完兀
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2023/01/05
時流に乗って?電子書籍化されたメイドGUNアクションinアキバ
「アキバ冥途戦争」なるアニメが話題になっていたとき、頭の片隅に引っ掛かる漫画の存在があった。 アキバを舞台にしてメイドが銃を手に取り抗争を繰り広げるお話? うーん… あ!「アキハバラ無法街 GUN MAID」だ! そう、最強の軍用サイボーグ女装ショタメイドと詰め込んだ設定の主人公がコギャルや等身大フィギュア等を相手に旧アキバを守る抗争で活躍するあの漫画だ。どんな漫画だ。 いやまあ、どんな漫画だと言っても本当にそんな漫画で、補足が要るとしたら各話の新キャラがだいたい死んで、新キャラ増加とともにどたばたが増す王道パターンを行かなかった、逆に硬派なキャラ退場で魅せることを選択した短い漫画(全4話)ということだ。あとは主人公のパンチラであれがついてるとわかるように毎回描いていてくれていることぐらいか。 新キャラを増やしていかなかったのが惜しく感じるが、まあそこは私と作者の好みの違いなんだろう。仕方がない。     なお、電子書籍化はつい最近されたようで、そのことについて ”今話題の「アキバ冥途戦争」人気に便乗して『アキハバラ無法街』まさかの電子書籍化!メイドGUNアクションの怪作ここに復活!" と作者がツイートしている。 例のアニメも終わって年を越してちょっと遅れてしまった感があるが、それでもいい機会であることには変わりない。 最強の軍用サイボーグ女装ショタメイド主人公がコギャルや等身大フィギュア等を相手に旧アキバを守る抗争で活躍する漫画に興味がある方は、手に取ってみてはどうだろうか。
完兀
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2022/12/30
福本先生の魅力と成長が詰まった代表作
「初期の作品にはその人の要素が全て詰め込まれている」なんて話を聞いたことがある。 反例がいくらでも出てくる主張だが、比較的合致する例だってある。福本先生の場合、この「天」が合致するだろう。 人情話、ピカレスクロマン、極限勝負下の心理描写、緻密な勝負を構成する理による駆け引き、勝負を制する理の守破離、そして福本先生による人生哲学… 面白いと評される福本先生の要素が、ほぼ全て詰め込まれていると思われる。欠けているのは敗者の悲惨な末路描写と格闘描写ぐらいだろうか(ただしバイオレンスシーンなら天にもある)。 成長も詰め込まれている。絵の成長、演出の成長、話の構成の成長も魅力的なキャラ描写の成長も全てある。初期~中期の福本先生と共にあった漫画なんだからそれは当然なわけだが… そういった点で、天を軸に他の同時期作品と並読するのも面白い。 ただし、葬式編からは並読はできない。読んでいて涙がぼろぼろ出てしまうあの最終章に、横槍は禁物だ。       この漫画には、私がどうしても取り上げたくなる一節がある。 あまり顧みられることのない、ともすればあまり触れないでおこうみたいな風潮もみられる最初期赤木の、印象的なセリフだ。 私はそれを、作者による自己言及も含んだ創作論だと勝手に思い込んでいる。 というわけで、独断と偏見に基づいて私的解釈によるセリフ改変を傲慢にも以下に記す。     『お前この世で一番うまいもの何だか知ってるか? たとえば漫画だ…世の中には頓狂な奴がいてよ こんなラチのあかねえ娯楽に… 自分の分こえた代価 人生さえ賭けちまう奴もいるのさ…… まあそんな奴だから… 頭は悪いんだけど…… 描きたい気持ちはスゲェーもんだ… 後のない…勝負処での大事な一作に バカはバカなりに必死さ… 持てる全知全能をかけて描き上げる 決断して そして躊躇して それでもやっぱりこれしかない……て そりゃもうほとんど 自分の魂を切るように描く漫画があるんだよ その魂の乗った漫画 そういう漫画を読むこと…… それはまるで人の心を喰らうようだ… この世じゃ人の心が一番うまいんだ……』
完兀
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2022/12/28
女性恐怖症の主人公と幼馴染の双子(♀️&♂️)による倒錯的ラブコメ #1巻応援
表紙の子、かわいいですよね。最高ですよね。 表紙の子、天使っぽいですよね。最高ですよね。 表紙の子と瓜二つの容姿を持つ双子がいるラブコメです。最高ですよね。 まあその双子は男女の双子なんですが。 主人公・力丸と双子の姉・かがみは付き合ってます。 ピュアな幼馴染同士のプラトニックラブ。応援したいですよね。 しかし力丸は女性恐怖症のトラウマ持ちで、苦しんでます。 距離を縮められないプラトニックラブ。応援したいですよね。 力丸もかがみも、自身の抱える弱みに勝てず、苦しんでます。 人間的に脆くて未熟な二人です。健気な二人です。応援したいですよね。 そんな関係の中、双子の弟・きょうが動き始めます。 主人公に協力してくれる幼馴染の男友達、最高ですよね。 主人公の悩みを聞いてくれる幼馴染の男友達、最高ですよね。 傷心の主人公を受け止めて背中を押してくれる幼馴染の男友達、最高ですよね。 幼馴染の友達ポジから恋人以上の積極性で迫ってくる美少年、最高ですよね。 姉と同じ容姿もこれまでの境遇も利用して迫ってくる美少年、最高ですよね。 人の弱みに優しく漬け込んでくる魔性の美少年、最高ですよね。 絶望の淵にいる主人公を翻弄し、さらなる深みへ堕ちるよう誘惑してくる魔性の美少年、最高ですよね。     脳の性的嗜好領域を破壊してくる禁断の三角関係双子ラブコメ。おすすめです。
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2022/12/25
漫画家に何かが憑りついて描かれた漫画と言えばこれ
作者に何かが憑りついて生まれる作品、あるいは見えない力に突き動かされて生まれる作品は名作率が高いと思われる。 どの創作物がこのことに当てはまりそうかは各人が知っているものに思いを馳せてくれればいいが、永井豪作品なら、いや漫画ならこの手天童子がその代表だ。 永井先生は本作制作にあたって「鬼が赤ん坊をくわえている映像が見えて、導かれるように描いた」と巻末解説やインタビューで語っている。また鬼の首取材をきっかけに執筆中は「鬼に祟られていた」とも語り、数々の怪現象と悪夢に苦しめられた結果、おはらいを受けることで最後まで描き切れたと振り返っている。 こんな背景を基にして描かれた作品、締まらない終わり方じゃ一生祟られるんじゃないかと不安になるが、そこはご安心。まさに導かれたかのような綺麗なハッピーエンドを迎える。涙涙で描いたというあの最終回をもってお祓いは完了したといえるだろう。     本作は夫婦の前に突如として現れた、恐ろしい鬼同士の取っ組み合いの争いから始まり、鬼の口の中の赤子の存在に気付いた妻・京子の、鬼にも臆さない愛ゆえの行動から物語が動きだす。 ストーリーは第一話で鬼から語られた「15年後に迎えに来る」という約束が果たされるまでの前半、果たされてからの後半に分けて考えられる。 そう、前半の終わりこそが、物語の始まりから続いてきた、子を思う母の愛が鬼によって引き裂かれる悲劇の場面なのだ。この辺を描いてるとき、永井先生は無茶苦茶苦しめられたに違いない。もしここで読むのをやめれば、読者だって悪夢にうなされかねない。 前半はサスペンス・バイオレンスホラー漫画に分類できそうだが、後半では一気にSFスペクタクルにスケールが広がる。主人公は自身の出自の謎を追いながら宇宙と時空を駆け巡るのだが、子と妻を思って孤軍奮闘する父・竜一郎パートが都度挿入され、やがて家族愛で結ばれるべく物語はクライマックスへ収束していく。 あの父がこれまたかっこいいのだ。彼の「鬼とは…」と語って狂気じみた行動に出るシーンに私は痺れた。     本作は鬼の伝承について取り上げ、またその伝説を巧みにストーリーに組み込んでいるのも魅力の一つだが、展開的に取り上げられても不思議ではなかった、ある有名な鬼がいる。しかしその鬼は作中で触れられることはない。 その鬼について触れれば、「鬼とは…」で語られる本筋からやや外れたところに焦点が合うことになりかねないから、あえて避けられたのだろう。それがまた、本作を引き締まったものにしてくれている。
完兀
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2022/12/16
局所的鬼才が5年の時を経て再始動させる女体化○○漫画!!!!!!
あの鬼才・堀出井靖水があっためにあっため続けた題材を引っ提げて帰ってきた!   彼については某成人向け雑誌デビューのときから注目していた。特に2作目のインパクトは強烈だった。あの1作目からどんだけ成長したんだと度肝を抜かされた。成人向けの要素の成長もさることながら、キャラが生き生きとしていて掛け合いも冴えていた。これは"くる"と直感した。そして彼はすぐに某成人向け雑誌の漫画賞を取った。そこに掲載された編集長コメントで再び読者の度肝を抜き、期待と笑いをかっさらった。 その後彼はここで述べるのも憚られるような(というかどこであろうと憚られるような)、ひどく人を選ぶ傑作成人向け単行本を1巻だけ世に残し、FANBOXの闇に消えた。 彼は某成人向け雑誌での成長と共にtwitter漫画芸人化していた気がするが、その活動も沈静化していったと思う。というかtwitter垢がいつの間にか消えていた。彼がUPするtwitter漫画も大好きだっただけに、とても寂しかった。 話が前後するかもしれないが、どうやら彼は一般誌へ行ったようだった。『ブラックバウンズ』という作品を出したと知るが、1話を読んで作風どうしちまったんだと非常に困惑した。結局、私は『ブラックバウンズ』を読まなかった。それがよかったかはわからないが、とりあえず私の中の堀出井靖水の思い出を壊さないことには成功した。   そして今、彼は舞い戻ってきた。それもtwitter・pixivに上げてた漫画の中で、かなり人気の高かった本作と共に帰ってきた。ついでにtwitter垢も復活していた。 続きを望まれ続けて実に5年が経過していたが、ついに描かれる時が来たということだろう。ちなみに、これまで続きを描かなかったことについて彼は「インターネット小ネタ漫画じゃなくてちゃんと物語として描きたかったから」だとpixivで表明している。そんなこと言われては、読むこちらも気合が入るというものだ(なお、本作は肩の力を抜いて読むのが適切だと思います。多分。少なくとも、プロトタイプ版はそうでした)。 1話目を読んだ感触は、かなり丁寧にブラッシュアップされてるなぁとニヨニヨする、そんな感じ。とにもかくにも、今後に期待だ。 最後に、彼のtwitter上での叫びを無断でここにコピペしてこのクチコミを締めようと思う。     王道ラブコメのつもりで描いてるって担当編集に言ったら「認知が歪んでますね」って返されたけどっ……それでも余は……余はちゃんと王道ラブコメ描けたと思うからッ…………!!! これが余が考えた最キャワラブコメじゃからッ………!!!!! 絶対読め!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
完兀
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2022/12/16
これほど濃厚な味のする、淡々と進行する漫画はない
『総員玉砕せよ!』は巨匠・水木しげる先生が自身の戦争体験を基に描き切った長編戦記漫画だ(※新装完全版を読んでのクチコミです)。 等身大の兵隊さんたちの日常が淡々と描かれる前半から、その淡々さはあまり変わらないまま物語のトルクは増していき、やがて感動的というにはあまりにも悲しく、あまりにも空しい結末を迎えて話は終わる。私はこれを読み返す度に泣いてしまう。 巻末の筆者あとがきで「九十パーセントは事実です」と物語の最後を脚色したことが語られ、寄せられた解説ではそのことについて「(ラストのフィクション化によって)”事実を超える真実”を描くことに成功した」と評される。 とても同意できるのだが、私としてはあのラストは水木先生にこみ上げてくる”わけのわからない怒り”を最も強く紙にぶつける挑戦であり、戦死者の霊たちがさせた仕業ではないかと思う。そしてそのラストが”わけのわからない怒り”をどれだけ昇華させることに成功したかはわからない。確かなことは、強烈な読後感を読者に与えてくれるということだ。     ラストも印象的だったが、天国のようなところだと作中で触れられる舞台の美しい背景、とりわけ数度あらわれる鳥と花、及び天から射す光が印象的だ。 どれも日本人の想像する天国と結び付けられる存在なのだが、そういった観点で、鳥は物語から姿を消すタイミングが、花は背景に現れるタイミングが、天から射す光はコマとして使われるタイミングがなんとも思わせられる。特に花は、水木先生が大胆に意図して配したフィクションではないかと考える。泣けてくる。         それからこの作品と一緒に、ズンゲン支隊に関するNHKの戦争証言アーカイブの視聴も薦めたい。 水木先生の生証言は当然だが、堀亀二さんの証言なんかも必聴ものだろう。印象深いキャラクターである中隊長の下で戦争を過ごしたズンゲン支隊の生存者だ(1965年にズンゲン支隊の本を出版されてもいる。水木先生も資料としてあたったかもしれないが、この本は簡単には手に入らなさそうだ)。 最後に、些末な不満点が一つある。新装完全版『総員玉砕せよ!』はなぜ文庫サイズで発売されてしまったのか。同時期に出た『漫画で知る「戦争と日本」』と同様のA5サイズだったらどれほどうれしかったことか…
完兀
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2022/12/10
ネタバレ
冷たい武器を突き付けられながら読むようなスリル
「銀と金」は福本作品の最高傑作に思う。 人に一番おすすめなのは「賭博黙示録カイジ」、自分が一番好きなのは「最強伝説黒沢」、作者の代表作を一つ挙げろと言われれば「天」、主人公が一番かっこいいのは「アカギ」、一番続きを読みたい読み切りは「かすみとゲンコツ」だが… 最高傑作を選べと言われれば私は迷いなく「銀と金」になる。 理由は物語から無駄が削ぎ落されていて、緊張の糸が最も弛まない作品だからである。 この条件には「賭博黙示録カイジ」も合致しそうだが、本作と比較してしまうとあちらはスリルを描写するのにある種仰々しい装飾を施しているように思う。読者に向けて最高の調理が施された究極のメニュー「カイジ」と、素材のあまりの良さに脳と舌がダイレクトに興奮する至高のメニュー「銀と金」とも言えるだろうか。 「ダイレクトに」というのは譬喩でもなんでもなく、本当に生々しい緊迫感が読者を襲うのだ。 口コミタイトルにあるように、冷たい武器が突き付けられているかのような感覚だ。イメージは刀でも銃でも水でも何でもいい。人を恐怖心で満たし行動を制限せしめるに最も機能美に溢れた武器がいくつも読書空間に充満し、自分に向けられている感覚が私はした。 とは言っても、最後の競馬勝負はその感覚からちょっと遠いところで読めてしまったかな… 森田が抜けたことで読者に空いた穴は、スリルの圧力を逃がすのに役立ってしまったように思えてならない。
完兀
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2022/12/07
無っ茶苦茶面白い超名作。故に要注意。
漫画家・かわぐちかいじの名声を高めた代表作であり、今読んでも無茶苦茶面白くて熱い名作である。 まだ読んでない人は、すぐ読んだ方がいい。このレビューを読み終わる前に読破する方がいい。海面下の武骨な”てつのくじら”とそれを取り巻く人々が織りなす、全地球スケールに広がる風呂敷のファンタスティックな面白さに痺れること間違いなしだ。 そして、だからこそ、この漫画は要注意なのだ。 この漫画はファンタスティックを通り越すぶっ飛んだファンタジー作品であり、「いやいやそれはおかしい」と逐一ツッコむぐらいの冷静さが最終的には必要な、あぶない漫画である。 これは戦闘描写に限った話ではなく、軍人描写・政治描写でも同様の話だ。 というか、素人目にもわかりやすい戦闘描写の範囲だけでこの漫画のファンタジー成分を看破した気になりかねない点が余計にあぶない。このことに関しては、交渉を優位に進めるための心理的トリックに通じるものを感じる。あるいは(いい譬えではないが)巧妙なプロパガンダと似ている。 要するに、面白さに痺れたまま、作品に感化されたまま、染まり切ったままは危険だということだ。 本作はその面白さと現実世界に即した設定故に、なぜ現実はこの作品のようになれないのかと憤って、現実から離れたところに行ってしまって戻ってこれなくなってしまう恐れがある。これは最高の読書体験でもあるが、現実に生きる私たちはいつまでもそのままではいられないだろう。デビルマンを読んで「地獄へ落ちろ人間ども!」に共感しっぱなしでいてはいられないのと大差ない。 なお、私は本作を読んでしばらくはかなり感化されていた。最高の読書体験の一つであった。こんな気持ちいい体験、味わえるなら味わった方がいいに決まっている。 故に、本作が提供してくれるかもしれない最高の読書体験に水を差すようなものは、あらかじめ見ないよう注意(※読者の冷静さを取り戻す激うまギャグ)するのがよいだろう。 こんな長文駄文レビューを読む前に、最も面白く読めるうちに面白い漫画は面白く読むべきなのだ。
完兀
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2022/12/02
よくわからなくても面白いが、そこで終わると非常に勿体ない
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今や狭い世界で広く知られることとなった数学的題材「巨大数」を扱った、世にも奇妙な寿司漫画である。 ぶっちゃけ読んでもよくわからない人がほとんどだと思う。でもよくわからないまま読んでも面白いのだからすごい。このことは、本作を読むのに巨大数への理解が必要ではないともいえるのだけど… でもよくわからないまま読み進めるだけじゃなく、扱われている巨大数への理解を深める挑戦もしてみてほしい。でなければ大きな機会損失になりかねない。 この漫画が提供してくれる機会、それは「世界が広がる感動と衝撃」である。 物心ついた頃、普段目にしている家周辺の空間の外へ初めて飛び出たときに体験するあの感覚。 小さかった頃、自分の知っている世界は実は地球上の非常にちっぽけな範囲だけなのだと気付いたときに得たあの感覚。 利口になってきた頃、あんなにも大きいと思っていた地球の外には、全知識を動員してもどうにもならないぐらい広大な宇宙が広がっているのだと思い知らされたときのあの感覚。 人生でそう何度もないような、あの劇的な感覚を与えてくれる可能性がこの漫画にはある。私は味わった。まさに『わかり』の状態だ。 この漫画、絵やストーリーが最高だと評価される可能性は極めて低いだろう。 しかし「最高の体験を導いてくれる漫画」になる可能性は充分にある。少なくともクラス1の数の逆数で表される範囲ぐらいはある。 それがどれぐらいの大きさになるかは、本作を読み進めて確かめてみて欲しい。単行本未収録の話がpixivコミックに公開されているのでそちらもお忘れなく。
完兀
完兀
2022/11/30
金!暴力!SEX!そして復讐のピカレスク・ロマン!
昔どこかで「金!暴力!SEX!な漫画を教えてくれ」みたいなスレッドがあったと思う。この漫画は数少ない正答の一つだろう。 漫画紹介はこの口コミのタイトルだけで一応足りてしまうのだが、以下に補足と私見を書き連ねる。 漫画タイトルを見てピンと来た人もいるだろう。明らかに「野望の王国」の影響を受けて描かれた、というかそれが元となって生まれた作品である。特に第一話の導入なんか隠す気がなくてニヤリと来る。 しかし大胆にして最高のアレンジがある。「野望の王国」は主人公・橘と無二の友にして相棒の片岡が協力し、明確な目的が明かされぬまま裏社会でのし上がる物語だが、「野望の群れ」は言うなれば橘と片岡が敵同士になり、復讐するという明確な目的を果たすためにのし上がる物語になっている。作品全体を貫く物語の背骨はこちらの方が骨太だ。 闘争の空間もこちらの方がやや大きい。復讐相手が大企業の御曹司なので、闘争の空間には社会の表裏の両面が使われる。場所も東京を起点に北海道から九州、果ては海外(香港)まで広がる。素寒貧の一匹狼だった主人公が、度胸と頭脳と復讐心で裏社会を駆け上がっていくのは素直にかっこいい。 裏社会を駆け上がっていくのに重要な役割を果たしたのが「金」「暴力」そして「SEX」なのだ。この漫画、ライバルと取り合うメインヒロインの他にも登場人物に女性が複数登場する。そして大体主人公とSEXする。謀略のために利用してやるだけのSEXだ。主人公以外にもSEXシーンがある。その大体が、付け入られる隙として主人公に利用されるSEXだ。無駄なSEXはそう多くはない。 細かいところをつついていけば、闘争の各元ネタなどここに書き連ねたいことはまだある。でもあまり長々と紹介していてもしょうがない。それを読む時間があるなら、作品そのものを実際に読んで欲しいのがファンの心だ。本作はありがたいことに、マンガ図書館Zなどの漫画配信サイトで全編無料公開されている。そう、タイトルでググればすぐ読めてしまうのだ。というわけで皆、今すぐにググって本作を読もう。それか「野望の王国」の方を読もう。
完兀
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2022/11/28
ごくごく一部の人にはおすすめできる続編漫画
個人的評価☆1の新黒沢、正直わざわざ読む漫画ではない。 ハッキリ言って、名作と呼ぶにふさわしい前作に泥を塗った長大な蛇足だ。これを読むのは(ベクトルと所要時間が違うが)最強伝説仲根を読むのと同じぐらいつらい。もっとわかりやすく言えば、賭博黙示録カイジの後に(破壊録堕天録等々をすっ飛ばして)直接の続編として24億円脱出編が来るぐらいつらい。 しかし私はごく一部の人にはおすすめだと思う。 その理由は愛生流影の大黒柱にして中盤以降立ちはだかり続ける敵役、神林春樹の存在にある。 実にチンケで不快な手強さが特徴的悪役の彼だが、読んでいて「福本キャラ」のニオイを感じることができる。 恐らくは神林が全福本作品で最後の「生きた福本キャラ」、「福本伸行先生との距離が近いキャラ」になるだろう。彼の言動には作者の血が通っていると私は感じた。 逆に言えば、作者の血が通った福本キャラは神林を最後に消えてしまった。私見だが、最近の福本漫画には舞台装置または客観的観察対象としてのキャラしかいない。 つまり以上のような独断と偏見に満ちた福本漫画ファン視点からの資料的価値が神林、もとい新黒沢にはあり、この漫画がおすすめできるのはこの口コミに賛同できるか、口コミに騙されても寛容な精神で許してやろうじゃないかと言える人ぐらいに限られると思う次第である。 いるかっ…!そんな人間…!
完兀
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2022/11/28
ジェットコースター気分が味わえる傑作
この漫画、まず読んでいて非常に振り回される。先が読めない物語進行でありながら、短期的ゴールや障害が次々と現れる。そして倫理観の欠如を蛮勇と脊髄反射的情動で補填した主人公の嵐児はそれらを痛快に乗り越えていく。 その展開の体感速度も尋常ではない。読者が劇中で起こっている事態を飲み込みきる前に嵐児と物語は先へ進んでいく。あまりの超展開に思考が停止しそうになってもおかまいなしである。 しかも「ようやく飲み込めてきた。一息つけそうだな」と思ったあたりで読者を強烈に振り回してくる。つまりこの漫画で読者に心休まる時はない。恐らく作者はこの点に関してだけ注意を払っている。 そのうえで漫画から拒絶されるような置いてけぼりは喰らわないのがこの漫画の妙味である。 むしろこの漫画は、その無駄に迫力ある絵と直球165km/hどストレート頭部死球的人物描写の魅力で読者をガッチリとホールドし、落伍者を生み出さない心地よくも恐るべき魅力で満ち溢れている。(脱落する人は、この漫画に愛想を尽かして自発的に逃げ出すか、読んでて体力が持たないかのどちらかだろう) こんな漫画と出会った時、人はどうなるのか。笑うしかない。 細かいことはどうでもいいから、ただ読んで感じた面白さをストレートに笑いに変換するしかなくなる。 絶叫マシンに乗り込んでその速度とGから強制的に脳内麻薬を分泌され、展開に身を任せつつも冷静になるのを惜しむように自ずから楽しむような感覚が近い。読後感もジェットコースターと同じだ。 こんな感覚、他の漫画では到底味わえない。少しでも興味をお持ちなら是非読んで欲しい漫画だ。