないこともあって作品の魅力が十分に伝わり切らないと思います。特に序盤はいわゆるWebtoonやなろう系にありがちな設定のテンプレート的な展開ですし、正直に言って新鮮味もそこまでありません。最初にこの単行本だけを渡され読んだ場合、「イマイチかな~」とそこで読むのを止めてしまうことも大いに有り得るでしょう。それは少しもったいないです。 この『神血の救世主』は、黄金級プレイヤーたちがその力と魅力を振るい始める20話くらいまではまず読んでみて欲しいと思います。LINEマンガでは2、3日でそこまでは無料でも読めるでしょう。『聖闘士星矢』も黄金聖闘士が出てから、『鬼滅の刃』も柱が出てから、すなわち魅力的なサブキャラクターたちが複数登場してから人気がより強固なものになっていきました。まずそこまで読んで楽しめるようであれば、そこから先はさらに面白さが加速していきます。 私は江藤さんの外連味溢れる厨二病感や、王道展開の中でも意外性を持たせて強い引きを作る部分が好きで信頼しています。そういった面は、後からどんどん強まって登場してきて、大いに作品の魅力として発揮されていきます。江藤さんが初めて挑むWebtoonというフォーマットでありながら、そこに上手くアジャストしながら持ち味を活かしていこうという工夫も随所に見て取れ、従来のWebtoonにはなかった国産Webtoonとしてできることを実験している部分も今後の作品の可能性の拡張に繋がっていく価値ある挑戦だと思います。 王道的バトルファンタジーとしての要素をしっかり踏襲し、段階的にカタルシスがありながら、キャラクターも魅力的。国産Webtoonのベンチマークとして今後も注目され続けていくであろう作品ですので、この機会に読んでみてはいかがでしょうか。 余談ですが、私個人は買うときにマンガの値段を気にすることはまずありませんが、この価格だと特に小中高生にとっては高価に感じられ購入を躊躇ってしまうであろうことは否めません。単行本の価格は近年紙や印刷代、運送費用も高騰しているので軒並み高くなってきているという事情は承知しています。フルカラーだとこのくらいの値段になってしまうのも重々解ります。ただその上で、せめて電子版だけでももう少し安く設定してもらうか、あるいは単行本でしか読めない巻末のおまけを更に充実させるなどがあると良いなと思います。
ダメ人間の愛しかた
昏い瞳からの罵倒と抱擁で脳破壊 #1巻応援
ダメ人間の愛しかた
兎来栄寿
兎来栄寿
SNSでも度々バズって大人気のヒズミさんとシンバくんによる「ダメ人間と付き合ってくれる彼女」シリーズが商業連載になり、遂に単行本として発売されました。 そして、その際にボイスコミックでヒズミさんの声を早見沙織さんが当てるというあまりにも正鵠を射たキャスティング。原作だけでも脳が破壊される人は多かったと思いますが、早見さんの声が掛け合わされたことによって恐るべき大量破壊兵器が誕生してしまいました。 https://x.com/iwabajunki06/status/1793554273625886989?s=46&t=S5wm4E-TmT39NBg4BgQsPA 原作だけでも、ダメ男の自覚的・無自覚的なところを引っくるめてダメな部分を詳らかに巧みに言語化して、罵り詰った上で全肯定して包み込んでくれる鞭と飴、痛みと快感の交互浴に脳を焼かれ、破壊される人が続出していたこのシリーズ。 ゲーセンデートとは名ばかりで彼女を後ろに立たせてひとりでゲームをしてドヤ顔していたり、相手が解らないのにTwitterの話ばかりしてしまったり、現実にもありがちなダメ男ムーブは私の周囲でも刺されていた人がたくさんいました。現実にはこんな素敵な女性はまずいないのですが、この作品を通して触れられたくない部分に触れられる痛みを味わって、正してくれる人もいなかった人も正され成長する人も少なからずいると思うと、ある意味社会福祉的な面もある作品であると思います。 何より、すべてにおいて岩葉さんの描く美しく闇のあるヒズミさんの表情が最高すぎるんですよね。ハイライトの失せた、泣きぼくろのある瞳があまりにも強すぎて。恐ろしく深い、抜け出せない沼の顕現のような。昨今の黒髪ロングストレートヒロインの中でも異端で極北に位置する存在ですが、それがいい。 岩葉さんは、「人形の街/第1回 U23ジャンプWEBマンガ賞」であったりたまに描かれる絵であったりを見る限り、本質的にはもっとダーク寄りの方だと思うんです。サンホラなどがお好きなのも解釈一致すぎます。しかし、『ダメ人間の愛しかた』はその闇の部分を上手くオブラートに包んで、甘さをコーティングすることによってマスの支持を受けられる内容になっている奇跡的なバランスを感じます。 シンバくんは、あくまでダメ男ではあってもクズではないというのがポイントで、本質的には優しく上昇志向がありながらも、外的な要因によって壊されそれがなせてこなかった人物です。一方でヒズミさんは、美人で仕事もゲームも何でも卒なくこなせる器用さもありながら、自分が写真に撮られるのは嫌いであるなど自己肯定感の低さを感じさせてくれる人物です。そんなヒズミさんが、なぜここまでダメなシンバくんを溺愛してくれるのか。 既にそういった片鱗も垣間見えていますが、シンバくんを救うようでシンバくんに救われているヒズミさんという、根源的なところで絶対に自分を否定しない相手との闇深く依存性の高い関係に見えながら、現代社会の傷ついた人に寄り添う物語としての在り方も感じさせてくれます。 ヒズミさんの容赦のない心ごと一刀両断する妖刀のように鋭い言の葉に抉られ昏い快楽に酔い痴れながら、彼らの関係性がどこに帰着するのか楽しみに見守りましょう。 罵られたいダメ人間の方、自覚していなかったけど異様にこの作品の言葉に心が動かされる方、思わずダメ人間を愛してしまう方、さまざまな方に深々と刺さる作品です。
てくてくっ!秘密リサーチ
暗渠! トマソン! 城址! #1巻応援
てくてくっ!秘密リサーチ
兎来栄寿
兎来栄寿
弊社のCEOは暗渠が好きなのですが、伴侶の方も暗渠が好きで暗渠デートをして絆を深めたと聞いて、とても良い話だなあと思いました。私も遺跡や遺構などは大好きですし、古地図を見るのも好きなので。 そんなタイプの人間としては注目せざるを得ない作品がきららから誕生しました。 この『てくてくっ!秘密リサーチ』は、第1話の1版最初のナレーションがまさに「暗渠」から始まる濃厚な作品となっています。マンガイントロクイズで「暗渠……」と聞こえてきたら「『てくてくっ!秘密リサーチ』」と答えましょう。 主人公の日出(ひので)ひぐれは、「ひぐれウォークちゃんねる」というチャンネルでさまざまなテーマでいろいろな場所を訪れ動画化して投稿するという活動をしている女の子。探訪先でさまざまな出逢いもありつつ、楽しいフィールドワークをしていく作品です。 具体的には2話目が「超芸術トマソン」、3話目が「城址」といった具合で、それぞれ単体でもマンガになるようなテーマであり好きな人にはたまらないものでしょう。すかい、マリン、たからなど、賑やかでかわいいメンバーも交えて、楽しみながらさまざまな知識が身についていきます。 現在、虎杖や宿儺たちが死闘を繰り広げ破壊の限りを尽くしている都庁周辺はどのような成り立ちで、どんなものの跡地に作られたのかや、都心の未成道や大阪梅田の世界初の連結超高層ビルについてなどなど。 鉄道好きの方は、原初の新橋が描かれる「鉄道の日」のエピソードなども楽しいでしょう。 巻末には「令和年間 舞臺探訪地圖(舞台探訪地図)」というおまけまであり、聖地巡礼をしたい方にはぴったりです。実際、作中で描かれる背景やオブジェクトなどは4コマでありながら非常に写実的でリアルに描かれているので、聖地就労者から見ても聖地巡礼欲を喚起してくれるものとなっています。 歴史や地理の勉強をするときも、こうした身近なところと結びつくものを絡めて学ぶとより楽しめて良いと思います。フィールドワークの楽しさに触れてみたい方、上記に出てくる単語郡にピンとくる方にお薦めです。
室外機室 ちょめ短編集
才気煥発の短編集 #1巻応援
室外機室 ちょめ短編集
兎来栄寿
兎来栄寿
今週末はコミティア148が開催ですね。 そのコミティアでかねてから一部のマンガ読みに注目を浴び賞賛されていた、室外機室のちょめさんの初の商業本が短編集となって発売されました。 表紙だけでも一目瞭然な、緻密な描き込みによって構築される独自の世界観。 目次を兼ねた描き下ろしの「序」から何と瀟洒なことでしょうか。 本編は 「継ぎ穂」 「21gの冒険」 「混信」 「地下図書探検譚」 の4つで構成され、最後に「〆」でまとめられます。 「継ぎ穂」は、それこそ同人即売会に参加したことがある人であれば強い共感を抱きながら、その展開にワクワクしてしまうであろうお話です。試し読みでこちらは全編が公開されているので、こちらを読んで本を買うか決めても良いでしょう。 ひと匙のファンタジーが注がれた、本や物語にまつわる物語を嫌いなはずがありません。 表紙にもなっている「21gの冒険」は、夢で空を飛ぶときのような感覚を思い出させてくれます。夢の中での飛行は、随意に飛び回れるというよりは上昇と滑空を繰り返しコントロールが難しいことが多いのですが、そのときのままならないGを感じるかのようです。 論理的な部分と非論理的な部分が入り混じっているのも夢の中のような感覚を増幅させます。 終盤の表情がとても良く、もたらされる読後感が何とも言えません。 「混信」は、作業BGMとして流していたラジオから現実に存在しない固有名詞や事件を述べる放送が定期的になされる、少し不思議なお話です。 もしかしたら、同じ宇宙のどこかから届いているのかもしれないし、並行世界のどこかから届いているのかもしれない。 ラジオという本来はインタラクティブなメディアが一方通行になっているという構造はメタ的で、現実の人間も意識して届けようとしていない人にも生きているだけでさまざまな影響を与え、また与えられていることに思いを馳せます。 最後に発される切実な言葉も含めて『CROSS†CHANNEL』を思わせるものもありました。つまり、好きです。 「地下図書館探検譚」も、扉絵だけでワクワクが止まらなくなる一篇です。 これもまた夢の世界に迷い込んだようなお話ですが、こちらはホラーやサスペンスの趣が強めに出ています。 入ってはいけない場所に入ってしまった禁忌を犯した感覚と、そもそもこの場所は一体何なのかという謎への好奇心が入り混じります。 本だらけの異空間には憧れを抱きますし、この物語の起点となる部分、好きです。 どうでもいいことですが、 「えぇいままよ!」 って実生活で使う機会はまずありませんが1回言ってみたいセリフです。 「序」を受けての「〆」で、まさに締めも完璧。1冊の短編集としてとても美しく完成されています。 こちらの短編集を読んで気に入った方は、webで読める「パティスリー・ヘクセン」もぜひ。 https://tonarinoyj.jp/episode/2550689798287081413
ふらりゲストハウス
ゲストハウスを巡る編集者 #1巻応援
ふらりゲストハウス
兎来栄寿
兎来栄寿
『くーねるまるた』の高尾じんぐさんの新作『おひゃくどまいり』と同時発売となった、2017〜2020年に『バーズ』や『comicブースト』で掲載された作品です。 マンガ編集者で日々激務をこなす主人公が、癒しを得る趣味として国内各地のゲストハウスを巡っていく作品です。 面白いのは、登場するゲストハウスはすべて実在するところとなっていて、その気になれば聖地巡礼も行ける仕様です。更に、単行本化にあたっては2024年5月現在の情報も記載されています。 3話に登場する泊まれる図書館のような「Book Tea Bed」は、麻布十番店は残念ながら閉店してしまったものの、渋谷・新宿御苑・伊豆大島にも展開されているなど。 それぞれの宿ごとに、そこにいる人々や施設の特色が強くあるので実際にいろいろなところを巡っている気分にもなれて楽しいです。 また、ゲストハウスといえば一期一会。初対面の外国人とも食事やお酒を介して楽しい交流をする一幕も。旅の魅力と共通する部分でもあり、良いなと思います。これが海外だと治安の面で警戒が必要になりますが、日本国内であれば女性ひとりであっても余程のところでなければ大丈夫だろうと思えます。逆に、もし海外の人がこの作品を読んだらこの治安の良さはファンタジーかと思われるかもしれません。 毎回出てくる、癖の強い漫画家たちのキャラクターも好きです。コロナ禍も挟まってしまい難しくなってしまった部分もあったのかもしれませんが、個人的にはもっともっと続いていろいろなゲストハウスや漫画家たちの苦悩を見てみたかったです。 ただ、普通の紙の単行本で出すには少しページ数が足らない作品を、こういった形で多少値段を下げて電子限定でも出してもらえるのは嬉しいです。 高尾じんぐさんのかわいい絵柄で、画的な情報量もちょうど良く読みやすいです。 いろんな場所や宿泊施設を巡るのが好きな方、編集者のお話が好きな方にお薦めします。
生きのびるための事務
人生を変える《事務》の捉え方・やり方 #1巻応援
生きのびるための事務
兎来栄寿
兎来栄寿
建築家で作家でアーティストの坂口恭平さん。マンガ好きにとっては『月刊スピリッツ』での連載のイメージも強いでしょうか。 そんな坂口恭平さんが、noteで執筆していた「生きのびるための事務」を『みちくさ日記』の道草晴子さんがコミカライズしたものがこちらです。 私は元のnote版を少し読んだ程度だったのですが、改めてこのコミカライズ版で通読すると本当に素晴らしい内容だなと感じると共に大きな勇気をもらえました。 皆さんは「事務」というとどういうイメージがあるでしょうか? 「メインの仕事とは別に存在する、やらねばならない多量の雑務」 「面倒くさいもの」 「堅苦しくて地味な仕事」 そんな風に捉えている人も少なくないと思います。かくいう私も、書類作成や確定申告などやりたくもない事務に時間と労力を割かねばならないのが辛く感じる人間です。しかし、この本を読むと「事務」というものの概念ががらりと変わります。 この書は、筆者が普通の就職はできず将来何をして良いのかも定まっていなかった大学4年生のときの筆者が、イマジナリーフレンドのジムを通してどうやって生きのびていけば良いのかを体得していった実体験を描いたものです。 家賃28000円の家に住み、日雇い仕事をして月給12万円ほどだった坂口さんが一体どのようにマインドと行動を変えて1000万円以上を稼ぎながら自由にやりたいことをして生活できるようになっていったのか。 ピカソやデュシャンなど、名だたるアーティストたちも事務をやりながら生きのびていっていたことに触れながら、 「≪事務≫こそが創造的な仕事を支える原点」 「≪事務≫は継続することでどんどん伸びていく」 「冒険があるところに≪事務≫がある」 「死ぬまで好きなことをやる続ける人生において、≪事務≫は好きとは何かを考える装置」 「会社設立は≪事務≫の中でも最高のブツ」 「やりたいことを最優先に即決で実行するために≪事務≫はある」 といったことを語っていきます。普通にイメージする事務とは、大分異なるのではないでしょうか。おおまかに言えば「スケジュール」と「お金」の管理こそが事務なのですが、それを具体的にどのように行なっていけば素晴らしい未来を切り拓いていけるのかが語られ、読んでいるだけでもワクワクします。 ジムは「イメージできることはすべて現実になる」と語りますが、私も他でもよく語られるその言葉は人生の指針のひとつでした。そして、そのイメージをどう具体化して実際の行動に移していくのか。そうしたところも実体験を通して非常に解りやすく記されています。 ・自己を肯定も否定もする必要はなくて、否定すべきは己が選んだ≪事務≫のやり方だけ ・才能というのは毎日やり続けられること ・≪将来の夢≫の前に≪将来の現実≫の具体的なヴィジョンを思い描き書き出し、≪将来の現実≫に楽しくないことは1秒も入れない といった部分も、とても共鳴します。 坂口さんは自身の電話番号を公開して(作中にも登場します)、自殺者を減らすための相談窓口「いのっちの電話」という活動も行っています。この本には、少々クセの強いところもありはしますが、それでもタイトルにある「生きのびるための」という部分が大きな意味を持つところもあります。文字通り、この本を読んだことで生きのびることができる人もきっといるはずです。 自分の好きなことだけをして生きていきたい人、将来何をして生きていけば良いのかわからない人にこの本が届いて欲しいです。すべては、≪事務≫のやり方で変えていけます。
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