先日、『最果てのセレナード』の記事で触れたひの宙子さんの短編集です。2021年から2023年にかけて『フィール・ヤング』に掲載された5つの作品が収録されています。

ただ、それらの作品の温度差たるや最近の三寒四温な気候に匹敵するほどです。作者自身があとがきで言及しているように「振り幅すごい」。でも、そんなところもまた短編集の味わいの良さの内であろうと思います。

14歳になった主人公が「はる」に手紙を送るシーンから始まる表題作である「やがて明日に至る蝉」は、一見青春群像劇のように見えます。が、読み進めていくとただのそういったお話ではなく、あるテーマに取り組んだ作品であることが解ります。苦心しながら描き切ったであろうことが伝わってくる内容ですが、相変わらず構成力が高いなあと唸らずにはいられませんでした。

続く「折って切らない」も、『フィール・ヤング』らしさを感じる1篇です。マイノリティの生き難さ、とりわけ一番身近な存在である家族から理解を得られない辛さは特別大きいものですよね。最終ページのメールの文面にとても共感してしまいました。同じような共感をするであろう、かつての友人たちが元気に平穏に暮らせていることを祈ります。

ホタテガイの女」と、「タラバガニの男」はひの宙子さんがギャグやグルメに振り切っても素晴らしい作家であることを示すお話です。1コマ目のセリフが
"あなた七輪持ってるでしょう"
から始まる男女の物語、端的に大好きです。ここで描かれる、最高のホタテガイやタラバガニのシズル感たるや、並のグルメ番組が裸足で逃げ出しそうなレベルです。色も、音も、匂いも、存在しないはずのモノクロの画面からすべてが伝わってきます。最高のホタテガイを最高に美味しく食べるために、ジョルノ・ジョバーナのように敬語でまくし立てるところの愛しさよ。読んだら貝焼き味噌という犯罪行為を犯したくなること請け合いです。

総じて、お薦めの短編集です。連載の『最果てのセレナード』や、4年前に発売された『グッド・バイ・プロミネンス』とあわせてぜひ。

読みたい
ひねくれ騎士とふわふわ姫様 古城暮らしと小さなおうち
かわいくて優しいミニチュア×古城ファンタジー #1巻応援
ひねくれ騎士とふわふわ姫様 古城暮らしと小さなおうち
兎来栄寿
兎来栄寿
『エルフと狩猟士のアイテム工房』や『ゆずべんとう』の葵梅太郎さんによる待望の新作の1巻が本日発売となりました。 私はもう、かねてより葵梅太郎さんの描くマンガが大好きで大好きでこの『ひねくれ騎士とふわふわ姫様 古城暮らしと小さなおうち』も連載開始の報を聞いてから一日千秋の気持ちでとても楽しみにしていました。 そして、蓋を開けてみればファンタジー世界を舞台にした古城とミニチュアのお話ではないですか。私、何を隠そう西欧の古城が大好きなんです。初めてヨーロッパに行く際にも、ドイツの古城ホテルを行程に組みこみました。RPGの世界を現実に歩けるような空間は堪りません。若い頃は将来古城に住みたいとすら思っていましたし、今でもちょっと別荘にひとつ小さくて良いので古城が欲しいです。そして、マンガをたっぷり詰め込んだ書斎を作る。ひとつの夢ですね。 そして、ミニチュア。最近はあまりやっていませんが、幼いころから細かいものを手作りする作業は割と好きだったので、本格的にやっているわけではないのですがミニチュアにも興味のある方です。 好きな作家さんが、すごく好きなテーマで面白いマンガを描いてくださる。こんな嬉しいことがあるでしょうか。 テーマもさることながら、1話を読んだ時点でもう葵梅太郎さんの良さがたっぷりと出ていて本作も大好きな作品になることを確信しました。 王から要請された、姫クローニアとの結婚話を断るために古城に赴く騎士ルークス。しかし、ふたりは「精霊が見える」ということで人々から奇異の目を向けられ虐げられてきた過去を共通の体験として持っており、徐々に心の距離を縮めながら古城で新たな生活を営んでいきます。 痛みを知るふたりが、それを乗り越えて最終的に幸せを手に入れていく時間の描き方が流石でグッときます。この優しい気持ちになれるハートフルな筆致が本当に本当に大好きです。加えて、純粋にクローニアとルークスがふたりともかわいくて推せます。歳の差カップルですが、そこまで大きく離れてもいないですし、いっぱい幸せになって欲しい……。 妖精たちの言葉まで解るルークスの通訳によって、クローニアは妖精たちにミニチュアの家を作ってあげるのですがその製作の様子も楽しくてかわいくて、見ていてワクワクします。その辺にあるものを改造して家にしていくのがまた楽しいです。 段々と登場してくるサブキャラクターたちも魅力的で、この先の物語の広がりもとても楽しみです。 とにかく、いろんな要素から個人的に大好きな作品です。古城、ミニチュア、年の差のある穏やかな恋愛、ひとつでも引っかかる要素があればお薦めします。
女神の標的
戦後の金塊争奪サスペンス #1巻応援
女神の標的
兎来栄寿
兎来栄寿
『がんばれ元気』、『お〜い!竜馬』、『あずみ』などでお馴染みの、小山ゆうさん最新作。『颯汰の国』を挟んで、『雄飛』と同じ昭和の物語が新たに紡がれています。 本作は1953年の戦後間もない時代が舞台。大衆演劇の花形役を務める主人公の春子が、日本軍の大佐であった父が隠した日本再建のための金塊を巡る争奪戦に巻き込まれていくサスペンスです。 男剣士を凛々しく演じる美しく強い春子は、恩義のある座長のもとで何も知らず暮らしていましたが、ある日を境にその日常が崩れていってしまいます。ただ、戦後という時代もあり、ただやられるばかりではなく暴力に対し時に立ち向かって反撃していく姿もあり痛快です。 鴻鵠の志で金塊を隠した春子の父に対して、本当に存在するのかどうかも解らない「女神」(作中で金塊の隠語と語られる)を巡って、多くの人々が醜悪な争いを起こしていくさまは何とも言えません。 そしてまた、もし金塊が時の総理の下に首尾よく回っていったとしてもそれが正しく使われるかどうかは別の問題として存在するのもまた無常感を覚えさせられます。仮に総理が高潔な志で差配を行おうとしても、さまざまな思惑や柵が絡んだ政界でどこまで理想通りに事を運べるのか。栓なきことと解りながらも、考えてしまいます。 ともあれ、さまざまな勢力が互いに画策し合い息もつかせぬ展開で、誰を信用できて誰が信用できないのかも解らない春子の緊迫感がそのまま伝わってくるようです。 小山ゆうさんももう76歳ですが、筆に翳りは見えません。池上遼一さんも今月で80歳を迎えますが、皆さんお元気でい続けて欲しいです。
やがて、ひとつの音になれ
失った音と生きる意味を取り戻していく物語 #1巻応援
やがて、ひとつの音になれ
兎来栄寿
兎来栄寿
新鋭・草原うみさんの初商業連載作品です。 路草で公開されていた珠玉の短編をまとめた『mothers 草原うみ短編集』も6月に発売となるようで、併せて推したいです。 本作の主人公は、5歳からコンサートに出演し10代前半からプロとして活躍しながらも局所性ジストニアという脳の病が発症したことをきっかけにピアノを弾けなくなってしまった越智奏(かなで)。 かつての仲間たちが華々しい活躍をしているのを尻目に、印刷工場のバイトをして日々を凌ぎながら誰とも話さず下を向いて耳を塞いで過ごす日々。 そんな彼を変えるきっかけになったのは、隣の部屋に引っ越してきた33歳のライターの横野絵里と、その6歳のピアノに憧れを持つ息子の陽向多の親子。7年ぶりに向き合ったピアノの音色と人との触れ合いが、奏の失ったものの大きさと大切さを気付かせていきます。 音楽という軸がまずあり、その上で人生で最も大切なものを失くしてしまった青年の再起の物語という軸も並存しています。夢も未来もすべてを無くしてしまい、無気力になり周囲に呪詛を撒き散らすことしかできなくなってしまっていた奏の姿は痛々しいですが、理解もできます。 草原うみさんは、短編からも本作からも痛みや悲しみを掬い取り、そうしたものを描いた上で前に進む普遍的で大事な人間の営みを描くのに長けている方であるという印象を受けます。どうしようもなく人生に訪れる不条理や不遇、他者からの心ない扱いを受ける瞬間。そういったものもありながら、勇気を出して前へ進んでいく人間の気高さや尊さを描ける方です。 この物語のもうひとりのキーパーソンは、かつて奏の音に心酔していて、今は「ネオピアニスト」として動画配信サイト経由で大きな人気を博すようになった真琴。彼との再会によって物語は動きを見せ始め、互いの存在が互いに大きな影響を与えていきます。 個人的には、横野親子との日々の交流シーンが好きです。現代では希薄になりがちな隣近所との関係ですが、そうした赤の他人との繋がりが大きな支えになることもあるというのも良いなと思います。 単行本の表紙絵も非常に良く、回収されるであろうタイトルを表すシーンへと辿り着く瞬間がとても楽しみです。
レタイトナイト
豊かなファンタジーの極致 #1巻応援
レタイトナイト
兎来栄寿
兎来栄寿
『ベルリンうわの空』の香山哲さんの新作です。 前作の『香山哲のプロジェクト発酵記』では「新しい連載プロジェクトの立ち上げ方」自体をマンガで描くという珍しい試みにも取り組んでおられましたが、まさにそこで考え捏ねられ発酵させられていた新作がこの『レタイトナイト』です。 『香山哲のプロジェクト発酵記』自体も、自分の寿命の使い方や物事の進め方を考え、見つめ直すという点でとても面白い本ですし、何より本作と併せて読むことで濃密なメイキングとして両方をより楽しみるのでぜひ読んでみて欲しいです。 香山哲さんは、その在り方が真の意味で「豊か」であるということを感じます。 わかりやすい流行や、かくあらねばならないといった縛りから解き放たれた自由にところで、読み手のこともある程度考えながらも自分が好きなもの・味わいたいものを全開にして描いている。こういう作品が、こういうマンガが世にある、出版されるという状況の何と素晴らしいことかと思います。 一口で言えばファンタジーですが、もう開始数ページの絵だけで魅せられる世界の様子、そして「レタイトナイト」と書かれた扉絵まででも香山哲さんの生み出す圧倒的な世界観に気持ちよく呑み込まれます。 地図や各地のスポットが描かれているところや、いろいろな小道具、その描き方も含めて幼いころに『エルマーのぼうけん』を読んでワクワクしたときのような感覚を呼び起こしてくれます。 ファンタジー世界を描く際に大切なのはそこで生きる者の日々の暮らしのディティールですが、『レタイトナイト』はそこの解像度の高さが素晴らしいです。そこがどんな世界で、どんなルールがあり、どんなことをして、何を思いながら、何を食べて暮らしているのか。そういった部分はつぶさに描かれていき、世界の匂いや温度を感じられます。 この世界独自の生き物や概念などもありながら、光を照らす角度によっては現実と繋がり考えさせられる部分があるのも良きファンタジーとしての性質を満たしています。 個人的には、食堂「フメンカダ」で出されるバラエティ豊富な「マリム(定食)」の数々に心惹かれます。野菜や穀物や豆など、素材としてはシンプルなものが多いのですが、その美味しそうなこと。巻きクブなども、絶対好きです。 これだけの世界観を作り込みながら、比較的ミニマムなお話を展開しているところもまた独特で良いです。普通であれば大国同士の戦争のような大きい話になりそうなものですが、そうではなくこの世界で生きているひとりひとりの地に足のついた生活をじっくり描いているところが、ある種の贅沢ですらあります。 読んでいる間はここではないどこかへ飛んで、豊かな時間を過ごせる作品です。
イセグレ 異世界チート無双 俺TUEEE系イキリ転生者に かませ犬にされ続けたエリート騎士、超グレる。
アンチ異世界転生! アンチトラック!! #1巻応援
イセグレ 異世界チート無双 俺TUEEE系イキリ転生者に かませ犬にされ続けたエリート騎士、超グレる。
兎来栄寿
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異世界転生して、努力もなしに「俺TSUEEEEE!!」してハーレムを築き上げるのは陰キャの希望であり夢。 しかし、そんな夢の下で泣いている者もいるという所にスポットライトを当てた物語です。 幼いころから努力に努力を重ねて強くなり、高潔な魂で正義と平和を愛して人々のために戦い続けてきたレトリバー王国の騎士ポメラ。彼が、続々と異世界から現れる転生者のかませ犬にされ続け、努力は決して裏切らない……などということはなく何の努力もしていない者たちが与えられたものだけで無双してすべてをほしいままにしていくこともあるという、残酷な現実を突きつけてくる物語です。 結果、大いにグレてしまったポメラが逆に現実世界に乗り込み、異世界転生の円環を阻止していくという切り口が面白いです。努力なしに強くなる主人公がメインストリームとなっていた昨今において、カウンター的な作品となっています。 「オレはなァ トラック見ただけでイライラするんだよ!! テメェらは一体今まで… どんだけの人間たちを異世界転生させてきたんだ ボケェエエエエエ――――!!!!」 と、木刀でトラックを叩き壊すシーンは声を出して笑ってしまいました。その数ページ後に更に新しいトラックが出てくるところも最高です。何なら、事あるごとに出てくるトラックの天丼でずっと笑います。 チャンピオン系作品なのに、全体的にマガジン系ヤンキーマンガの雰囲気を纏っているところも好きです。 主人公の名前がポメラなのも、ポメラニアン好きとしては応援してくなるポイントです。 異世界転生させるトラックを破壊するカタルシスを味わいたい方にお薦めです。
神にホムラを ―最終定理の証明方法―
天才少女と解き明かす世紀の難問 #1巻応援
神にホムラを ―最終定理の証明方法―
兎来栄寿
兎来栄寿
『口移しの魔女たち』、『モナリザマニア』のヨシカゲさんが新たに描くのは数学マンガ。 300年以上もの長きにわたって誰も完全な証明はできなかった「フェルマーの最終定理」をテーマにした物語です。1話を読んだときからずっとワクワクして、毎回楽しんでいます。 フェルマーの最終定理の証明に取り憑かれた日系人のアンディ・ホムラが、9歳の孤児である女の子の天才的な数学の素養を見抜いて彼女を引き取り、力を合わせて数学史上屈指の難問に挑んでいこうとします。 数学上の未解決問題、人類の知の真髄がそこにあって心躍りますよね。謎は超大であればあるほどロマンがあります。フェルマーの最終定理も解かれるまでは、その最たるものでした。 ラマヌジャンから取ってラマと名付けられたその少女が、誰から学んだ訳でもなく自ら構築したであろう思考と理論に基づいた大量の記述から溢れ出る圧倒的天才性に、そしてその才気を使って超大な謎に挑んでいくさまにワクワクします。 数学というと理知的なイメージがあるかもしれませんが、ときに泥臭く、ときに狂気的な立ち居振る舞いがなされ、タイトルが回収されていく瞬間も熱いです。 1951年が舞台ですが、史実では1955年に谷村-志村予想が出てくるのでそこにどう繋がっていくのかという点も楽しみです。 メインのふたりを取り巻くサブキャラクターたちも立っていて、題材的には数学ではありますが数学にあまり興味がない人や得意ではない人でも楽しめるであろう内容です。
平成敗残兵すみれちゃん
男子高生、クズ従姉妹をプロデュース #1巻応援
平成敗残兵すみれちゃん
兎来栄寿
兎来栄寿
『八雲さんは餌づけがしたい。』、『マリア先生は妹ガチ勢!』に続く里見Uさんの「お姉さんと少年」系最新作です。 前連載の『八雲さん』の1話を読んだときには里見Uさんの覚醒を感じ、実際に長期連載の人気作品となりましたが、この『平成敗残兵すみれちゃん』の読切版を読んだときもまた別ベクトルで里見さんのポテンシャルを感じました。 そして、そのポテンシャルは現在の連載部分で最高潮に発揮されています。『八雲さん』では作品内容的に描けなかったことを、この『すみれちゃん』の方で思う存分解き放っているように感じます。 31歳の元グラビアアイドルのいとこ・すみれを、同人アイドルのコスプレイヤーとしてプロデュースして売っていこうとする高校生の雄星。実に『ヤンマガ』らしいと思うのは、里見さんの魅力的な絵で描かれるすみれちゃんの恵体もさることながら、その性格のクズっぷりです。酒・タバコ・ギャンブルに溺れ、金遣いも壊滅的。時折、人としてのモラルの低さを露呈していくところが逆に魅力的です。 『ヤニねこ』などとの親和性の高さを感じさせますが、里見さんは『ヤンマガ』という媒体に的確にアジャストしたのか、それとも本質的にマッチしているのか。その回答は、おまけマンガに如実に表れています。 サブキャラクターも魅力的で、芸能プロダクション社長のファムファタ任三郎は登場から強烈ですし、雄星に好意を寄せるオタク女子のひよりの想いの行く末も見所のひとつです。 そして、基本的に破天荒に進んでいく中でも ″信頼ってのは勝手にできるものではなく  急造でも作ろうとする事が大事なのだよ″ といった名言がたまに飛び出すのが里見さんの作家性の良さが出ているところで好きです。1話の最後を見れば、この物語に期待せずにはいられません。 すみれちゃんと雄星は、果たしてどこまで駆け上がれるのか。道中のドタバタも楽しみながら、追っていきたい作品です。
ナヴィガトリア
カバー下がかわいいです #1巻応援
ナヴィガトリア
兎来栄寿
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「ナヴィガトリア(最高指導者)になれなければ、死あるのみ」 というサスペンス性を軸に、独特の設定を持ったSF学園ストーリーです。単行本の表紙も不思議な感じですね。 小説も映画も音楽も芸術も自由恋愛も禁止のムジンコ共和国で生まれ育った鳳凰學(ほうおうまなぶ)が、初恋の幼馴染ヒナと平和に穏やかに暮らせる国を作って迎えに行くことを目的に、各国から100名の若者たちが入学しナヴィガトリアを決める地球初の植民星のデメテール学院で頂点を目指す物語です。 同じくナヴィガトリアにならねばならない理由を持つデメテール人で成績1位のナヴィや、絶対に裏があって怪しいアイダン、最悪の侵略国家ドンモス大帝国の李虚淡(リコタン)、他にも個性溢れる各クラスのリーダーたちなどどんどん登場してくる濃い面々によって一触即発の学園生活が描かれていきます。 ムジンコ共和国人である主人公は、他の有力な国々に比べると見劣りする人材ですが、それでもジャンプらしく愚直な努力を重ねていくことで勝利を目指していく姿は熱いです。世界設定やキャラクターは尖っていますが、根底にはシンプルで強い動機があるのが話への乗っていきやすさに繋がっています。 特殊な課題なども出されていきますが、それをどうやって乗り越えていくのか。果たして、ヒナとの安寧の日々は訪れるのか。 余談ですが、単行本のカバー下に大量に描かれた動物たちがとにかくかわいいです。こっち系統に特化した作品も見てみたくなります。
気になるあの子はカエル好き
カエル好き女子とカエル苦手男子のラブがコメ #1巻応援
気になるあの子はカエル好き
兎来栄寿
兎来栄寿
みなさんはカエルは好きですか? 苦手ですか? 私は矢口高雄さんのマンガを読んで、幼いころ若干トラウマになりかけました。ただ、故郷では伝承によりカエルは神聖な生き物とされていて、毎年6月には街がかわいいカエルで溢れ返り、カエルの乗ったお神輿も担がれるというイベントもあるお陰で今では親しみを感じています。 ただ、義母は大の苦手なので『ダンジョン飯』のカエル回でも見ようものなら卒倒してしまいそうですし、このマンガも残念ながら薦めることはできません。 でも世間でも一定数はいますよね、カエル好きの方。そんな方にオススメなのが、この『ak-69の泣きメシ』や『やみきんっ うしじまきゅん』の松本勇祐さんが描く、カエル愛に満ちたカエル女子ラブコメディです。 カエルが大嫌いな男子・純平と、カエルが大好きな女子・薫。彼らふたりが、カエルの飼育係という接点を持つことによって間柄を深めていきます。 「喉が膨れるのがかわいい」「ぴょんと跳ねるものかわいい」「肌の光沢がいい」など、カエルの魅力を嬉しそうに語る薫とそれをまったく理解できない純平。カエルが好きな人も、苦手な人も共感できるであろう視点が並立しています。 カエルは苦手なものの、薫とお近づきにはなりたい純平の葛藤、その上でコメっていくラブが見どころです。微笑ましく、心温まるやり取りがあります。 個人的には、蛇好きなサブキャラクターの黒髪ロングストレートの紗那先輩がかわいすぎて辛いです。高跳びの選手として格好良さも持ち合わせているのがいいですね。幼い頃に読んでいたら、癖を開花させてくれそうです。 薫が正ヒロインすぎて紗那先輩ルートはないと思いますが、今後も活躍を楽しみにしています。
目の前の神様
笑いも熱量も狂気もある快作将棋マンガ #1巻応援
目の前の神様
兎来栄寿
兎来栄寿
『バンオウ―盤王―』を激推ししている私ですが、『ジャンプ+』でまた新しい将棋マンガが始まったときは驚きました。 題材が被っているけど大丈夫かな? と私含め多くの人は思ったことでしょう。しかし、そんな杞憂を一瞬で払拭する面白さがこの作品にはありました。 要素としては色んな作品のエッセンスを感じますが、総合するとかなり独特な読み味です。とにかく1話から主人公の大刀がゆるい。 「スマートスピーカーのやること少なくね⁉︎ 電気消す仕事ってなんだよ…… お前一日中家にいるのに仕事それだけかよ オレだって電気消す仕事のほうがいいよ……!」 などの独特のセンスによるギャグパートが分量的にもかなり割かれているのですが、面白くて好きです。その後、更に発展するスマートスピーカーのやり取りは声を出して笑ってしまったほど。 チョコチップも大納言あずきも食べたい気持ちを抑えられず、翻訳サイトみたいな喋り方になる田原先生なども好きです。 一方で、そんな笑いと並列にゾクっとするような棋士の狂気や、対局の熱さも描かれます。 2,3話まででも読めば、この作品の上手さは存分に伝わるでしょう。 「一番を目指す気持ちが無ければ こっちに来ちゃいけないよ」 と田原先生が桜吹雪の下で語るシーンの 「一番になれないと苦しい なるまでも苦しい」 という言葉。そこまでは、そうだろうと納得できるでしょう。しかし、それに加えて 「なれたとしてもずっと苦しい」 と言い切ります。そうまでして、何のために一番を目指して指し続けるのか。 その件を受けての3話。 他者を見下す村井が、「奨励会という箱の中」で苦しんだ末にいつしか将棋のことがただの仕事になってしまい、最後に大刀との差異をはっきりと自覚して吐露するシーン。 それぞれ単体のシーンとしても良いですし、2話からの3話という構成としてとあまりにも綺麗で、そこからはもうずっと大好きな作品です。 その後の老練な棋士とのプライドのぶつけ合いも熱いですし、異能ひしめく棋界の魅力的な登場人物もどんどん出てきて盛り上がりを見せてくれます。しかし、そんな強者たちの中にあっても主人公が埋もれない魅力を持っているのもすごいです。 笑えて、滾れて、震える。 毎回、次を早く読みたくて仕方なくさせてくれる注目の将棋マンガです。
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タラバガニの男

タラバガニの男

ある日、柳楽くんの元へ同じアパートに住む花村さんがホタテガイを持って襲来。調理ができない彼女を渋々手伝い、七輪で焼いた絶品ホタテを一緒に食べた。2人は同じ大学と判明し? 飯テロ読切り再襲来!垂涎止まらぬ26P(FEEL YOUNG2023年3月号)
試し読み
最果てのセレナード

最果てのセレナード

業界話題の才能・ひの宙子による、天才ピアノ少女と母殺しの激情サスペンス! 北海道の田舎町。ピアノ教室の家に暮らす中学生・律と、その教室に通うことになった転校生の小夜。あるピアノコンクールをきっかけに2人は仲を深めていく中で、小夜は律に、母親を殺したいと告げた。時は経ち、十年後。律は東京の週刊誌編集部で慌ただしい日々を過ごしていたその頃、地元北海道では白骨遺体が発見されて騒ぎになっていた――。十年前の記憶と十年もの空白。その時の長さなど無視するかのように、いま確実に、物語は動き出す。オムニバス短編集『グッド・バイ・プロミネンス』(祥伝社)が多くの心を揺さぶった著者・ひの宙子が、「月刊アフタヌーン」で初の長編連載に挑むのがこの作品。第1話目は異例の8Pカラー付きでスタートし、『グッド・バイ・プロミネンス』を連載した「FEEL YOUNG」とのコラボ企画も話題となった。
グッド・バイ・プロミネンス

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【電子限定!描き下ろし特典ペーパー収録】劇団雌猫・ひらりさ推薦! 鋭才・ひの宙子初のオムニバス短編集。高校3年の夏、白昼の職員室で担任の笈川先生に告白した喜多さんの噂は、瞬く間に学校中に広まった。恋バナなんてしたことなかったし、告白する時に耳を赤くすることも知らなかった。先生のことが大好きな喜多さん。私のことはどうだろう?(「君、喜び多く、幸深からんことを。」) 1人の女を想い続けた男とその娘の家族未満な関係、男も女も嫌いな女の人生を変える恋、など名状しがたい関係を色鮮やかに描いた8編を収録。
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