阪急タイムマシンにコメントする
阪急タイムマシン
阪急電車がつなぐ過去と現在と未来
阪急タイムマシン 切畑水葉
ANAGUMA
ANAGUMA
みなさま宝塚ときいて頭に浮かぶのはやはり歌劇団でしょうか。兵庫県に宝塚市という町があって、宝塚歌劇団はそこが本拠地です。関西圏以外の方には意外に知られていなかったりしますね。 本作の舞台はその宝塚。の周辺とそこを走るローカル線阪急電車。そしてどうでもいい話ですが私の出身も宝塚。地元がとんでもない解像度で描かれているの、う、嬉しい…!と思いながらずっと読んでました。 主人公の野仲さんは手芸が好きで雑貨屋さんで働いています。が引っ込み思案の性格でお友達がいないのが悩み…。彼女が偶然阪急電車のなかで小学校のころの親友サトウさんと再会したことから物語が動き始めます。 阪急ユーザー、生活圏と移動パターンが重なってくるのでこういうこと起きがちな印象。私の祖母も電車乗ったらしょっちゅう誰かと鉢合わせていました。 長く乗っている路線の風景って心に深く刻まれているものだと思います。たまたま私は阪急に縁があったのでより強く感じましたが、電車や駅と合わせて呼び起こされる記憶は多くの方がお持ちではないでしょうか。そしてその思い出は必ずしもいいものばかりではなかったり。 本作でも阪急電車という「タイムマシン」を通して徐々に二人の過去と思いが明らかになっていきます。 手芸という共通の話題をキッカケに関係が再開したことを喜ぶ野仲さんですが、サトウさんの方はどうもぎこちなくて「親友と再会!また一緒に楽しもー!」と無邪気な物語にはなりません。 なぜならふたりはもうこどもではなく、おとなになっているから。 二人のすれ違いの原因も幼い日の阪急電車にありました。ふたりのあいだに深い溝をつくった子どもゆえの残酷な出来事です。 野仲さんの視点で記憶をたどる時、思わず胸がキュッと痛んでしまうかも…。それほど生々しい質感があります。 とはいえタイムマシンは過去だけではなく、未来にも繋がっています。過去の友情を見つめ直したふたりを阪急が今度はどこに運んでいくのか、最後まで読み終えたあとには願わくばもう一度読み返してほしいです。 ふたりがあのとき何を考えていたのか、まさに電車に乗りながら思い返すような心地がして、じんわりと気持ちが染みてくるので…。
どちらかの家庭が崩壊する漫画
主婦・ユイのほうの義母がリアル
どちらかの家庭が崩壊する漫画
ゆゆゆ
ゆゆゆ
孫に会いたい気持ちと、良いことをしている自分に酔うのを並立させちゃうかんじがリアル。 突然理由をつけて行くよ連絡に始まり、好みでない服を渡されるとか、子どもの面倒をみるといって古い知識で対応されるとか。 さらに、ユイの夫はダメ男過ぎて、読んでいて心がしんでしまう。なんでこいつと結婚した。 とはいえ、対照となる毒山家がイクメンお父さんとなっているのは、働いてないからだろうなと思った。 二人でみているから余裕がある。 お金はないけど。 赤ちゃんは大人二人で1から10まで面倒をみないと、とても大変。 そして毒山家義母は、嫁に好みでない、サイズも不確かな服じゃなく現金を手渡してくれる。 よくわかっている。 現金。 商品券じゃなく、現金。 取っておけば、子どもが成長したときの資金になり、使えば今助かる。 封筒にすら入ってないのが生々しいけど、そんなのは些末に感じるほど、いらない服や夫婦で決めたかったアレヤコレヤの押し付け(知人談)と比べると、現金は嬉しい。 作中の義母ふたりは、自分が当時必要だったものを与えているだけかもしれない。 それなのに差が生まれるのは、結婚相手の親は選ばなくても身内になってしまう他人、という距離感を忘れているからと思える。 夫婦の関係も危ういのに、義母が更に危うくしてくる。 どちらも崩壊しそうな、危ういところに立っている御夫婦のお話。
そしてヒロインはいなくなった
50歳差の奇妙な縁 #1巻応援
そしてヒロインはいなくなった
兎来栄寿
兎来栄寿
『けむたい姉とずるい妹』、『かけおちガール』など今をときめくばったんさんの新作です。 よく「男はフォルダ保存、女は上書き保存」などと言われますが、それも当たり前の話ですが人によって千差万別。 この物語は、上書き保存できない女たちが主人公です。 共に男に逃げられたことを共通点として居酒屋で知り合った、半世紀分の年齢差があるトラさんと妙子。奇妙な縁で結ばれたふたりは、お互いに新たな相手を見つけようと頑張ってみるものの、どうしても心の中に忘れられない相手がいる。そんな様子が、ばったんさんらしい豊かな情緒で綴られていきます。 普段はクールで押しに弱い性格であるものの、トラさんに対してはそのときの状況もあって強い口調で忌憚なしに言いたいことを言い、それも功を奏して不思議と気の置けない関係となった妙子。 トラさんも、自宅に呼んでコーディネートをお願いするくらい妙子のことを気に入っているのが良いです。普段、家では猫くらいしかいない孤独な暮らしをしているであろうトラさんにとって、妙子と憎まれ口を叩き合う時間がどれだけ眩いものであるか。 人生の先達としてのトラさんの言葉も、含蓄に富んでいます。 ″いいか悪いかなんて自分で決めな″ ″自分で決めたことけなすんじゃないよ″ という節などは、特に好きなところです。自分の選択に自信を持ち美学を大事にして生きるトラさん、本当にカッコいい。飲み屋で管を巻くのはともかくとして、老いてもこういう風でありたいと思える人物像です。 そんな彼女たちのそれぞれの道は、関係性はどうなっていくのか。見逃せない物語です。
変声
誠実に向き合うことの大切さを物語る短編集 #1巻応援
変声
兎来栄寿
兎来栄寿
『銀のくに』と、この『変声』はやしわかさんの初単行本が2冊同時発売となりました。 こちらは、表題作の「変声」と、それに連なる「変声~それから~」「変声~蕾(つぼみ)」、そして「モダンにめしませ」の4編を収録した短編集です。 表題作の「変声」については、以前に↓で書きましたのでご参照ください。 https://manba.co.jp/topics/43263 「変声~それから~」を読むと、サブキャラクターたちの掘り下げによって「変声」の魅力がさらに立体的になります。 「変声~蕾(つぼみ)」は、「変声」本編を読んだ人へのご褒美のように感じます。 「モダンにめしませ」は、恋する隼人くんがバイトをする古着屋で買ったコートに宿ったモダンガールの幻霊に戸惑う、20歳の女の子・陽奈の物語。 自分に自信のない陽奈でしたが、可愛くない女の子なんていないと鼓舞してくれるモダンガールの影響で、陽奈は少しずつ変化を遂げていきます。 モダンガールが語る ″己を知らずに合わないことや興味のないことを 無理にやってもダメよ 彼の好みの中で自分の好きを見つけなさい それはこの恋に限らず今後のアンタの武器にもなるわ″ というのは、すごく良いアティテュードだなと思いました。たとえ恋が実らなかったとしても、確実に自分は成長できる。10代初期かその前に知っておきたい言葉です。 恋をすることでより自分に向き合い、今まで知らなかった自分も知っていくところは「変声」の終盤に最後にラジオで語られた誠実な言葉とも重なりました。 『銀のくに』もそうですが、蟠るものもありながらそれを真っ当に乗り越えていく姿を見て心に風が通ります。 総じて「誠実に向き合う」ということの大切さ・尊さを語ってくれる短編集です。はやしわかさんは今後もますます活躍していくであろう方なので、今からぜひ注目してみてください。
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