なつのロケット
自分たちだけでロケットを製作しようとする少年たちのひと夏の冒険
なつのロケット あさりよしとお
名無し
夏は死にたくなります。世の青春くんたちが海にプールに青春しているのを想像すると、悔しくて仕事がはかどるのです。そんな社畜の夜、空を見上げればそこに星が。いやあ、月まで逃避したい 『宇宙兄弟』『プラネテス』『MOONLIGHT MILE』『水惑星年代記』などなど、宇宙を目指す漫画に無条件であこがれを持ってしまいます。それがなぜか、自分でもよくわからないのですが、だれも見たことのないなにかを見たいというフロンティアスピリッツは、とても純粋なもののように思えるのです。  『なつのロケット』は、少年たちのひと夏の冒険を描いた作品です。舞台は海沿いの街の小学校。実験を主人公の泰斗たちは、実践を旨とし、生徒に実験ばかり教えてくれる理科の藤根先生のことが大好きです。ただ、藤根先生の自由な教育方針は、一部父兄の不興をかってしまい、一学期で辞めることになってしまいます。泰斗たちは、藤根先生の教育の正しさを証明するために、自分たちだけでロケットを製作しようとするのですが…。  泰斗が作ろうとするのは固体燃料ロケットです。液体燃料ロケットに比べて構造が簡単というのがその理由です。先生のために頑張ろうとする泰斗を影から見つめるのが、三浦という少年。  三浦は陰気な性格で泰斗たちと性格もあいません。そんな三浦が、泰斗たちの作りかけの固体燃料ロケットを爆破させてしまいます。理由を説明しない三浦と対立する泰斗。そして、泰斗以外のメンバーは三浦が作りかけの液体燃料ロケットの製作に参加し、泰斗は孤立していきます…。  少年たちの和気あいあいとした青春ものではありません。むしろいがみ合いながら、それでも目的に向かって突き進んでいくというハードな物語です。そこには、“子供だから”という甘えはありません。  「飛ばなくてもいいなんて考えて作ったロケットが飛ぶもんか!!」「『努力した』なんてのは卑怯者の言い訳だ」そんな思いを少年たちは叫ぶのです。  少年でありながら、真剣に前に向かって突き進んだ先にあってもの、この物語の美しさは最終コマに全て込められているのです。
MOONLIGHT MILE
想像しうる未来を描いた宇宙開拓史
MOONLIGHT MILE 太田垣康男
名無し
周期的にどこか遠くへ行きたくなります。ギアナ高地かゴビ砂漠かヒマラヤか…。想像は膨らみますが、実際にはせいぜい飯能で僕の冒険心は終了です。ただ、もし僕が頑健な体と知性(と美しさと財力)があれば、宇宙に行ってみたいと思い、たまに空を見上げるることがあります。  この「MOONLIGHT MILE」も二人の男がヒマラヤの頂上から月を見上げるシーンより、物語がはじまります。世界中の極地に立った二人は、さらなる頂を目指すために宇宙を目指すのです。  二人の内の一人、猿渡五郎は日本の建築会社に就職しありとあらゆる重機の資格を取得し、宇宙空間での建設業務に従事するビルディング・スペシャリストを目指し、もう一人の“ロストマン”と呼ばれるウッドブリッジはアメリカ空軍に入隊し、そこからパイロットとして宇宙を目指します。  紆余曲折を経て、二人がISS(国際宇宙ステーション)で再会するのは7年後。しかしこれはまだ物語の序盤、1巻の出来事でしかありません。そこから、宇宙開発の表舞台を吾郎、軍の陰謀うずまく裏舞台をロストマンが主人公となって、宇宙開拓史が描かれて行きます。  「MOONLIGHT MILE」の凄いところは、この宇宙開拓史が事細かに、もしかしたら本当にこうなるかもしれないというリアリティをもって描かれているところです。ビルディング・スペシャリストとなった吾郎は、次世代エネルギー開発“ネクサス計画”のため、様々な任務をこなします。月面上の作業用機械の開発を手伝い、月往還船の建造を行い、そして第一次月遠征隊の一人として月面のエネルギー開発の最前線基地を建設します。  一方、ロストマンは宇宙における軍事的な覇権を推し進めるアメリカ軍のパイロットとなり、表舞台で宇宙開発が世界の注目を集める中、中国とアメリカの高高度戦闘が行われます。「表舞台か… 軍事利用こそ宇宙開発の真の姿だぜ 悪夢に染まらなきゃ、一番遠い場所には立てねえさ…」そう言いながら確実に任務をこなし続けるウッドブリッジは、やがてアメリカ宇宙軍の要人となります。  ふたたび吾郎とロストマンの道が交差するのは、表舞台と裏舞台がひっくり返るタイミングになるのですが、そこまでいたる夢の様に壮大な開発現場の個人の思いと、人類社会を左右する各国の思惑がからみ、壮大な物語になっているのです。  現在の世界状況の延長線上にある、想像しうる未来を描いた第一部が終わり、想像を越えたディストピアを描く第二部は現在も進行中。「MOONLIGHT MILE」が描ききるのはどのような人類の未来なのか、興味は尽きません。
東京入星管理局
超絶技巧のSFバディアクション!
東京入星管理局 窓口基
ANAGUMA
ANAGUMA
宇宙怪獣・秘密組織のエージェント・バディアクションのうちどれかひとつでも好きなものがあったら読んでほしい一作です!ちなみに僕は全部好きです! 宇宙人の「入星」を取り締まる管理官の仕事っぷりを東京を舞台に描いたSFバディアクション。 高田馬場とか出てくるけどもう「タカダノババ」感がすごい。それくらいパンク。 洋画的な小気味いいテンポのセリフの応酬と、スピードに乗った超絶描き込みのアクションを組み合わせて バキバキに盛り込まれた設定がサーッと披露されていくのが超気持ちいいんですよ…。 どう見てもワケありのツギハギJK「ライン」と、カタコトのストロングファイター「アン」のちょい百合っぽい主人公チームも見てて楽しいです。(あともうひとり文字通り「割って入る」オッサンが居る) 宇宙人周りの管理官ったら当然二人組ですよね!ってノリで他のエージェントコンビも1巻から山盛り出てきて活躍してくれます。このサービス精神はなに??? もう一切読者に遠慮せずに絵と文字と話の情報密度を詰め込んでやったぞ!!っていうタイプのマンガなので この手のモノが好きな人は鬼のようにハマるはず。 最後に僕が初見で心奪われてしまったポイントを紹介します。 ラインの銃の構えがC.A.R.システムっていうとこです。 このこだわり!!
ふたつのスピカ
宇宙を目指す熱くて切ない物語
ふたつのスピカ 柳沼行
たか
たか
 宇宙の漫画というだけでその面白さは約束されたようなものだが、ふたつのスピカは面白いを超えて最高です。  ちっちゃくて気が弱いけれどめちゃくちゃタフな主人公、主人公を見守るライオンの幽霊、閉鎖空間での厳しい入学試験、過酷な訓練、かけがえのない友人たち、夢の実現、そして別れ。友情・努力・勝利、そして汗と涙。まさに名作少年漫画の条件を揃えている。**若者たちが貧乏したり遊んだり、夢に向かって助け合いながら成長していくところは、まんが道に通じる青春の輝きがある。**  ロケットの運転手になりたい主人公・アスミは、ロケットの墜落事故でお母さんを亡くしている。ロケット開発者だったお父さんと2人ぐらしで、ちょっぴり意地悪な幼馴染・府中野くんとアスミにだけ見える幽霊のライオンさんだけが友達だった。そんな**海辺の田舎町に住む女の子の世界が、宇宙学校入学を機にどんどん広がり成長していく姿がたまらない。**    お調子者の圭ちゃん、クールビューティーの万里香、ミステリアスな秀才・秋。アスミと府中野も含めて宇宙学校の生徒達はそれぞれ問題を抱えている。そして宇宙に行くことを全ての人から祝福されているわけではない。**人の悪意に触れたとき、みんなが根性とひたむきさを持って真っ直ぐ問題と向き合う姿に心を動かされる。**  また、ふたつのスピカの魅力の1つがかわいらしい絵のタッチ。素朴な絵柄が作り出す温かな雰囲気が、人々の抱えるシリアスな過去を際立たせ、アスミのかわいらしさを引き出し、また事態がハッピーエンドを迎えたときの安心感をいっそう格別にしてくれる。  努力する人、夢を追いかける熱い話が好きな人が読むべき名作な。死ぬ前にぜひ一度読んでください。