氷が少しずつ溶かされていくにコメントする
氷の城壁【タテヨミ】

読んでみて良かった漫画!

氷の城壁【タテヨミ】 阿賀沢紅茶
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)
読み始めたら、ほどよい心地よさでずっと読み続けてしまうタイプの縦読みフルカラーマンガ。 中学時代にいろいろあったり、人と接するのが苦手な元々の性格も相まって高校に入ってから他人を拒絶してしまう主人公の氷川小雪ちゃん(通称:こゆん)。 求められる役割を演じて疲れてしまう幼馴染の活発な美少女・安曇美姫(あずみみき)。 ひょんなことから知り合ったイケメンでチャラくて冷めたとこもあるけどコミュ強でいいやつの雨宮湊(あまみやみなと)。美姫が中学時代に通っていた塾の友達で同じ学校に入った。 同じく塾の友達で現在同じ学校の背が高く気が優しい日野陽太。 クラスで孤立して目つきが悪いこともあって若干怖がられて距離を取られてることに居心地に良さを感じている「こゆん」と、陽キャで人気者の美姫はよく遊んでおり、とあることをきっかけに陽太と湊もその輪に入り、少しずつ仲良くなっていく。 そんな4人の「好き」の矢印や、抱えている過去や現在進行形の悩みやトラウマなどがゆっくり紐解かれてまたこじれて描かれていく青春模様がとても面白いです!! こゆんの作った他人との間に作った「氷の城壁」が溶けていく様子とそれぞれの変わりゆく関係が見どころ! こういう学園ものの漫画のキャラって属性とかステレオタイプなキャラにはめ込んで記号的になってしまうこともある(もちろんそれが良いときもある)と思うんですが、この作品はちゃんと一人一人のキャラクターがしっかり掘り下げられていて、読んでいるとそれぞれが意思を持った個人として浮き上がってきて、ちゃんと彼らの言葉で話して行動している感覚があって好きです。 一人一人の人格の解像度が高い。 『氷の城壁』は、個人で描いていたものがLINEでの公式連載になり、現在では集英社のマンガMeeでも掲載されているようですね。 https://manga.line.me/book/viewer?id=161f5cd9-dd8a-428d-ac4b-ce87e08fc47f 読んだきっかけは、ジャンプ+に掲載された読切『正反対な君と僕』でした。 https://shonenjumpplus.com/episode/13933686331787337964 読んだあとピュアなギャルと塩対応真面目系男子の恋に「おもしれー!」と思って作者の阿賀沢紅茶先生調べて、お!他で連載やってんじゃん!と、でも少女漫画っぽかったので普段あまり読んでないから少しだけ抵抗があってすぐには読めず、時間ができたときに読み始めてみたら、あれよあれよという間に一気に最新話まで読んでしまった!! 読切を読んで面白いと思ったんだから自分の感覚を信じてすぐにでも読んでおけばよかった…! あまり他の作品を引き合いにだすのもよくないかもしれませんが、僕がそうなので「ホリミヤ(堀さんと宮村くん)」のようなスクールライフを描いた雰囲気が好きな方は好きなんじゃないかなと思います! ぜひ!
佐藤史生 傑作短編集 夢喰い

少女マンガSFを進化させた名手の珠玉の傑作選 #1巻応援

佐藤史生 傑作短編集 夢喰い
兎来栄寿
兎来栄寿
『総特集 佐藤史生』と同時発売となった、佐藤史生さんの傑作選です。 代表作のひとつ「金星樹」から始まって、 「レギオン」 「阿呆船」 「夢喰い」 「バナナ・トリップに最良の日」 「羅陵王」 「塵の天使」 「一角獣にほほえみを」 の8つの物語が収録されています。 また、巻末にはデビュー前にスケッチブックに描いたものもいくつか掲載されています。 まったく佐藤史生さんに触れたことがないという人に、最初に渡す1冊としては非常に良いものでしょう。 石ノ森章太郎さんと同じ高校の出身で、水野英子さんの「星のたてごと」を小学生のころに読んだのが原点という佐藤史生さん。 『総特集 佐藤史生』の方では、いわゆる大泉サロンに佐藤史生さんが出入りし、やがて自身の専属アシスタントも務めるようになったことや、60手前にして亡くなってしまった後のことなども萩尾望都さん自らがマンガで描かれています。『一度きりの大泉の話』で語られた以上の過去のお話はもう聞けないかと思っていましたが、こんな形で、こんなにも強く切なる想いの丈を知ることになるとはと目頭が熱くなりました。 佐藤史生さんはどちらかというと読み手として満足していた部分があったそうで、デビューは26歳と当時としては遅咲きです。しかし、そのデビュー前に描かれた「一角獣にほほえみを」などを読んでも非凡な才気が溢れているのは明白です。 表紙にもなっており代表作『ワン・ゼロ』に繋がる「夢喰い」や、SF専門誌に掲載された「阿呆船」なども今改めて読んでも完成度に唸ります。「金星樹」のラストは言うに及ばず大好きです。 メカを描くのは苦手だったそうですが、それを補ってあまりあるSFや神話などから広く着想を得た魅力的で壮大な世界観。そして、あくまで少女マンガにこだわりたいという想いからこめられている少女マンガ特有の繊細で美しいロマンティシズム。カラーもモノクロも絵が美しく、コマ割りのリズムも非常に巧みです。 70年代に高度に発展した少女マンガ、また少女マンガの領域におけるSFの遺伝子を色濃く継承し、発展させ後世に繋いだ第一人者としての卓抜した力量を存分に感じさせてくれます。 6月28日から米沢嘉博記念図書館でまた新たな原画展も始まるそうです。 この一連のムーブメントを機に、特にSF好きの方は触れてみてはいかがでしょうか。丁度先日、今年の星雲賞が発表されましたが、ノミネートまではされたものの1度も受賞していないのが不思議なくらいの方です。
星影作品集「大嫌いなキミに」

学園恋愛のバラエティパック #1巻応援

星影作品集「大嫌いなキミに」
兎来栄寿
兎来栄寿
『愛の存在証明』の星影さんが2020年〜2024年にかけて描いた短編を集めた1冊です。 「大嫌いなキミに」は、母親が弟を妊娠している間に父親が不倫し、中二のときの彼氏には3股され男性不信になってしまっているヒロインの物語。 「好きです、先輩」は、とにかくバスケ部の先輩が好きで毎日挨拶のように好意を伝え続ける女の子のお話。 「猫宮くんに絆される」は、恋愛に興味のないヒロインが猫のような後輩をやたら構ってしまう話。 収録されている5編は形は違えど学園恋愛ものとなっており、少女マンガ読者のハイスタンダーズを叶えてくれる作品集です。王道のツボを押さえつつ、それぞれのヒロインの造形や関係性の構成の仕方に持ち味がたっぷり出ています。 星影さんは一番古い「刹那のインフェルノ」のときから絵の魅力がありどのヒロインもみんなかわいくて好きですが、この数年で更に磨きがかかっているのを感じ取れます。 その「刹那のインフェルノ」のお話の切り口は特に作家性が表れているところで、『愛の存在証明』にも繋がる部分を感じます。星影さんは濃厚な百合を描いても素晴らしいものが描けそうだなと。 個人的にこの作品集の中でも特に好きなのは最後の「一瞬間の青」です。弓道を題材にしており、ヒロインが同い年の男の子の射に一目惚れするも、同じ高校に入学したときにはなぜか弓道を辞めて女遊びに精を出していて……というところから幕が開けます。短編ではありながらも、心に沁みる内容で「人生」を感じました。クライマックスの見開きの使い方、そこからの真っ直ぐに届けるモノローグが素敵です。 最後の描き下ろしおまけマンガは、とても良いご褒美でした。 王道の少女マンガ成分や恋愛を浴びたい方には特にお薦めです。『愛の存在証明』も併せて読むと、星影さんの引き出しの豊かさをより感じられて良いと思います。
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