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となりのマンガ編集部 第12回:講談社女性コミック編集部『デザート』編 「おすすめ作品は全部です」

マンガの編集部に赴き、編集者が今おすすめしたいマンガやマンガ制作・業界の裏側などを取材する連載企画「となりのマンガ編集部」。第12回は、講談社女性コミック編集部を訪ねました。講談社では、最近女性向けのマンガ編集部が統合されてひとつになったそうなのですが、それまでは『デザート』の部署にいたという編集部の出永さんにお話をうかがいました。この連載では初となる女性向け雑誌編集部への取材で、今までの編集部とはまったく違う側面も見られましたのでぜひお楽しみください。

取材:マンガソムリエ・兎来栄寿


青い鳥文庫が好きで児童書志望だった

――初めに、担当作品を含めた自己紹介をお願いします。

出永 講談社女性コミック編集部の出永と申します。

講談社には『デザート』、『別冊フレンド』、『なかよし』、『Kiss』、『BE・LOVE』、電子だと『姉フレンド』、『comic tint』、『ハニーミルク』などの雑誌が、またアプリでは『Palcy』があります。これらを全部1つにして「女性コミック編集部」という名前になっていて、そこに所属している編集者はどの雑誌にも作品を出せるということになってるんです。ただ、そうなったのがついこの間の6月なので、私も主には『デザート』の仕事しかほぼしていません。これから少しずつ新しい立ち上げなどを違う媒体や雑誌に持っていくかもしれませんが。

今担当しているのは金田一蓮十郎先生の『NとS』、空垣れいだ先生の『沼すぎてもはや恋』などです。

――出永さんが編集者になられたきっかけは何でしたか。

出永 私は中学生くらいのときに編集者になりたいな、というのがもう決まってたんです。元々は青い鳥文庫などの児童書が大好きで、作家さんになれるやもという気持ちがあってお話を書いてみていた時期もあったんですけど、出来上がったものを読んでこれはとてもなれないなとその段階で思いまして(笑)。逆にあとがきで「担当の◯◯さんに感謝してます」と載っているのを見て、自分の大好きな先生の世界にそういう寄り添い方もできるんだと知り、私はもう作家の道ではなくお手伝いする道に行きたいと編集者を志望しました。

――その後の高校や大学などではどのような感じで過ごされてたんでしょうか。

出永 よく図書館などに通って本を読んでいて、なので実はマンガの編集ではなくてどちらかというと文芸志望でいたという感じですね。

――今も昔もそういう方は結構多いですね。

出永 そうなんですよ。なので、実は少女マンガはほぼ読んでこなかった高校時代で『ちゃお』で卒業してしまった感じでした。就活も取次さんや子供向けのおもちゃ会社などはいくつか受けたんですけど、それ以外は全部出版社でした。青い鳥文庫が一番やりたいというのがあり、やはり講談社が第1志望でした。志望部署ではなかったですが、頑張っております(笑)。

今推したい作品ばかりの『デザート

――続きまして、編集部が今推したい作品についてその魅力なども含めて語ってください。

出永 今『デザート』には推したい作品がもうすごくいっぱいあって選ぶのも非常に難しいんですけど、まだ巻も浅くフレッシュな方たちという切り口で選んできましたので、順番に紹介させていただきます。

出永さんピックアップの3作

 

出永 まず、空垣れいださんの『沼すぎてもはや恋』に関しては、頭空っぽで読める最高さと言うんですかね。「赤面男子かわえ~!」という(笑)。ひたすら何か辛いことを忘れて読めるし、狼谷(かめたに)くんというキャラクターが読めば読むほど魅力的に見えてくる。かっこいいし、かわいいし、と思ってたら急に男の顔も見せてくるギャップが最高だなと。『デザート』の中でも恐らく若干年齢が若い方に読まれているんですけど、小難しいことは考えずひたすらにキュンや癒しを摂取したいなと思ったときに読めるのがすごくいいなと推させていただいてます。

――狼谷くんは「国宝級イケメンフェア」にも選ばれていましたよね。

出永 「講談社ガチ!マンガフェア2023」という別の講談社主催のフェアで、書店員さんに選んでもらう少女・女性部門の中の好きな作品でも今年1位をいただきまして。次の4巻で初めての応募者全員プレゼントも行う、今とても波に乗っている作品です。

空垣さんのセンスが光るギャグも結構あって、「今の若い子はわかんないかもね」というギャグも多かったり…(笑)。お笑い芸人さんのネタとか、古のオタクネタとか、アニメオタクの女の子のどうしても出ちゃうオタク感のようなところも楽しんでいただけると思います。

続いては『東千石さんのメイクアップドール』です。

今回紹介する作家さんは全員、初連載作品なんです。作者のことぶきりーさんが元々メイクアップアーティストで、スタイリングのお仕事をされていたのでその知識を生かして描いていまして、まさに講談社の社是になってる「面白くてためになる」を地で行っている作品だな、と(笑)。マニキュアの塗り方やメイクの順番、どうお手入れするかなど、読めば読むほど女子力が上がっていくという。

また、主役ふたりのセットでの掛け合いがすごく面白くて。万年ジャージだった女の子と、それに対しておしゃれにしか生きてきてない、同じクラスでも絶対交わらなかったようなふたりが、メイクを通して交わっていって、しかも東千石さんがどんどんすごい男になっていく。東千石さんって恋愛にエネルギーを向けたらこんな風になるんだ、と本当にお付き合いしてる気持ちになれます。

――最近の本誌での展開もすごいですよね。

出永 割と初期の東千石さんは理性的というか、あくまでメイクをしたい人という感じに見えていたんです。それが最近ギアの入り方がすごくて。何かどんどんどんどん「東千石さん止まらないぞ!?」「彼女にこういうことしちゃうタイプか〜」「天然のモテ男恐ろしい!」みたいな(笑)。私は今、東千石さんとお付き合いしております! という気持ちで読めてヒーローの表情がどんどん変わっていってる感じがすごく魅力だなと。この作品も「講談社ガチ!マンガフェア」の少女・女性部門で2位をいただきました。ことぶきさんもノリノリで描いてらっしゃるのが伝わってきて、楽しい作品だなと思っています。

――最初は付録の別冊『Blue』の方で連載されていて、途中から本誌連載になったと思うんですが。

出永 人気がゆえにちゃんと読者がついてきて、コミックスにもなり、本誌連載にもなりと読者の声に押されてこのように育った作品ですね。まだちょっと世の中の漫画好きに見つかっていない気がしているので、ぜひ読んでほしいなと思います。

――ちなみに別冊『Blue』や別冊『Pink』などは編集部の中でどういう位置づけで出されているんでしょうか?

出永 『Pink』と『Blue』が交互についているんですけど、何となく『Pink』が『デザート』の今の本流に近い作品を載せる意識で、『Blue』は少しカラーが違うけど少女漫画の新しい可能性を拓いてくれそうな作品が載りやすい感じです。

『Blue』の歴代作品を見ていくとAIと恋してたりとか、魔法使いと恋してたりとか、ヤクザと同居してたりとか(笑)。元々『棗センパイに迫られる日々』(※1)などもマッスル推しで『Blue』にいました。ちょっと『デザート』の本流じゃないかもしれないけど、でもすごく面白いよねと思っている作品をそこに載せながら反応を見て、こういう風に移籍してきたりということがある感じです。

(※1) かみのるり著。『デザート』2021年6月号付属『別冊Blue』にて連載開始。極度の筋肉フェチのヒロイン日比華帆が、マッスルプリンスと呼ばれる棗旺太朗の筋肉に釣られてバスケ部のマネージャーとなる異色のラブコメ。

――結果的に『デザート』という雑誌がすごくカラフルにバラエティー豊かになっていて良いなと思います。

出永 そうですね。なので、おすすめの作品と言われるともうほぼ全部で難しいんですが(笑)次は『ふたりじめロマンチック』という作品です。

高校生の最高の青春みたいなことをずっとやってくれていて。恋をしているドキドキというか、フィクションじゃないようなリアルな感じがすごいんです。ちょっとしたメッセージのやり取りとか、男の子のあしらい方とか、女子との距離感とか、高校生のときにやりたかったし、多分どこかでは起きていたんだろうけど私には間違いなく縁遠かった何かを見せつけてくれる作品という感じがしていて。読んでいると顔がニヤっとしちゃうというか、小さく口角が上がっちゃうみたいな。読みながら青春を取り戻せる作品だなと。

主人公の素直さも羨ましいですし、それに対して高校の中のちょっとモテる男の子、「~じゃねーよ!」「女子なんか!」みたいな思春期が尖ってる人ではなくて、大人っぽくてそういうのをうまくあしらってこちらが逆にドキドキさせられちゃう、みたいな男の子の余裕感がすごくある作品です。読んでいて、いい意味でめっちゃ恥ずかしい~ってなる作品ですね(笑)。

――『デザート』という雑誌名の通りに甘い作品が多いですけれども、その中でも特に甘いですよね。

出永 元々『まいりました、先輩』という作品があって。

私はそちらもそんな気持ちで「恥ずかしいけど、最高!」「クラスのカースト上位の恋愛を見せつけられている~! 眩しい~!」みたいになりながら読んでいたんです(笑)。その『まいりました、先輩』を立ち上げた担当編集が『ふたりじめロマンチック』を立ち上げていて、担当のカラーもすごく出ているなと私は思っています。

――紹介したい作品が非常に多いというお話でしたが、他にもこの機会に推しておきたい作品などありましたらぜひ。

出永 もう皆さんご存知だろう作品は抜きで言いますと、卯月ココ先生の『恋せよまやかし天使ども』も発売後すぐにたくさん重版がかかりまして、ここからどんどん売れていくんだろうなと思います。『放課後ブルーモーメント』などももっと売れて然るべきだと思っています。

――『恋せよまやかし天使ども』や『放課後ブルーモーメント』、大好きです! マンバでも推されている新作ですね。

出永 本当によく読まれてますね(笑)。とにかく若い作家さんの勢いというか、プッシュが止まらないというか。『放課後ブルーモーメント』も初連載ですし、『恋せよまやかし天使ども』に関しては驚異のスピードで初連載をやってらっしゃって。

今、若い人の勢いが本当にすごくて、ぜひ皆さんに見つけてほしいなと思っています。多分、今『デザート』を読んだらすごく自分好みの新しい才能にいっぱい出逢えるんじゃないかなと。別冊にも有望な作家さんがたくさんいらっしゃいますので、雑誌も見てもらえたら嬉しいです。

――作家さんのデビューからライブ感を持って追えるのは雑誌ならではの醍醐味ですからね。ちなみに、週刊誌などでは読切掲載から連載まで数ヶ月ほどというケースもあると思うのですが、『デザート』だとどのくらいかかることが多いのでしょうか。

出永 『デザート』はまず読切を描いてそれが別冊などに載って、そこで強みや武器を見つけながらどんどんレベルアップしていくという過程を踏んでいく方が多いです。この武器を試そうというものが見つかったら、次はシリーズ連載やオムニバス連載などを別冊でやる、というような流れになっていて。別冊は隔月なので、その連載をやるだけでも4話だったとしたら8ヶ月かかりますし、それまでに読切を何本かとなると、やっぱり週刊誌より時間はかかりますね。

特に、初期のデビューしたばかりのころはまだ作家さんの生産スピードが追い付いてなかったりするので、そんなに毎月描ける体力がないというのもあります。本誌までたどり着いてる方たちでも数年かかった方も多いかなという感じですね。そんな中で卯月ココさんは飛び級できていて、もうご自身が生産スピードも最初から上げてきていましたし、画力や演出とかコマ割りもイケイケでやってらっしゃって。

しかも、自己プロデュースもすごくされていてX(旧Twitter)上でのフォロワー数が多分『デザート』の作家さんの中でも特に多いんじゃないかな。ご自分でバズらせるとか、お客さんをつけるということをやってこられた方なので、そういった力強さもある作家さんですね。『デザート』編集部にはすごく良い才能が集まってきてるなと思います。

編集部内には『ゆびさきと恋々』の巨大なポスターも飾られていました。アニメ化を機に更にブレイクして欲しいです。

ガッツのある作家さんの頑張りに上げてもらっている

――作家さんと作品を作っていく中での思い出深いエピソードなどはありますか。

出永 空垣さんは立ち上げから一緒にやってたので思い入れもあります。今や絵もとてもお上手なんですけど最初は絵に苦手意識があった時期もあり、どちらかというと絵よりもギャグやコミカルさ、内容の面白さでファンがついている作家さんという印象があって。それでしばらく読切シリーズなどもやっていた中でなかなか読者に響いている手応えがなくふたりで悩み続けていたときに、私の中では意外だったのが絵を頑張ってきてくれたことなんです。BLも出されているので多分そちらの方で男の子の研究もされて、男の子を武器にすることもできるようになってくださって。作家さんって本当にすごいな、と。

空垣さんはTikTokもやって、個人で作品を上げています。そこで若い子に知ってもらえているのもありますね。今、デザートの公式TikTokのフォロワー数より全然多いんです(笑)。

――これまでこの連載記事では少年・青年誌中心にインタビューさせていただていたというのもあるかもしれないんですが、TikTokを使って宣伝をされているという話は初めてお聞きしました。

出永 そこは推しポイントです。空垣さんの特に見られている投稿だと数万再生されています。

沼すぎてもはや恋』1巻のときに表紙絵を空垣さんから「男の子単体でやりたい」と言われたときには、少女マンガなので男女両方いるべきではという不安がすごくあったんですよね。特にBLで活動されていた作家さんなのでうまくそこと差別化できるかの不安もあって…。でも、空垣さんは「大丈夫って言わせます!」とそれまで以上に頑張ってきて下さったんです。最終的な決定稿まで私との間で10往復くらいカラーをリテイクしてくれて、そういうガッツがあるのが空垣さんのすごく良いところでもありますし、多分それがこの作品の魅力にも繋がってるのかなと。締切まであと2週間くらいしかないようなところでネームや原稿を全部変えてきたりする方なので……こういう方が本当に売れて欲しいなと思います。

他の方々も実際そうですけど、やはりガッツがある方が伸びて売れていかれるなと。意外と体育会系の感じがある現場かもしれないです(笑)。作家さんが「ここでいいや」「これでいいや」になってしまうとそこからは変わらないので。「もっともっと!」と思ってやっていると、やっぱりどんどん良くなっていくという。作家さんにそこまで頑張られると、私もできることは精一杯頑張ります! という気持ちになります。

――お互いに熱量を高め合うマンガ家と編集者の素晴らしい関係ですね。

出永 私は完全に作家さんに上げてもらっていますね。熱にこっちが押されて「ここまでやろう!」「こんな企画もやっちゃおう!」みたいな(笑)。

ハマるものも全作品への愛も共有する編集部

――続きまして編集部への質問をさせていただきます。編集部おすすめのグルメや行きつけのお店があれば教えてください。この質問を講談社の方にお訊きすると「護国寺なんで……」と言われてしまうんですが(笑)。

出永 本当にそうなんですよね、護国寺なんで……としか言いようがないんですけれども(笑)。なので出前文化がすごく盛んではあります。よく使っていたのが池袋にあった「ステーキハウスダブル」だったんですが、どうも移転してしまったようで。本当にお米とお肉しか入ってない肉肉しいメニューがありまして、そのお弁当を私が大好きで頻繁に取りたがってみんなの分も一緒に取って食べていました。

また、ここもコロナ禍でなくなってしまっていたんですけど飯田橋の「オリエンタルデリ」というベトナム料理やタイ料理系のところのタイラーメンがとても美味しくて、それもよく出前していました。よく指導社員と行っていたのは、大塚にある「東京苑」という焼肉屋さんです。お肉がとにかく美味しいんです。講談社の社員は大塚に行きがちなので行くと誰かしらがいたりします(笑)。

あと、最近社内にセルフサービスで淹れるスタバができまして。自分でいろいろセットしたら出来上がるんですけど、それがきて喜ぶぐらいには本当に何もないです(笑)。

――『デザート』編集部内で流行ってることや、皆さんが注目してるものなどがありましたら教えてください。

出永 流行っているのは『PRODUCE 101 JAPAN THE GIRLS』(※4)です。この編集部は結構オタク気質の人が多くて、オーディションサバイバル番組があるとみんな観始めるというか。『バチェラー』(※5)などもみんなで集まって観て感想を言い合いながらご飯を食べるみたいな。

(※4) 通称『日プ』。韓国の音楽専門チャンネルMnetで放送された公開オーディション番組『PRODUCE 101』の日本版。2019年放映のSEASON1では練習生101人から投票によって最終的に11人が選ばれ、ボーイズグループJO1が誕生した。2023年放映のSEASON3『THE GIRLS』(通称『日プ3』)では初のガールズグループが誕生。

(※5) 2002年に全米で放映され人気を博した恋愛リアリティ番組『The Bachelor』の日本版。ひとりのハイスペックな独身男性「バチェラー」を巡り多数の女性たちが過酷なサバイバルを繰り広げていく。2020年よりAmazonプライムで配信。現在はシーズン5まで配信されている。性別を逆にした『バチェロッテ』も人気で、シーズン2まで配信。

――楽しいやつですね!(笑)

出永 恋愛リアリティ番組やオーディションサバイバルなど、今の若い人や今の恋愛のリアルがわかるものをみんなで観て「誰推し?」などを語るのが割と好きな編集部ですね。「この女/男は許せん!」とか「この女/男最高!」を語るところから打ち合わせのネタとか出てきたり、それを作家さんに熱量として伝えたりしてるというのはあるかもしれないです(笑)。

今は一番熱いのが『日プ』で、ちょっと前は『BOYS PLANET』という男性アイドルのサバイバル番組もみんなで観ていました。『アイドリッシュセブン』(※6)の応援上映なんかも好きな人がいて、その人が「編集部全員、順番に連れていく!」「ペンライトは貸すんで!」と言って連れて行かれて一緒に振らされるということも(笑)。チーフなんかもことごとく連れてかれて、朝8時に集合をかけられて「仕事前に行きましょう!」と(笑)。

(※6) 通称『アイナナ』。漫画家の種村有菜がキャラクターデザインを担当する、2015年からサービスが開始したバンダイナムコオンラインのスマートフォン向けアプリゲーム。さまざまなメディアミックスを経て、2023年に『劇場版アイドリッシュセブン LIVE 4bit BEYOND THE PERiOD』が公開。筆者の推しは天。

結構自分の好きなものやハマっているものを温度高くみんなと共有して、そこから繋がろうとしているところがあります。とても仲良しで、みんな若いですね。7年目の私がもう上から3、4番目くらいで。みんなテンション高いし、元気もあるし、でもかわいくてオシャレに気をつけているオタクというか、見た目ではこの子がこんなに狂っているなんてわからないという感じの楽しい編集部です(笑)。

――いろいろな編集部の方にお話をうかがっていると割とひとりひとりの個性が強くてバラバラというところも多いのですが、女性向け誌の編集部ならではの共感性の高さを感じられます。

出永 「観ました!?」「◯◯やばかったですよね!」「何であの女を選ぶの!? 見る目なさすぎ!」みたいな感じで、すごく姦しいです(笑)。

――今のお話からも繋がるかもしれませんが、編集部で自慢できることがあれば教えてください。

出永 自分の作家さんとか自分が編集として出世していきたいというよりは、雑誌を読んだらみんなお互いに感想を言い合う文化があって、「今回の××本当やばかったです!」とかわざわざ担当に言いに行ったり、勝手に「この後の展開はこうなっていった方がいいんじゃないか」と言ったり(笑)みんなでどの作家さんも応援している空気感があります。

全員で見ているというところが、もしかしたら他の編集部と違うのかなと。編集部がひとつになったことで最近余計に感じています。信じられないぐらい他人の担当作品もみんな気になってますし、その作家さんがどういう経歴をたどってきていて今どのフェーズにいて、だからこそこの作品はもっと売れて欲しいんだ! といった気持ちがみんなに共有されてるというか。

そこが作家さんにも来ていただいたら「デザート編集部、あったか〜い」と言ってもらいやすい強みかなと思います。もちろん担当編集が一番見てはいるんですけど、それ以外の人も一緒にその作家さんと作品を見守っているという、本当にチームで作っているという感じですね。

今回の取材場所である講談社の中庭。ここで作家の方々も『デザート』編集部の温かさを感じながらお話されているのかも。

フルーツバスケット』から学んだ人生に大切なこと

――編集者が繋ぐ思い出のマンガバトンということで毎回編集者の方の思い出のマンガ作品をお聞きしているんですが、みなさんの人生の思い出の1冊を挙げていただけますか。

出永 『フルーツバスケット』が唯一読んでいた少女マンガで、大好きで。中二病だった私にハマったというか(笑)。

――最初に読み始めたきっかけはどのような感じだったのでしょうか。

出永 たまたま従姉妹の家に中途半端な巻数があって、パラパラっと見てかわいい生き物が出てきてるみたいなことで記憶に残っていて、読んでみようかなと思ったのがきっかけでした。

何となく「どうせハーレムものでしょ?」みたいな(笑)。キラキラした世界観はちょっと私は苦手ですという気持ちでいたんですけど、そんな私の心すら浄化させるぐらい主人公の透くん(※7)が本当に清い人間で。

(※7) 『フルーツバスケット』の主人公、本田透(ほんだとおる)。不幸な生い立ちでありながらも、どこまでも優しくひたむきな彼女に救われた人は多い。

その当時は中二病が発動して「大人は信じられない!」って思っていたんですけど(笑)、透くんや『フルーツバスケット』に出てくる大人なら信じられるみたいな気持ちにすごくなれて、のめり込んじゃいましたね。そこで人生の大事なことを教えていただいた気がしていて。

「洗濯物がいっぱいあって前に進めないときは、とりあえず足許にあるものから洗濯してみるといいかも」的なことを紫呉さん(※8)が言うんですけど、そういった名言などは未だに作家さんにも伝えたりしています。焦らず一歩一歩進んでいきましょうと!

(※8) 『フルーツバスケット』の登場人物、草摩紫呉。普段は飄々として戯けているが、ときには年長者としての貫禄を見せるなど多面性のある人物。

――『フルーツバスケット』のような名作も今の若い世代だと恐らくそんなに接点がなくて読んでいない方も多いと思うんですが、そういう風に伝えていただけているというのはすごく嬉しくなります。

出永 それをきっかけに読んでくれることもあります。実際『沼すぎてもはや恋』などは「イメージキャラとして夾くん(※9)を意識しよう!」みたいな共通言語として『フルーツバスケット』のことを話していました。

(※9) 『フルーツバスケット』の登場人物、草摩夾。人気投票では透をも上回るほどファンに愛されているツンデレ赤面男子高校生。『沼すぎてもはや恋』の狼谷くんの源流と言われると非常に納得できます。

――他社作品の中で、現在注目しているマンガがあれば教えてください。

出永 ひねくれ渡さんとアルコさんの読切「内緒話とビオトープ」が、何かどうにかなるのかなというのは気になっています。あと『消えた初恋』が大好きです。完結はしていますけど、2022年の私のキュンを搔っ攫っていきました。BLというのも難しいというか。「これが恋なのかな?」から迷える感情を今やってしまうと、ちょっと幼かったりちょっとカマトトに見えるご時世になってしまっているというか。多くの人が恋の情報をSNSなどで得やすく大人びている中で、「この気持ち何なの!?」と言って真実味を持たせられる作家さんはかなり少ないんです。

消えた初恋』に関しては、男の子同士だったからというのもあると思うんですけど、そこがもうすごく良かったです。ただただ好きになった相手が男の子だったんだというところで、「これが恋なのかな?」からきちんと悩んで向き合ってやっていて。

太陽よりも眩しい星』も、「なんで、そんなに、瑞々しいんですか、河原和音先生は!?」と(笑)。

どうやってあの感情や感覚を描いているんですか、というのは訊いてみたいですね。『太陽よりも眩しい星』は1話目に卒業するときの紅白饅頭みたいなものが出てくるんですけど、完全に忘れていたようなディティールを出されてどこから思い出すんですかそれ、というところも(笑)。あのときのまま感情の時が止まってらっしゃるのかなと。

でも、毎作品アップデートされている感じもしていて、男の子の造形はどんどん今風のかっこいいと思われる男の子になっていて。すごいなと思いながら、勉強させていただいております。

志望でなかったとしても大丈夫です

――同じ時代でマンガを作っている次の編集者の方へのバトンといたしまして、何かコメントをお願いします。

出永 元々は私も志望ではなくちょっとやさぐれていた時期とかもあったりして、もしかしたら志望ではないジャンルに配属されている方もいるんじゃないかなと思うんです。でも本当に作家さんのお陰で好きにならせていただいたというか。ジャンルは違えどクリエイターさんの持つ大きな力、才能にひれ伏させていただく感じというか。もう今や私も少女マンガ大好き人間になっていて「世の中にこれは必要なエンタメです!」という気持ちになっているので(笑)。本当に作家さんにはありがとうございます、楽しくお仕事させていただいてますという感謝の気持ちがあります。なので、もし志望ではなかった方にも、大丈夫です、作家さんの力はすごく大きいです、ということをお伝えできればと思います。

――何かお知らせがありましたらお願いします。

出永 12月13日には『東千石さんのメイクアップドール』③巻が、1月13日には『沼すぎてもはや恋』④巻が発売なので、ぜひ読んでもらえたら嬉しいです。『沼恋』はここだけの描き下ろしイラストの缶バッジセットの全プレもあるのでよろしくお願いします♡

――最後にいつも『デザート』を読んでくださっている読者のみなさんと、この記事を読んでくださってる読者の皆さんに一言ずつコメントをお願いします。

出永 作家さんだけではなく編集者も読者のみなさんの感想にすごく喜んで、一緒に共感して、励みになって、読ませていただいております。本当にありがとうございます。『デザート』は今後も読者のみなさんに楽しんでいただけるいろいろな企画をもりもりやっていこうと思ってるのでぜひよろしくお願いします。

また、昔の自分がそうだったので、少女マンガを読んだことない方や少女マンガは何となく距離があるかなと思ってらっしゃる方もいるんじゃないかなと思うんですけど、疲れたときや、何も考えたくないときにそっと手を伸ばしてみると、人生が救われるようなこともあるジャンルだと思っているので、ぜひちょっと壁を取り払って、軽い気持ちで手を伸ばしてみていただけたら嬉しいです。

――本日はお忙しい中、どうもありがとうございました。


ゆびさきと恋々』に続き4月からは『花野井くんと恋の病』もアニメが放映予定で、ますます活気づいている『デザート』。この世界に生きる読者のために必要なものであるという信念を持ち、奮励努力する作家陣へのリスペクトも持ちながら熱量を持って仕事をされていることが強く伝わってくるインタビューでした。女性向け雑誌ならではの連帯感や、広報の取り組みなども非常に興味深かったです。ときにはほろ苦さや別冊『Blue』がもたらしてくれるようなサプライズもありつつ、これからも極上の甘さを提供し続けてくれるであろう『デザート』を応援しています。

 

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