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となりのマンガ編集部 第8回:月刊コミックビーム編集部 「こういうマンガを作れ」と言われたことは一度もない

 

 マンガの編集部に赴き、編集者が今おすすめしたいマンガやマンガ制作・業界の裏側などを取材する連載企画「となりのマンガ編集部」。第8回は、『アスキーコミック』・『ファミコミ』を前身として1995年に創刊した『月刊コミックビーム』編集部を訪ねました。『コミックビーム(以下、ビーム)』ならではの尖った鮮烈な作品を今日まで数多く送り出しており、マンガ読みに「作家性を全面に押し出したマンガ雑誌といえば?」と尋ねたら多くの方がこの『ビーム』の名前を挙げるのではないでしょうか。今回は、そんな『ビーム』の作品がどのように作られているのか、西山若奈編集長と編集部の山本年泰さんのお二方にたっぷりと語っていただきました。

取材:マンガソムリエ・兎来栄寿


編集部に入ってから5年で編集長へ

――最初に、編集者になられたきっかけや主な担当作品などを含め自己紹介をお願いいたします。

西山 編集長の西山若奈と申します。今の『月刊コミックビーム』編集部に入ったのは5年くらい前です。その前はKADOKAWAの違う部署で働いていました。そのあとに『ビーム』の採用を受けて、それからずっと『ビーム』で働かせていただいてます。担当作は今連載してるものだと谷口菜津子さんの『ふきよせレジデンス』と、最近始まった吉良いとさんの『偶像エスケープ(読み方:アイドルエスケープ)』です。また最近完結した文野紋さん『ミューズの真髄』も担当しておりました。よろしくお願いします。

――最初に編集の仕事をしようと思った切っ掛けは何だったのでしょうか。

西山 私は『家庭教師ヒットマンREBORN!』です。当時本当に大好きで、暇があれば『REBORN!』の情報を検索するみたいな時期があったんですけど、『REBORN!』は途中からギャグ路線からバトル路線に変わるじゃないですが。それを編集さんが提案したという話をWikipediaか何かで読んで、「編集ってすごい!」ということを当時思って。それが多分一番最初に編集者になりたいと思った記憶ですね。

――5年で編集長になられたというのは早く感じるのですが、KADOKAWAさんの中でも早い方なのでしょうか。

西山 早い方だとは思います。ただ、まだまだマンガ作りに関して努力していかなくてはいけないな、と思うことがたくさんあるので、編集部員と共に成長していこうと思っています。

――ありがとうございます。山本さんからもお願いできますか。

山本 山本年泰と申します。僕は西山と同じ30で、経歴としては新卒で芳文社に入りました。出版社で編集をやりたいと就活をしていたんですけど、そこしか受からなかったので(笑)入りました。面白かったんですけど、萌え4コマという特殊ジャンルしかやれなかったので、転職して他の全然関係ないマスコミのメディアの営業をやっていました。3年くらいやったタイミングで、やっぱりもう1回マンガ編集をやりたいなと思う中で、好きだった『ビーム』の求人を見つけて、受けて、前の編集長の清水に拾ってもらったという感じですね。担当作としては、今連載しているものではピエール手塚さんの『ゴクシンカ』と、伊図透さんの『オール・ザ・マーブルズ!』と、野火けーたろさんの『助けてヘルプミー』と、月森吉音さんの『ナイトメア・オブ・ドッグス』と、副編の青木と一緒に西尾雄太さんの『下北沢バックヤードストーリー』を担当しています。直近完結したものでいうと、丸尾末広さんの『アン・グラ』ですけど、前々編集長の岩井が編集担当で、僕が編集部担当として入っているという感じですね。あと、2月に出た『星屑家族』なども担当していました。

 

コミックビーム編集部が選ぶ今おすすめのマンガ

――次に、編集部が今おすすめしたいマンガを、面白いポイントやおすすめのポイントなどを含めてご紹介いただけますか。

西山 担当作からでもいいでしょうか。オススメしたいマンガや注目してもらいたいマンガはたくさんあるんですが……。選びきれないので(笑)

私からは、『教室の片隅で青春がはじまる』と、まだコミックスにはなっていないんですけど、谷口菜津子さんが今連載している『ふきよせレジデンス』を推させていただけたらと思っています。谷口さんは長く『ビーム』で描いてくださっていて、『教室の片隅で青春がはじまる』はすごく谷口さんの柔らかいタッチが素敵で、少女たち答えの出し方も、その子らしい答えを出されていて。うまくいかないことがあっても少しだけ頑張ってみようと思えるような話運びが素敵だな、と。この作品を一緒に作ったことで、『ふきよせレジデンス』ではこういう話を描いていこうと話せたと思っていて。私、谷口さんの描く人間がすごく好きなんですよね。『ふきよせレジデンス』は全然違う人たちの人生を描いてもらえていて、担当として、ネームを読むのがすごくたのしいです。
ぜひ「今」を一生懸命に生きてる人たちの生きざまを楽しんでもらえたら嬉しいです。

 

ミューズの真髄』は見開きの絵は原稿を受け取る時、毎回ワクワクさせてもらっていました。主人公が折り合いのつかない自分の気持ちや人生とどう向き合っていくのかをすごく丁寧に描かれていると思います。ご本人もインタビュー等でおっしゃっていたのですが、成功体験がある人間のマンガというのはすごく多いと思うんですけど、『ミューズの真髄』自体は特に成功しているような、言い方ちょっとアレかもしれないですが、そんなちゃんとした人があまり出てこなくて、みんな何かどこかしら欠けた部分を抱えていて。そういった、自分とどう向き合っていくかみたいな部分や、誰にでもある「何者かになりたいみたいな気持ち」と、どう向き合っていくかをとても丁寧に文野さんの緻密な素晴らしい絵で描かれていると思っています。

山本 僕もすごく『ミューズの真髄』好きで、毎月毎月校了で読むのを楽しみにしてました。

――文野さんは『ビーム』本誌掲載の巻末のコラムも素敵でしたね。優れた漫画家の方は面白さの言語化などにもすごく長けていると思うんですが、文野さんもまさにそういった感じで、今後描かれていく作品もすごく楽しみです。

西山 そうですね。文野さんの紡ぐ言葉は、時々すごくしんどい言葉があって。でも、どれも嘘がなくて。そういう上手く折り合いをつけるのが難しい気持ちに寄り添えるマンガだと思ってるので、主人公である美優はもちろんですが、他のキャラにスポットが当たっている話も、全部、すごく好きです。


山本
 僕からは丸尾末広さんの『アン・グラ』ですね。丸尾さんは前作が『天國 パライゾ』という短編集だったんですよ。その前の連載作というと『ビーム』でやっていた『トミノの地獄』で、2019年ぐらいに完結しているので、4~5年ぶりの待望の長編というところですね。60年代が舞台の魔都東京みたいなゴミゴミした学生闘争がある中で、主人公はマンガ家を目指していて作品を『ガロ』に持ち込みするという話なんですけど、かなり今までの丸尾さんの作品よりも手に取りやすいところがあると思うので、今までの固定のファンの人にもそうなんですけど、まだ丸尾さんの作品を読んだことがない、でもすごく興味はあるという方も多いと思うので、そういう新しい読者に手に取ってもらえると嬉しいです。

それと、最近完結した上下巻の『星屑家族』ですね。作者の幌山あきさんは、いろんな出版社の新人賞を獲ってきている方で。この作品も設定がそもそも面白くて、「子供を持つことが免許制になったら?」という物語なんですけど、Twitterでバズって。そこからどんどん広がっていって、電子で非常に動きがいいんですよね。なので普段『ビーム』を読んだことがない方や、『ビーム』コミックスをまだ買ったことがないという読者の方にも楽しんでもらえるのかなと。


――幌山さんは個人的にも前作の『マーブルチョコレート』なども含めとても好きで注目していましたので、売れていると聞いて嬉しいです。また、折角ですので山本さんが担当されているピエール手塚さんの『ゴクシンカ』のお話などもうかがえますでしょうか。

山本 ぜひぜひ。『ゴクシンカ』は滅茶苦茶面白くて……やばいマンガです(笑)。ピエール手塚さんはフルタイムで働きながら、何なら僕よりも残業をやりながら、マンガを描いているすごい人です。もう1本連載を持っていますし、通勤電車の中で立ちながらマンガを描いているという。伊達に「手塚」って名前が入ってないですね(笑)。

――令和のマンガの神様になっていただきたいですね(笑)。

西山 「『ゴクシンカ』面白いですよね!」って、来る人来る人、ピエール手塚さんの名前を挙げられます。本当に面白いですよね。

山本 ご本人が滅茶苦茶マンガ好きなんですよね。『ビーム』の巻末にある姫乃たまさんのコラムが今回最終回だったんですけど、1回ピエールさんにインタビューされたときに、高校時代は毎日ブックオフに通ってブックオフ全部のマンガを読んでいたと。それくらいマンガの大ファンなので、マンガ好きとしての解像度が高くて。マンガが好きな人にしっかり届いているなという感じのイメージですね。

――読んでいてもさまざまなマンガのネタがそこかしこに盛り込まれていて、愛を感じます。

山本 たまに気付かなくて、指摘されて「そうだったんだ」と思うこともあります(笑)。

西山 あれは気付くとまた違う楽しさがありますよね(笑)。

 

みんな若くて仲が良い、されど切磋琢磨し合う編集部

――続きまして、編集部への質問をさせてください。『ビーム』編集部の方は皆さんお若くて、平均年齢も低いとうかがっています。

西山 そうですね。私がちょうど入った5年前のタイミングは前々編集長だった岩井と、編集総長だった奥村はまだいらっしゃったんですが。少しあとに、お2人ともビームを離れることになって。編集部自体ががらっと変わったと思います。そのころぐらいからですかね?編集部員全員30代ぐらいになって。その後入ってきたメンバーも30前後くらいなので、比較的若いと思います。

――何人くらいでやられているんでしょうか。

西山 専任で働いてるのが5人で兼任で2人、計7人でマンガを作っていて、あとはデザイン関係とか文字入れとかをしてくださっているインハウスデザイナーさんが2人いるので9人ですかね。……あれ、さっきバイトの子も入れた表を作って11人いて多いなと思ったんですけど。

――『11人いる!』ですか(笑)。そんなビーム編集部の中で今流行ってるものやことなどはありますか。

西山 「これ面白かったよ!」みたいな話はするんですけど、共通で流行っていることはそんなにない気がしますね。

山本 全員、趣味が全然違いますね。

西山 多少、映画とか重なったりする部分はあるんでしょうけど、読んでいるマンガも結構全員違ったりするなと思っているので。

山本 お菓子……?

西山 お菓子(笑)。みんなでお菓子を食べたりすることはありますけど、それは特に流行っているとかではないですね(笑)。インハウスデザイナーさんとかが校了期間などにお菓子を買ってきてくれて、みんなで食べて残り校了がんばろうみたいな。今はテレワークが増えていて、編集部内でみんなで何かするみたいなこと自体も減ってしまって。やっと最近できるかな?ぐらいになったので、実際そういうことを話す機会が少なくなってもいます。

――多くの編集部でコロナ禍以降そういった機会が減ってしまったというお話を聞きますね。ちなみに、近くの行きつけのお店や好きなお店などがあれば教えてください。

西山 神楽坂は美味しい店がすごく多いですよね。

山本 ピックアップ難しいですね。

西山 本当に多いので、私は1回行って美味しかったらまた行くというのはあまりなくて、また新しいところに行きたい派なので絶対にここに行くみたいなのはあまりないかもしれません。山本さんはあります?

山本 「飯田橋大勝軒」は、大勝軒ですけど二郎系のラーメンがあって、ジロリアンの中でもかなり好評な二郎系でガッツリで美味しいのでよく行きます。夜飲むのは「れとろ」というお店があるんですけど、そこは煙草を吸えるんですよ。なので本当によく飲みに行くんですけど、出版社の人が多くて、「台割がどうのこうの」とか会話がいっぱい聴こえてくるんですよ(笑)。他社の先輩ともすごく飲みに行っています。

西山 ご飯には全然困らないですね。

――そんな『ビーム』編集部さんが自慢できることを一つ挙げるとすると何でしょうか。

西山 多分、仲のいい編集部ではあると思うんですけど、各々の作品を尊重しつつも競い合う気持ちはあるかなと思っていて。もちろん誰かが重版したり賞を獲ったりしたら嬉しいんですけど、自分のマンガも頑張ろうみたいな切磋琢磨していく関係性がしっかり作れている編集部ではあるのかなと思っています。先輩後輩がそこまで明確ではなく、全員1~2年くらいしか変わらなかったりするので、ざっくばらんに意見交換しやすいのもあるかなと。

山本 西山の話に付随すると、マンガ編集部とかだと割と新人の編集を潰すとか後輩イビリみたいなものがあったりするんですけど、そういうのは全くないんで(笑)。指摘の仕方などもポジティブでプラスになるための指摘であったりとか、対話やコミュニケーションみたいなことしかないので。

西山 イメージですけど、これだけ年齢の近い人たちが多い編集部もKADOKAWA内ではそんなにない気もしますね。

――これだけ年齢が近い編集部はだいぶ珍しそうですね。『ビーム』はかなり独自色が強い雑誌ですが、作品作りをする際に何か独特な工夫や心情などはありますか。

西山 私が入ったときから「こういうマンガを作れ」みたいなことは言われたことがなくて。もちろん、ある程度の年齢層や男性か女性かなどの想定はしているんですけども。雑誌って結構売れている作品、例えば百合マンガが人気なら百合マンガが多くなったりすると思うんですけど、「こういうマンガであれ」みたいなことは一度も言われたことはなく、各々が面白いと思って載せたいと思ったら企画会議とか連載会議に出すという流れです。そういう意味では各々編集が面白いの種類が違うので、全然違う作品が載っているというのはあるのかなと思います。

山本 面白ければ何でもありな感じはしていて、雑誌によってはやっぱり絵柄が似通ってくるようなものもあると思うんですけど、『ビーム』は見ると明らかに作品の区切りがわかるようになっていて、それはすごく雑誌としていいことだなと。

――まさに「雑」誌ですね。例えばすごく尖った読切が来ることもあると思うんですけど、それを載せるか載せないかなどはどなたがどのようにジャッジするんでしょう。

西山 基本的には最終判断は編集長がするという風にはなっています。各担当編集がやりたいと思っていることに対して、否定的なことを言われたことは一度もないかな、と。

 

ビーム』編集者が選ぶ思い出の1冊・今注目の1冊

――編集者が繋ぐ思い出のマンガバトンということで、毎回編集者の方の思い出のマンガ作品をお聞きしているんですが、皆さんの思い出の1冊と、最近の注目作品を自社作品以外で1つ挙げていただけますか。

西山 質問をいただいてからずっと悩んでいまして、あまり決められないんですけど……私は編集になってからいくつかの目標が自分の中にあって、その1個に自分の担当作が賞を獲ってほしいという目標があって。賞って昨今少なくなっているのもありますし、簡単に獲れないというのもあって、獲りたいけど、獲れるかどうかみたいなところは別だと思っているんですけど。谷口さんが『教室の片隅で青春がはじまる』と『今夜すきやきだよ』でで手塚治虫文化賞の新生賞を獲った時は本当にすごくうれしかったです。新生賞って事前に「選ばれています」みたいな連絡がなくて、本当に突然連絡が来るんです。特に『教室の片隅で青春がはじまる』は谷口さんを引き継いでから初めて担当した作品だったので、このような素敵な賞を獲れたのがすごく嬉しかったです。また、壇上の谷口さんのスピーチがとても素敵で、今でもスピーチしていた谷口さんのことを思い出します。本当にすべてが素敵な思い出です。

これは余談なんですけど、授賞式の前にに谷口さんと旦那さんの真造圭伍さんと3人でお昼を食べると約束していたんです。お店に着く少し前に、谷口さんが事前に行こうとしていたお店に着いたら「定休日でした!」って連絡がきて。全然調べてなくて大変だ!ってなったんですけど、谷口さんが「近くに美味しそうなお店がありました!」ってまたお店のURLを送ってくれたんです。その日、私はお財布に1000円しかお金を入れてなくて、でもこの時代クレジットカードとかPayPay とかが使えないことはないだろう、遅刻する方が大変だと思って急いで谷口さんと真造さんが待っているお店に向かって。ご飯を食べ終わって、じゃあ行きますかと言ってお会計しようと思ったらPayPayもクレジットカードも使えなくて(笑)。すごく焦って「私、お金お下ろしてきます!」って言っていたら真造さんが「僕が出しますよ」と言ってくださったんですけど…そのとき真造さんと初対面だったのと、漫画家さんにお金を借りるなんて!みたいな気持ちでもうパニックになってしまって。でも、結局どうにもできなくて「すみません、お金かしてください」と言って真造さんにお金を借りました。もちろんすぐに返したんですけど(笑)。それまですごくワクワクしていたんすけど、「終わった」みたいな感じになったのが自分の中で思い出深くて。真造さんが家に帰ってから、谷口さんに「担当やばいよ」みたいな話をされていたらどうしようと(笑)。旦那さんが漫画家さんじゃなかったら奢っていただいていたかもしれないんですけどね(笑)。

注目している作品は本当にいっぱいあって。おこがましいんですけど、「面白い!でも悔しい!」と思いながら読んでいるんですが(笑)。『サターンリターン』は読んでいる間ずっとどう完結させていくんだろうって思って読んでいました。

こうなるのかな、みたいな予想を何回も裏切られながら「そんなことあるんだ!」という展開が何回も起きて。今までの鳥飼さんの作品も全部大好きだったんですけど、この後どうなっていくのかを何度も何度も考えさせられながら、女性として消費される気持ちと、どう折り合いをつけていくのかな、と完結までずっとワクワクドキドキしながら読んでいました。

――山本さんにもおうかがいしてよろしいですか。

山本 僕は山本ルンルンさんの『オリオン街』です。

人生で初めて読んだマンガで、親が教育のために朝日小学生新聞を取っていたんですけど、子供はマンガしか読まないじゃないですか。それでフルカラーの『オリオン街』を毎日読むのが楽しみでした。そのために生きてたみたいな感じで、すごく印象に残っています。特に印象的なエピソードがあって、クラスの女の子たちみんなとディズニーランドみたいなところに行く約束をするんです。4人ぐらいのグループで主人公がいて、でも本当は他の3人だけで行く感じだったんです。主人公は自分が入っていると思い込んでるから、当日に行ったら「あれ、何でいるの?」みたいな感じになるという地獄で、それを小3とかで読んでトラウマになってるんです(笑)。それからずっと山本ルンルンさんを好きで読んでいるんですが、今『ハルタ』で『涙子さまの言う通り』を連載していて、ずっと「好きだ! 好きだ!」と言っていたら『ハルタ』と『ビーム』は距離が近いので、担当編集が紹介してくれて。山本ルンルンさんに直接ご挨拶させていただいて「初めて読んだマンガです」と伝えられたことは本当に良かったなと。

――それはとても良いお話ですね。

山本 他社の注目作品では『ビッグコミックスペリオール』の、たかたけしさんの『住みにごり』に今すごくハマっていて、最近3巻でたばかりですけど、10回ぐらい読み直しています。

僕は基本的に攻撃的なマンガってあまり好きではなくて、どちらかというと『ひらやすみ』のような作品が好きなんですけど。『住みにごり』は対照的じゃないですか(笑)。なんですけど、毎回毎回自分の「この先こうなると嫌だな」と思う展開の2倍ぐらい嫌な展開が続いて、ある種自分の心の嫌なところをグイグイ抉ってくるみたいなところが、嫌な気持ちにはなるんですけども琴線を揺さぶられてとても面白いなと。まだ2作目とかだと思うんですけど、何者なんだろうこの人はと。

 

これからも作家性のある楽しい雑誌を

――次の方へのバトンとしまして、同じマンガ編集者の方へ向けて何かコメントがあればお願いしたいです。

西山 同じ編集部でも、同じ会社でも、もちろん他社の本でも、すごく面白いマンガを作っていたりとかすると…それこそ『鬼滅の刃』みたいな、あれだけブームになるものがあると書店に人が増えてすごく嬉しいしありがたいなと思うと共に、一個人としても自分の担当作や、そして『ビーム』も負けないぞという気持ちで一生懸命頑張っていきたいと思っています。作品をどうやって多くの人に届けていけるかがな考えているので、全員で業界を盛り上げていきながら切磋琢磨していければすごく良いのではないかなと思っています。

――ありがとうございます。何かお知らせなどありましたらお願いします。

西山 全3巻の『ミューズの真髄』はぜひ読んでいただきたいのと、4月に発売された『くちべた食堂』も担当していまして。『くちべた食堂』は作家さんと最初に目標としていた10万部を達成できたことが嬉しいなと思っています。疲れたときに読むとすごく沁みる話だなと思っているので、真反対なお話ではありますが(笑)お読みいただけたらすごく嬉しいです。

山本 さきほどと重複してしまうんですけど、僕は初めて丸尾さんを読んだのは中学生ぐらいのときに『少女椿』で。そのとき好きだった女の子が『少女椿』を読んでいて。

西山 怖いよ!(笑)

山本 それ以降、心の中にずっとあって。担当させていただけて、ものすごく光栄なことだなと。かつその新作に立ち会えるということは編集者経験としてもすごく誇りを持っています。元編集長の岩井が編集担当、私が編集部内の担当という形でやっているんですけども、中身も本当に苦労しながらやっていて、面白いので手に取っていただけたらなと思います。

西山 いつもの丸尾さんの作品よりとっつきやすさみたいなものがありますね。

山本 「地下潜行的マンガ道」というのが良いキャッチフレーズだと思っていて。最初の丸尾さん作品として読んでもらうのもいいかもしれないですね。あと、60年代が好きな人ってたくさんいると思うので、丸尾さんの線で描かれる当時の風景とか、ジャックスの『マリアンヌ』が印象的に使われていたり多くの歌謡曲も出てきますから、そういった60年代の風俗や文化に興味がある人に読んでいただいても楽しめると思います。

――最後に『ビーム』の読者の皆さん、マンバ通信の記事を読んでくださっている皆さんに一言ずつお願いします。

西山 いろんな作品があって作家性のあるとても楽しい雑誌だと思っているので、どの作品が入り口でもよいので、読んでいただけると大変嬉しく思っております。既に読んでくださっている方には、末永く読んでいただけたらと思うので、これからも新しくなっていく『ビーム』を楽しんでいただけたら嬉しいと思っております。

――本日はどうもありがとうございました。


 単行本第1巻が発売したら強く推したい新井英樹さんの新作『SPUNK -スパンク!-』を始め、毎号非常に楽しみにしている『ビーム』。どんな方々が作っているのかドキドキしていたのですが、実際にお会いしてみるととても人当たりの良いお姉さん・お兄さんらによって作られていたのに驚きながらも、お話の中でマンガ愛と共に確かに若い新世代にも受け継がれている「ビームイズム」を端々から感じ取りました。これからも、何ものにも縛られず作家性迸るエネルギッシュな作品を送り出し続けてくれるであろう『ビーム』編集部を応援しています。

 

コミックビーム作品
コミックビーム編集部が入るビル

 

記事へのコメント

通勤電車の中で立ちながらマンガを描いているという。伊達に「手塚」って名前が入ってないですね

手塚すぎる

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