哭きの竜
あンた、背中が煤けてるぜ
哭きの竜 能條純一
さいろく
さいろく
麻雀を打つ人はきっと「哭きの竜」という名前ぐらいは聞いたことあるでしょう。 麻雀打ちにとって神のような無敵の麻雀打ちの代名詞のようなものです。 でも意外と読んだことある人は多くないのかも? 著者の能條純一先生は今現在は「昭和天皇物語」を描いておられますが、「月下の棋士」も超有名な作品です。絵柄や間の使い方が独特で、読者を魅了する作品を残しています。 本作の主人公は「哭きの竜」と呼ばれる雀ゴロ。 竜自身はめちゃくちゃ口数が少なく、たまに喋ったと思うとヤクザの親分達相手にも怯まずズバッとコケにしちゃうという恐れ知らずにも程がある性分。 ただ、ヤクザの親分になる器が私にはないのだと思うのですが、親分さん達には「神のヒキ」と言わんばかりの竜の持つ「強運」が魅力的に映るようで、テッペンを目指す親分がたは、こぞって竜の強運を欲しがります。 しかし彼らに対して竜は 「あンた、背中が煤けてるぜ」と言います。 背中が煤けてるってどういう意味?という議論が割とあったようなのだけど私の解釈だと「死相が出てる」ってことかと思ってます。 死相が出ている、今やろうとしてるソレはやめときなよ、と言ってあげているのではないかと。 事実、それを言われた人たちはその後大体死んじゃうんですよね。 死神ってわけじゃないんだけど。 触るもの皆傷つける的な、ギザギザハートの子守唄のような存在。 竜は最初こそヤクザの代打ちで稼いでいたものの、気づけば各方面の組長達からのラブコールで引っ張りだこ。 で、仕方ないからついてって麻雀打てというから打ってあげて、勝ったら相手が激おこで死ぬ。 そりゃー竜も嫌になりますわ。 「ふっ」って嘲笑に近い感じでよく笑うんですが、親分からすりゃ「いい度胸だ」と思われて逆に気に入られちゃうっていう悪循環。 竜本人は根無し草をヨシとしているとこもあるんですが、最初の"甲斐の正三"親分から充てがわれた女をしっかり家で待たせてたりと、人情っぽいものも無くはない。ミステリアスというと安っぽいですが、不思議な魅力の持ち主。 漫画としてはどうなのかというと、抽象的な表現が多く、ヤクザ屋さん達の意地や任侠の在り方がわからない私には少し難しかったですが、逆に麻雀を打つシーンはあるものの麻雀のルールを知らなくても全く問題ない感じです。 詰まるところ、竜を囲う周囲の成り上がりたいヤクザ達の物語、と言っても過言ではない。 というかほとんど甲斐組の話ですが、京都の大親分なんかですら竜に魅了されちゃってるわけで… 竜は「ファブル」の"山岡"のような恐怖を知らないタイプの男かもしれません。 読後感はとても良く、新装版では全5巻っぽいので(1冊380Pとかあるけど)一気に読むのには最適ではないかと思われます。 麻雀打ちなら嗜みとしてマスト、そうでない人でも話のネタにはもってこいの作品でしょう。
ゴールデン桜
かつてないほど現実とリアルタイムにリンクした作品
ゴールデン桜 前川かずお 森橋ビンゴ 岡田紗佳
sogor25
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みなさんは「麻雀」というものにどのようなイメージを持っているでしょうか。マンガで言えば有名なのは「アカギ」や「天牌」「むこうぶち」などでしょうか。いずれにしても、ギャンブルだとか、アングラな世界と近い存在という印象を持っている方が多いのではないでしょうか。 しかし最近、そのイメージを払拭しうる、新しいムーブメントが起こっていることはご存じでしょうか? 2018年、競技麻雀のナショナルプロリーグ「Mリーグ」が発足しました。Mリーグはプロ野球やJリーグと同様、一般企業がスポンサーとなってチームを運営し、囲碁や将棋のようなマインドスポーツとして麻雀を捉えて、賭博行為からの完全分離したプロスポーツとして運営されるプロリーグです。10月に初年度のシーズンが開幕し、全試合がAbema TVで生中継されるほか、パブリックビューイングとして、お酒や食事をしつつ、生の実況解説を聞きながら麻雀の観戦を楽しむという新たな楽しみ方も提供され始めています。 ここまでの説明でマンガ好きの方には何か思い当たる作品があるのではないでしょうか。そうです!「咲-Saki-」の世界観、これが現実世界で生まれようとしている、それがこのMリーグを中心としたムーブメントなのです! そんな近年のムーブメントを反映させ、現実に即した形で競技麻雀の世界を描いている作品がこのゴールデン桜です。 主人公はプロとしての一定の実績はありつつも日の目を浴びることのない生活を送る麻雀プロ・早乙女卓也。彼があることをきっかけに、"女性プロ雀士"として活動を始める所から物語は始まります。 競技麻雀ではかつての競技人口の少なさから女性限定の大会やリーグは存在しますが、基本的には男性と女性がフラットに闘うことのできる競技です。その点は他のプロスポーツや囲碁、将棋などとも異なる点かもしれません。また逆に、人気商売であるという側面から収入面では女性プロのほうが男性を上回りがちであるというのも麻雀プロの1つの特徴でもあります。男性が女装して活動するというのはベタな設定ではありますが、この"男女平等"と"男女格差"という相反する側面を兼ね備える麻雀業界を、フィクションの設定を用いてリアルに表現している作品です。 また、内容以外の部分でもこの作品は現実とのリンクを巻き起こしています。まず、あとがきにも描かれていますが、この作品の1話プロットが完成するのとほぼ同時期にMリーグ発足が発表、慌てて作中にMリーグの描写を取り入れるという経緯があります。更に、原作者の岡田紗佳さんは実際にプロ団体に所属する麻雀プロなのですが、2019年7月に行われた第2期のドラフト会議にて指名を受け、今年からMリーグの選手として闘うことが決定しました。しかも指名したチームの名前が"サクラ"ナイツで作品タイトルとも掛かっているという、何重にもリンクが張られた作品となっています。(ちなみに本作の連載は竹書房の近代麻雀ですが、サクラナイツのスポンサーはまさかのKADOKAWAというオマケつき) それでなくても"現役の選手が(監修ではなく)原作を担当するマンガ作品"というのは他のスポーツではなかなか実現しないことだと思いますし、内容としても麻雀の競技自体の表現は最小限に留められているので、ぜひ麻雀というものに触れたことのない方に読んで頂きたい作品です。 1巻まで読了。