患者を支える「食」ホスピめし みんなのごはん 野崎ふみこナベテツ不惑を超えて大病もなく健康であることに関して、頑丈に産んでくれた親に感謝しているのですが、多分それは多少の幸運によるものなのだろうなあと思ったりもします。 仕事やお金は当然大切ですが、まず健康であること、そしてそれを支えてくれる食事も大切だということを、この作品は教えてくれます。 病魔がいつ襲ってくるのか、人間には分かりませんし、闘病の辛さは本人にしか分かりません。でも、入院生活を支える医療関係者には、「食べる」ことを支えてくれる人もいる。2ndシーズンも合わせて、お薦めです。ネタの宝庫G組のG 真右衛門ナベテツある時期、ある年代以外の記憶や記録に残り辛い作品というのは確実に存在していて、それは自分より若い世代と話す時に痛感することなのですが、この漫画も確実にそんなタイトルになります。 2000年前後のギャグ漫画として、自分にとってこの作品は「団地ともお」と同じくらい面白く、単行本を楽しみにしていました(ともおよりも遥かにマニアックなタイトルだということも理解しています)。 作者の真右衛門さんは恐らく几帳面な方なのだろうなあと思いますし、この種の作品を受け入れる人間がそれほど多くないことも理解しています。ただ、4コマのギャグマンガとしてこれほど自分の生理にあった作品は他にはなく、新作が読めないことをただただ勿体なく思っています。「コダえもん」「3年G組長州先生」「邪神さま」(フェレット)…。 大河ドラマ「いっき」をNHKで放送する日が来たら、多分テレビを購入するだろうと思っています。家族について考えさせられるママの推しは教祖様 ~家族が新興宗教にハマってハチャメチャになったお話~ しまだナベテツこの作品を知ったきっかけは、劇作家の鴻上尚史さんの連載エッセイ「ドン・キホーテのピアス」で取り上げられていたからでした。 興味を持って書店で購入して、読み終えて溜め息が出ました。 この作品の「ママ」のような人物は、多分世の中に沢山いると思います(何にはまるかは、人それぞれですが)。 現代社会において、何かに依存しないで生きていくことは恐らく無理なのだろうと思います(比較的依存の薄いと思う自分も、恐らく何かに頼っていることでしょう)。 その依存を矯正するためには、大袈裟ではなく自分の人生を投げ出さなければならないでしょうし、それを出来る人間に出会うことは恐らく人生において物凄く低い確率なのだろうと思います。そして、それは家族であっても不可能だろうし、そのために人生を投げ出すことを強いることも出来ないだろうと。 自分が悪くなくても苦しめられるのが家族であるとしたら、そんな場所からは離れて欲しい。単身者はそんな風に願ってやみません。言葉と部活と恋愛とことのは 麻生みことナベテツ男子高で3年間を過ごした田舎者にとって、恋愛のある高校生活というのは手に入れられなかったファンタシーなのですが、この作品はキラキラと眩しく美しく輝いています。 言葉に関する部活と恋愛という縛りのもとで紡がれた短編集ですが、書道部と演劇部のお話は特に好きです(高校の書道部というととめはね、マイナーな作品だとラブレターなんかも思い出されます)。 1話完結のオムニバスで、1冊だけの単行本ですが、紡がれる言葉の美しさと、過ぎ去ってしまった「青春」と呼ばれる日々を思い出させてくれます(自分の青春は決して美しいものではありませんでしたが)。心優しき人狼人狼への転生、魔王の副官 はじまりの章 西E田 瑚澄遊智 漂月 漂月・西E田ナベテツ所謂「なろう系」という物を全く読まないまま生きてきたのですが、作画の瑚澄先生の前作(ディアエミリー)を読み、良かったので試しに買ってみました。 異世界転生物ですが、主人公は前世の人間のとしての知識(や考え方)と、現在の魔族としての立場を両立させ、魔王の副官として手腕を振るい、時に中間管理職としての悩みも見せます。 瑚澄先生の柔らかなタッチが、ファンタジーの世界を魅力的に描いている良作です。のどかな「ガンダム」ダブルゼータくんここにあり こいでたくナベテツ今は無き「B-CLUB」で読んだのが、この作品を知る最初のきっかけでした(小学4、5年くらいだったと思います)。読み始めた頃はもう既にサンデーあたりは読んでいて、当時のメインストリートの漫画からは多分外れていました(ZZの放送は既に終わっていましたし、アニパロというのは一部のギャグ以外では恐らく週刊少年誌にはあまりなかったも思います)。 この作品について説明する時、「SDガンダムでぼのぼのみたいなことやってるマンガ」と言っているのですが、多分ぼのぼのから毒やシュールさを抜いたらこうなるだろうとも思っています。 心優しい少年が、豊かな村で過ごす日常は、読む人間を穏やかな気持ちにさせてくれます。 ガンダムを好きな人も、全く知らない人も。宇宙世紀の知識がなくても楽しめる稀有な作品であり、喧騒を忘れさせてくれるマンガです。熱血漫画家の「挑戦」挑戦者(チャレンジャー) 島本和彦ナベテツボクシングマンガの名作は数多ありますし、その中で敢えてこの作品を挙げるのは恐らく島本先生のファンだけだろうとも、思います。 ただ、この作品は本当に数少ない、島本作品の中における「ギャグ」のない漫画であり、貴重な作品としてファンの脳裏に深く刻まれている作品です。 この時期の島本先生の作風は、デビュー当時の少年漫画のテイストから変わっており、今見ると懐かしい、劇画調の絵柄でした。そしてその絵柄が、この作品の「熱さ」と非常にマッチしていたなあと今更ながらに思います(丁度自分が島本作品を読み始めた時期でもあり、懐かしさもあります)。 島本先生の作品には、数多の傑作が数多ありますが、笑いを排した作品は本当に少ないです(それは先生本人の照れであったりファンへのサービスなど要因は幾つか挙げられると思います)。 同時期の傑作、「バトル・フィールド」と併せ、是非読んでみて欲しい作品です。安心感のある作風上條先生のお嫁さん 鈴木有布子ナベテツ鈴木有布子先生の作品を読むようになってそこそこの時間が経ちますが、どの作品も安心して読める、信頼感の置ける漫画家さんだと勝手に思っています。 本作はあらすじにもある通り、作家と年の離れた奥さんとの北海道での生活を綴った1巻完結の物語ですが、あとがきで鈴木先生が描いている通り、主人公の上條先生のネガティブさが物語をコミカルにしてくれています(最早卑屈と言っても良いくらい)。 日常の中での些事に疲れた時に、ふっと息を休めることが出来る。そんな柔らかさと優しさを持った作品です。蝶はどんな夢を見るのか。特蝶 死局特殊蝶犯罪対策室 安堂維子里ナベテツ※ネタバレを含むクチコミです。ノスタルジーワールドヒーローズ 横尾公敏 SNKナベテツまず一つ、自分は格闘ゲームは不得手でした。ただ、100メガショックというフレーズとともに、ネオジオの筐体は様々な場所にありました(近所のスーパーであったり、駄菓子屋であったり、勿論ゲームセンターであったり)。 サードパーティーでありつつも、独自のセンスであの頃のゲーム好きに覚えられているメーカー、ADK。そんなADKの格闘ゲームが令和の時代に漫画として読めるとは、全く想像していませんでした。 作者の横尾先生はかつてADKに在籍していたと以前聞き、なるほどと思っていたのですが、良い作品に仕上がったなあと感心しました。 30年近く前のゲームなので、忘れていることは多いのですが、キャラを見るとやっぱり懐かしいなあと思いますし、マッドマンやラスプーチンのインパクトは強かったなあとしみじみ感じました。 当時を知らない人には、思い入れを持つことが難しいタイトルだと思います。ただ、ストリートファイターや餓狼、鉄拳以外にも輝いていた格闘ゲームもあったのだと、漫画の歴史に刻まれて欲しいと願ったりもします(当時だと雑君保プ先生も描いてましたがこれもまたマイナーなんだよなあ)。まずは、知ろう#1巻応援教え子がAV女優、監督はボク。 村西てんがナベテツマンガのすばらしさは幾つもありますが、自分の知らない世界を教えてくれる、知見を広げてくれる、という点も挙げられると思います。 AVを見たことのない男性というのは日本にほとんどいないと思いますが、この業界に関して詳細な知識のある男性もまた、ほとんどいないと思います(AV女優や男優、作品レベルの話ではありません)。かくいう自分も、好きな作家のエッセイや漫画で取り上げられたエピソードやインタビュー程度の知識しかありませんが、それでも恐らく世の中の平均的な男性よりは「作品」以外について「知っている」人間になってしまうと思います。 作者の村西てんがさんは、実際に制作会社で働いた経験があり、我々のような無知な人間に、AV業界や撮影というものを、少しずつ見せてくれます。 パッケージングされた作品には、それを作っている人達がいる。至極まっとうなことなのですが、AVに関してはその事が意識する人間は殆どいないように思います。それもまた無知のもたらすものであり、想像力の翼を届かせることのない原因になってしまっているのではないかと思います。 描きたいことが沢山あるんだろうな、というのが1巻を読んで自分が感じたことでした。それは、作者の物語を紡ぎたいという願望と同じくらい、この業界に向けられる「無知」に起因する眼差しを変えたい、という祈りなのではないかと。 世の中には、色んな仕事があるし、そこで働いている人は多分自分とそんなに違わない。彼ら彼女らも自分と同じくらい懸命に毎日を生きている。そんな当たり前のことを教えてくれる、現代の日本で特殊とみられる世界をやさしく教えてくれる作品です。作者が描き切ったと言えるくらい、連載が続くことを祈り、細やかでもエールになればと思います。時代の空気なんぞという物を。ワタナベ 窪之内英策ナベテツここではないどこかに行きたい。日常がいつか終わることを、漠然と夢見ていた時代の空気というものが、かつてこの国にはありました。それはバブルと裏返しの虚無感のようなものでしかないのかもしれませんが、この作品に漂う諦感と、正反対の馬鹿馬鹿しさは恐らく表裏一体だと思います。 主人公の妙子は自分の日常にうんざりしていて、でも遠くへ行くことも出来ません。彼女の前に現れたのは、宇宙人を名乗るボディスーツに身を包んだ「ワタナベ」。 少し不思議な非日常の物語は、良くも悪くも時代の空気を感じさせてくれます。 あの時代を知っている人間には、恐らくどこか懐かしく感じる作品だと思います。そして、あの時代を知らない人が読んだらどう感じるのだろうかと、バブルから遠く離れた令和の時代に考えたりもします。 日常は終らない。多分、だらだらと続く。でも、そんな中でもきっと素敵なことは見つけられる。今、自分が出せる回答はこんなもんかと思っています。 « First ‹ Prev … 35 36 37 38 39 40 41 42 43 … Next › Last » もっとみる
患者を支える「食」ホスピめし みんなのごはん 野崎ふみこナベテツ不惑を超えて大病もなく健康であることに関して、頑丈に産んでくれた親に感謝しているのですが、多分それは多少の幸運によるものなのだろうなあと思ったりもします。 仕事やお金は当然大切ですが、まず健康であること、そしてそれを支えてくれる食事も大切だということを、この作品は教えてくれます。 病魔がいつ襲ってくるのか、人間には分かりませんし、闘病の辛さは本人にしか分かりません。でも、入院生活を支える医療関係者には、「食べる」ことを支えてくれる人もいる。2ndシーズンも合わせて、お薦めです。ネタの宝庫G組のG 真右衛門ナベテツある時期、ある年代以外の記憶や記録に残り辛い作品というのは確実に存在していて、それは自分より若い世代と話す時に痛感することなのですが、この漫画も確実にそんなタイトルになります。 2000年前後のギャグ漫画として、自分にとってこの作品は「団地ともお」と同じくらい面白く、単行本を楽しみにしていました(ともおよりも遥かにマニアックなタイトルだということも理解しています)。 作者の真右衛門さんは恐らく几帳面な方なのだろうなあと思いますし、この種の作品を受け入れる人間がそれほど多くないことも理解しています。ただ、4コマのギャグマンガとしてこれほど自分の生理にあった作品は他にはなく、新作が読めないことをただただ勿体なく思っています。「コダえもん」「3年G組長州先生」「邪神さま」(フェレット)…。 大河ドラマ「いっき」をNHKで放送する日が来たら、多分テレビを購入するだろうと思っています。家族について考えさせられるママの推しは教祖様 ~家族が新興宗教にハマってハチャメチャになったお話~ しまだナベテツこの作品を知ったきっかけは、劇作家の鴻上尚史さんの連載エッセイ「ドン・キホーテのピアス」で取り上げられていたからでした。 興味を持って書店で購入して、読み終えて溜め息が出ました。 この作品の「ママ」のような人物は、多分世の中に沢山いると思います(何にはまるかは、人それぞれですが)。 現代社会において、何かに依存しないで生きていくことは恐らく無理なのだろうと思います(比較的依存の薄いと思う自分も、恐らく何かに頼っていることでしょう)。 その依存を矯正するためには、大袈裟ではなく自分の人生を投げ出さなければならないでしょうし、それを出来る人間に出会うことは恐らく人生において物凄く低い確率なのだろうと思います。そして、それは家族であっても不可能だろうし、そのために人生を投げ出すことを強いることも出来ないだろうと。 自分が悪くなくても苦しめられるのが家族であるとしたら、そんな場所からは離れて欲しい。単身者はそんな風に願ってやみません。言葉と部活と恋愛とことのは 麻生みことナベテツ男子高で3年間を過ごした田舎者にとって、恋愛のある高校生活というのは手に入れられなかったファンタシーなのですが、この作品はキラキラと眩しく美しく輝いています。 言葉に関する部活と恋愛という縛りのもとで紡がれた短編集ですが、書道部と演劇部のお話は特に好きです(高校の書道部というととめはね、マイナーな作品だとラブレターなんかも思い出されます)。 1話完結のオムニバスで、1冊だけの単行本ですが、紡がれる言葉の美しさと、過ぎ去ってしまった「青春」と呼ばれる日々を思い出させてくれます(自分の青春は決して美しいものではありませんでしたが)。心優しき人狼人狼への転生、魔王の副官 はじまりの章 西E田 瑚澄遊智 漂月 漂月・西E田ナベテツ所謂「なろう系」という物を全く読まないまま生きてきたのですが、作画の瑚澄先生の前作(ディアエミリー)を読み、良かったので試しに買ってみました。 異世界転生物ですが、主人公は前世の人間のとしての知識(や考え方)と、現在の魔族としての立場を両立させ、魔王の副官として手腕を振るい、時に中間管理職としての悩みも見せます。 瑚澄先生の柔らかなタッチが、ファンタジーの世界を魅力的に描いている良作です。のどかな「ガンダム」ダブルゼータくんここにあり こいでたくナベテツ今は無き「B-CLUB」で読んだのが、この作品を知る最初のきっかけでした(小学4、5年くらいだったと思います)。読み始めた頃はもう既にサンデーあたりは読んでいて、当時のメインストリートの漫画からは多分外れていました(ZZの放送は既に終わっていましたし、アニパロというのは一部のギャグ以外では恐らく週刊少年誌にはあまりなかったも思います)。 この作品について説明する時、「SDガンダムでぼのぼのみたいなことやってるマンガ」と言っているのですが、多分ぼのぼのから毒やシュールさを抜いたらこうなるだろうとも思っています。 心優しい少年が、豊かな村で過ごす日常は、読む人間を穏やかな気持ちにさせてくれます。 ガンダムを好きな人も、全く知らない人も。宇宙世紀の知識がなくても楽しめる稀有な作品であり、喧騒を忘れさせてくれるマンガです。熱血漫画家の「挑戦」挑戦者(チャレンジャー) 島本和彦ナベテツボクシングマンガの名作は数多ありますし、その中で敢えてこの作品を挙げるのは恐らく島本先生のファンだけだろうとも、思います。 ただ、この作品は本当に数少ない、島本作品の中における「ギャグ」のない漫画であり、貴重な作品としてファンの脳裏に深く刻まれている作品です。 この時期の島本先生の作風は、デビュー当時の少年漫画のテイストから変わっており、今見ると懐かしい、劇画調の絵柄でした。そしてその絵柄が、この作品の「熱さ」と非常にマッチしていたなあと今更ながらに思います(丁度自分が島本作品を読み始めた時期でもあり、懐かしさもあります)。 島本先生の作品には、数多の傑作が数多ありますが、笑いを排した作品は本当に少ないです(それは先生本人の照れであったりファンへのサービスなど要因は幾つか挙げられると思います)。 同時期の傑作、「バトル・フィールド」と併せ、是非読んでみて欲しい作品です。安心感のある作風上條先生のお嫁さん 鈴木有布子ナベテツ鈴木有布子先生の作品を読むようになってそこそこの時間が経ちますが、どの作品も安心して読める、信頼感の置ける漫画家さんだと勝手に思っています。 本作はあらすじにもある通り、作家と年の離れた奥さんとの北海道での生活を綴った1巻完結の物語ですが、あとがきで鈴木先生が描いている通り、主人公の上條先生のネガティブさが物語をコミカルにしてくれています(最早卑屈と言っても良いくらい)。 日常の中での些事に疲れた時に、ふっと息を休めることが出来る。そんな柔らかさと優しさを持った作品です。蝶はどんな夢を見るのか。特蝶 死局特殊蝶犯罪対策室 安堂維子里ナベテツ※ネタバレを含むクチコミです。ノスタルジーワールドヒーローズ 横尾公敏 SNKナベテツまず一つ、自分は格闘ゲームは不得手でした。ただ、100メガショックというフレーズとともに、ネオジオの筐体は様々な場所にありました(近所のスーパーであったり、駄菓子屋であったり、勿論ゲームセンターであったり)。 サードパーティーでありつつも、独自のセンスであの頃のゲーム好きに覚えられているメーカー、ADK。そんなADKの格闘ゲームが令和の時代に漫画として読めるとは、全く想像していませんでした。 作者の横尾先生はかつてADKに在籍していたと以前聞き、なるほどと思っていたのですが、良い作品に仕上がったなあと感心しました。 30年近く前のゲームなので、忘れていることは多いのですが、キャラを見るとやっぱり懐かしいなあと思いますし、マッドマンやラスプーチンのインパクトは強かったなあとしみじみ感じました。 当時を知らない人には、思い入れを持つことが難しいタイトルだと思います。ただ、ストリートファイターや餓狼、鉄拳以外にも輝いていた格闘ゲームもあったのだと、漫画の歴史に刻まれて欲しいと願ったりもします(当時だと雑君保プ先生も描いてましたがこれもまたマイナーなんだよなあ)。まずは、知ろう#1巻応援教え子がAV女優、監督はボク。 村西てんがナベテツマンガのすばらしさは幾つもありますが、自分の知らない世界を教えてくれる、知見を広げてくれる、という点も挙げられると思います。 AVを見たことのない男性というのは日本にほとんどいないと思いますが、この業界に関して詳細な知識のある男性もまた、ほとんどいないと思います(AV女優や男優、作品レベルの話ではありません)。かくいう自分も、好きな作家のエッセイや漫画で取り上げられたエピソードやインタビュー程度の知識しかありませんが、それでも恐らく世の中の平均的な男性よりは「作品」以外について「知っている」人間になってしまうと思います。 作者の村西てんがさんは、実際に制作会社で働いた経験があり、我々のような無知な人間に、AV業界や撮影というものを、少しずつ見せてくれます。 パッケージングされた作品には、それを作っている人達がいる。至極まっとうなことなのですが、AVに関してはその事が意識する人間は殆どいないように思います。それもまた無知のもたらすものであり、想像力の翼を届かせることのない原因になってしまっているのではないかと思います。 描きたいことが沢山あるんだろうな、というのが1巻を読んで自分が感じたことでした。それは、作者の物語を紡ぎたいという願望と同じくらい、この業界に向けられる「無知」に起因する眼差しを変えたい、という祈りなのではないかと。 世の中には、色んな仕事があるし、そこで働いている人は多分自分とそんなに違わない。彼ら彼女らも自分と同じくらい懸命に毎日を生きている。そんな当たり前のことを教えてくれる、現代の日本で特殊とみられる世界をやさしく教えてくれる作品です。作者が描き切ったと言えるくらい、連載が続くことを祈り、細やかでもエールになればと思います。時代の空気なんぞという物を。ワタナベ 窪之内英策ナベテツここではないどこかに行きたい。日常がいつか終わることを、漠然と夢見ていた時代の空気というものが、かつてこの国にはありました。それはバブルと裏返しの虚無感のようなものでしかないのかもしれませんが、この作品に漂う諦感と、正反対の馬鹿馬鹿しさは恐らく表裏一体だと思います。 主人公の妙子は自分の日常にうんざりしていて、でも遠くへ行くことも出来ません。彼女の前に現れたのは、宇宙人を名乗るボディスーツに身を包んだ「ワタナベ」。 少し不思議な非日常の物語は、良くも悪くも時代の空気を感じさせてくれます。 あの時代を知っている人間には、恐らくどこか懐かしく感じる作品だと思います。そして、あの時代を知らない人が読んだらどう感じるのだろうかと、バブルから遠く離れた令和の時代に考えたりもします。 日常は終らない。多分、だらだらと続く。でも、そんな中でもきっと素敵なことは見つけられる。今、自分が出せる回答はこんなもんかと思っています。