いじめ撲滅プログラム
いじめのないディストピアの可否 #1巻応援
いじめ撲滅プログラム ピエール手塚 藤見登吏央
兎来栄寿
兎来栄寿
最近GACKTさんにも絶賛されて話題の『ひとでなしのエチカ』や『ゴクシンカ』のピエール手塚さんが作画、『枕営業の眠さん』の藤見登吏央さんが原作を担当する作品です。 電子では1週間前に発売済みですが、本日紙の書籍が発売となりました。 内容はタイトル通りのもので、人間が人間である限りなくならないいじめに対してAIによりいじめを検知して対処する「いじめリアクター」が開発され、システマティックな統制を行なっていこうとする社会を描いた物語です。 いじめっ子に対しては、物理的な対処を行った上で脳に機械を埋め込み「優しい人間」になってもらうという処置までセットになっています。 『時計仕掛けのオレンジ』や『PSYCHO-PASS』などを髣髴とさせる設定で、ディストピア感もあります。いじめに苦しめられた経験のある人や現在進行形でいじめに苦しんでいる人の中にはこのシステムの実在を望む人も多いのではないでしょうか。 人類史を紐解いていくと、狩猟採集の時代から人間は誰かへの陰口を叩くことによって仲間と結束してきた歴史があるそうです。その時代は弱い者を排斥しないと、直接的に自らの命が脅かされる危険性があったことも影響しているのでしょう。 強い者も弱い者も皆で支え合って生きていく社会というシステムが高度化しても、いまだに弱い者や異なる者を排斥したり、それによって結託したりしようとするのは人類がアップデートすべきバグです。 現実的には人権の問題があるので、個人の脳に機械を生み込んで思考を統制するようなことは禁忌ですが、どうしても起こってしまういじめひとつひとつに対して対症療法を行うよりは根本的な原因を取り除きたいという心理は理解できます。 個人としては堪え難い辛苦を受けた先で、それを再び生み出さないためにどうすれば良いのかという問への回答を自分なりに出した牧人。それ自体は法的にさまざまな問題があるとしても、その大元の気持ちは否定できません。 現実にこれからも存在し続けるであろういじめという社会問題。倫理道徳の境界線上で、考えさせられる物語です。
狂狼は繭を喰む
食うか食われるかのガールミーツガール #1巻応援
狂狼は繭を喰む 中原開平
兎来栄寿
兎来栄寿
表紙とタイトルだけを見たら獣のような男と、かわいい女の子の物語だと思うでしょうか。 我峰組の組長の娘で、敵対していた粟津組の組長との縁談を余儀なくされた16歳の絹姫(きぬひめ)。彼女が、許嫁の粟津組の組長・義典から護衛として付けられたのが野獣のような風貌と体臭、そして圧倒的な″暴″の力を持つ紫安(しあん)。 そんなアンドーグラウンドな世界でのガールミーツガールを描いた作品です。ええ、表紙の絵では男性に見えるかもしれませんが「狂った絆で結ばれたシスターフッドアクション!」と公称されている通りで紫安は女性です。筋骨隆々バキバキのデカい体の女性が好きな方は読むべきです。 本作は何よりもキャラクターの魅力が突出しています。特に、メインの片割れである紫安のキャラクターがバリバリに立っていて良いですね。圧倒的な強さという華。初登場シーンでは絵のインパクトもあり強い印象を最初から与えてくれます。特に1巻で最高なのは、4話で見せる大立ち回りのワンシーン。なかなか見られないものを見せてくれます。 一方の絹姫は女を道具としか思っていない家に生まれてしまったことにより運命を縛られ半ば隷従するように生きてきた少女でした。しかし、紫安との出逢いによって少しずつ変化していきます。アンコントローラブルな危うい存在、でもすべてを壊してくれる可能性を持つ紫安と常に行動を共にする。絹姫には16歳の女の子が背負うには過酷な試練が次々と襲いかかりますが、その中で変わっていく彼女は見ものです。個人的にはシンプルにキャラデザインが好きです。 サブキャラクターの金藤なども良い味を出しています。おまけマンガの金藤はかわいそう過ぎて笑いました。 常に一触即発のテンションで、綱渡りしていくようなハラハラ感を味わえます。裏社会系の物語や、圧倒的な個の武力に惹かれる方は読んでみてはいかがでしょうか。