おくれまして青春
制服デートをしたことがある人もない人も #1巻応援
おくれまして青春 吉良はなまる
兎来栄寿
兎来栄寿
″この世には2種類の人間がいる 制服デートをしたことがある人間と 制服デートをしたことがない人間だ…!″ というモノローグから始まる本作。 皆さんは中高生のころに制服デートしたことがありますか? 私はマンガとゲームが恋人だったので、来栖川家のご令嬢と二次元でデートしたり、三次元では制服の女子3人と麻雀を打ってたりしたくらいがせいぜいです。同じ部活の友人ふたりが付き合いだして先週の土曜日にデートしてたらしいという話を尻目に、タイガーランページとグリフィススクラッチはどっちが強いか談義で盛り上がっているような青春時代でした。 いいんですよ、恋愛がなくても人生は楽しいんですから。でも、実際にその青春時代にしか放てない眩い輝きを目の当たりにすると、ラピュタのポムじいさんさながらに「その光は強すぎる」という状態に陥らざるをえません。 本作の主人公は、大学デビューしたものの青春への憧憬を捨て切れず拗らせた想いを抱えている茅野わかば。そんなわかばが、制服への憧れを捨て切れずに20歳になってハロウィンへ制服姿で繰り出し、そこでイケメンの郁斗と出逢うところから始まるラブコメです。 20歳ならまだ全然いいですよね。20代後半とか30代まで未練や心残りを抱えるよりは、若い内に昇華してしまう方が全然良いと思います。そして、子供のころには大人に見えていた20歳なんて、実際に通り過ぎてみればまだまだ青春真っ只中。わかばの遅れてやってきた青春、存分に謳歌してほしいなと思いながら楽しんでいます。 新鋭ながら吉良はなまるさんの絵がとても良く、わかばはかわいくて外見も性格も推せるヒロインですし、郁斗のイケメンっぷり、特に決めゴマのパワーは凄いです。デフォルメ絵もかわいくて好きです。 設定こそ少し尖った部分はありますが、中身はまさに少女マンガの王道。遊園地デートや学園祭など定番のイベントや女子が憧れときめくシチュエーション満載で、青春の光輝に満ち満ちています。1巻分だけでも特濃の甘みを堪能できます。 自分の人生では体験できなかったことも、こうした作品を通して擬似体験できるのがマンガのいいところですね。
嘘とか恋とか
編集者はなぜ希望部署に行けないのか #1巻応援
嘘とか恋とか 六つ花えいこ 加瀬アオ
兎来栄寿
兎来栄寿
女性向けファッション誌の編集部で日々激務をこなす緒野ひよりが主人公の本作。 いきなり枝葉の話なんですが、主人公が読んでいて非常にかわいそうなんですよ。メインの恋愛面ではなく、サイドの仕事面において。 ひよりは文芸志望で出版社に入ったもののまったく畑違いのファッション誌に配属されて、 「こんなところにいたって誰かの心を動かす仕事なんて出来るはずもない」 と思いながら仕事をしているんです。こんな悲しいことがあるでしょうか。 私が受け持っている連載の「となりのマンガ編集部」の取材やそれ以外でも、「本当はマンガ志望ではなかった」あるいは「本当はマンガ編集になりたかった」「マンガ編集にはなれたけど希望する雑誌ではなかった」という方に数多くお会いしてきました。結果的に上手くいっているパターンも多いですし、たとえば伝説の編集者である壁村氏なども元々マンガなど一切読まなかったといいます。ただ、それらは生存バイアスでしかないとも言えるかもしれません。 何十年も昔からずっとこのシステムが続いているのは、個人的にはすごく不思議です。どう考えても自分の好き・得意を活かせる部署に行ってもらった方が三方よしではないでしょうか。 作中で、編集長が主人公に ″文芸も女性誌も全くの別物ってわけじゃあないの 目の前の読者のために作るのは同じ 一度本気でやってみたらきっと面白さもわかるわ″ と諭す良いシーンがあり、また思い人にも ″きっかけ次第で変わることってあるよね″ と重ねて言われます。 しかし、しかしですよ。仮に本には年間で数十万円課金しているけどその分服飾代に年平均1万円もかけず「チュニックって何? シュミゼットって何?」というレベルの人間がファッション誌に行ったとして、まるで興味を持てない対象に対してどんな仕事ができるのかと。 逆も然りで、文芸やマンガにまったく思い入れがない方がその編集部に配属されて作家やアシスタントや関係者と揉めて大きな問題に発展してしまうケースも少なくない気がします。 どんな仕事も本気で取り組めば見えてくるものは確かに多いとは思いますし、さまざまな知見は別の場所でも生きるのは解りますが、それでも文芸に詳しい人には文芸を、マンガに詳しい人にはマンガを担当してもらった方が読者のためにもなるのではと。 同じマンガ編集部であっても、例えば『アフタヌーン』と『なかよし』ではまったく違いますしね。そういう点では、白泉社などは新人は必ず行きたい部署に行けるシステムがあるそうですごく良いなと思います。 ものすごく脱線しましたが、冒頭からスタイリストさんに朝まで詰められる主人公が本当に不憫でならないのです。 本筋は歳の差ゆえに破れた片思いが記憶喪失という事件を通して蘇り、ひとつの嘘をついて危ういバランスを保ちながら進んでいくハラハラ感と恋のドキドキの二重奏の引きが強いです。 また加瀬アオさんの絵がとても良くて、全体的にすっきりと読みやすくありながら女子はかわいく男子は格好よく、適度なデフォルメ部分も愛らしいです。文字が詰まっていても気にならないほどネームも読みやすくて、今後ますます人気を博していかれるでしょう。 シンプルにエンターテインメント性が高い恋愛ストーリーで、仕事面でも恋愛面でもこの先が気になります。
パンチラッシュJKタラちゃん
『股間無双』作者が送る健康的JK格闘 #1巻応援
パンチラッシュJKタラちゃん ジブロー 斯道歩
兎来栄寿
兎来栄寿
『股間無双~嫌われ勇者は魔族に愛される~』のジブローさんが原作を務め、新鋭の斯道歩さんが作画を担当する本作。 身長2mを超える威圧感ほとぼしる風貌で中学時代に喧嘩無敗の「拳王」と呼ばれ恐れられた男・二階堂勝王(かつおう)は実は一度も戦ったことがないビビりで、本当に強くて武で頂点を目指しているのは双子の妹である多薇(たら)だったという設定で始まる健康的学園格闘マンガです。 ジブローさんの作品ということで『股間無双』をお読みの方であればご存知の通り、良い意味でとても頭の悪いマンガとなっています。だが、それがいい。 勝王いわく「学校で一番風紀を乱している」教師である吉良綺羅々(きらきらら)先生はとにかく「バルン」「バルン」という擬音を放ちながら初登場から4ページかけてその恵体を見せつけてきますし、多薇と最初に戦うことになる″鉄拳アングリー″こと中島亜久里(あぐり)も自身の癖を露わにする妄想を3ページかけて見せつけてきます。いい趣味してるぜアングリー! 1話読めば解る、健康的な描写への尺の割き方に安心と信頼のジブロー節を感じずにはいられません。「パンチラッシュ」の「ッシュ」の部分から色を変える装丁も、作り手の意志と意気込みを感じます。 斯道歩さんの高い画力が存分に生かされたパンチラやパンツ舐め構図の豊富さは、大変に健康的です。かと思えば、格闘アクション部分の描写も非常に力が入っていて迫力があり格闘マンガとしての楽しさもしっかりとあります。 スネ毛のキモさに定評のある″スネ一文字″ローキック菊郎のようなダサい名前のイケメンがブチ切れている性格で、しかもしっかり強いのは坂本ジュリエッタ的な何かを感じます。 巨乳で絶対領域持ちの黒髪ロングストレートJKがガチで戦うマンガが好きな方、『はぐれアイドル地獄変』や『一勝千金』が好きな方にオススメです。 それにしても、長谷川町子さんもまさかこんな作品のモチーフになるとは思っていなかったでしょう。
ザ・キンクス
「うれいらずたのぼー!」 #1巻応援
ザ・キンクス 榎本俊二
兎来栄寿
兎来栄寿
『ルックバック』の劇場版アニメ化が本日発表されましたが、藤本タツキさんもファンであることを随所で公言する榎本俊二さん(『チェンソーマン』ファンの方はぜひ『斬り介とジョニー四百九十九人斬り』を読んでください)。 これまでも『GOLDEN LUCKY』や『えの素』に始まり、『榎本俊二のカリスマ育児』や『思ってたよりフツーですね』、近年では『アンダー3』や『表4子ちゃん』などさまざまな作品で溢れ出る虹色の才能を披露してきました。下ネタとギャグの印象が強い方も多いかもしれませんが、決してそれだけではないことは『火事場のバカIQ』などを読めば一目瞭然です。 そんな榎本俊二さんの最新作。従来の作品とはまた違ったテイストを提供してくれています。35年のキャリアを重ねながら、未だに独自のセンスを縦横無尽に発揮し続けているのは尊敬します。まるで、汲めども汲めども枯れない泉のよう。 本作は、あとがきで筆者自身が語っているようにこれまでは掌編や4コマが中心だったものの残り少ない人生の中で挑戦をしようと描かれた、毎話16ページの連載です。 内容としては、小説家の隅夫・妻の栗子・中学生の長女茂千(もち)・小学生の長男の寸助の4人家族である錦久(きんく)一家を中心にしたコメディ……という字面から想像できるものの数段階斜めに行ったものです。 まず、4コマや掌編を思わせるコマ間のテンポの良すぎる展開。 栗子が 「うえー同窓会だって 行かない〜〜〜〜」 と言った次のコマではおめかしして 「行ってきまーす」 とコロッと言動が反転していたり、 「来月までにお芝居の台本書いてくれない?」 と栗子に言われた隅夫が 「断る」 とやや大きめのコマで拒否した次のコマでは 「おはよー何書いてるの?」 「芝居の台本だ」 と言った具合です。 普通ならこの間に何かしらのコマを挟みそうなものですが、それを省いています。 また、このスマホで読まれることを意識する時代には珍しく、各ページ3〜4段を基本として5段のコマもあります。これらによって、1話1話の情報量が多く密度が濃くなっています。 そして、普段は詰め込んだコマ割りでありながらここぞというときには大ゴマや見開きで爆発させる。この緩急が読んでいて非常に爽快です。毎回の「ザ・キンクス」の題字の出し方など最高です。 また、義両親との関係性であったり保護者面談であったり、子育てや田舎あるあるであったり、社会的に地の足のついたテーマをリアルに描きます。孫に良いもの食べさせてしまう祖母、かわいい。しかし、そこから突然翼を生やしたように羽ばたく自由な発想が注入されていくところは流石のセンスです。旗振り当番の話を考えさせても100人中99人はそうはならないでしょう。 1話の言葉遊びや5話の物語創作の技法や空想のお話、番外編の哲学性など、榎本俊二作品らしさが溢れているところも堪りません。6〜7話の構成力の高さなどは、素のマンガ力の高さに感服させられます。 かと思えば、抽選会の2等の賞品が「高級赤外線スコープ」であるところなどはちょっと普通には出てこないセンスです。 「うれいらずたのぼー!」は声に出して読みたくなるセリフで2024年筆頭クラスになるのではないでしょうか。マンガを読むときに普段はまったく使わない筋肉を使って筋肉痛になるような快感があります。 見所が詰まりすぎていて、人によって好きになる点や良いと思う点がそれぞれにあるのではないでしょうか。 榎本俊二さんは凄まじいマンガをたくさん描かれてきているのですが、近年の主要なマンガアワードではあまり名前が挙がることがありません。しかし、この『ザ・キンクス』はほど良い具合のキャッチーさとニッチさを併せ持っており、下ネタもないため広く薦めやすいこともあって「このマンガを読め!」のようなところで上位に入るポテンシャルを感じます。ぜひ何かで上位を獲って、改めてこの天才的なセンスを世に知らしめて欲しいです。 余談ですが、あとがきマンガの1コマで積み重ねられた本の中に「チェンソー」というタイトルがあるのは藤本タツキさんは嬉しかったんじゃないかなぁと勝手に思っています。『ロマンガロン』と並んでいるのも良いですね。
悪役令嬢の中の人~断罪された転生者のため嘘つきヒロインに復讐いたします~
美しい貴族令嬢の、本質はもはや任侠では
悪役令嬢の中の人~断罪された転生者のため嘘つきヒロインに復讐いたします~ 白梅ナズナ 紫真依 まきぶろ
hooper
hooper
言いたかった、どこかでタイトルの想いをぶちまけたかった。 まず、定番の悪役令嬢のざまぁモノでは重要なファクタとなる「見返すためのもっと上の男」が存在しない(出ては来る)。 色も恋もない、悪役令嬢による一直線の報復だけが描かれている。 そして復讐の動機となる、エミさんへのエミリア嬢の恩義がもはや、任侠のそれである。 「おやっさんがァ、おやっさんだけがァ、ワシに生きる場所をくれたんじゃあァ!!」 そんな広島弁マインドを胸に(※個人の感想です)、頭も切れるインテリヤクザチート令嬢の復讐には無駄がない。音速の巻きで勢力図を塗り替える。好き。 ヒロインのピナさんが一巻ではそこそこホラー顔で恫喝してきたが、ご安心ください、そのへんでゴロまくチンピラ程度です。 ちょっと違うけど「バチギレして無双で勝っちゃうBLACK LAGOON IF日本編鷲峰組」でキラキラなパティスリー作ったらこうなるんじゃなかろうか? また、「なろうの原作では本編後が真っ黒なんだけどこの辺漫画にできるの…?」という好点も気になる。 今後もネットで読んで紙版も買います!好きっ! 思いの丈をぶちまけられて、満足です。