君のことが大大大大大好きな100人の彼女
ハーレムものの、新たな世界を見た!
君のことが大大大大大好きな100人の彼女 中村力斗 野澤ゆき子
ゆゆゆ
ゆゆゆ
どうせ、女の子がいっぱい出てきて、ハーレム状態イチャイチャキャッキャの日常系なマガジン的展開でしょ? と思ったら、違った。 ジャンプです。 マガジンでなく、ジャンプです。 友情、努力、勝利なのです。 女の子はいっぱい出てくるけれど、等しく愛するのです。 君が一番スキとかないのです。 ――まるで、推しを並べたオタクのよう。 君も君も君も、等しく好き。 そして、君も君も君も強烈に個性的。 みんな全力で愛城恋太郎を愛しているし、恋太郎もその思い以上に気持ちを打ち返す。 ものすごいテンション高く、ものすごい細かいオマージュやらなんやら入れつつ、眼の前にいる彼女たちに平等にキスしては感想を述べ、くすぐり合ってはキャッキャウフフ、いやなんだこれは、何を見せられているんだ。 愛城恋太郎のすごいところは、みなを愛せなければハラキリを宣言しているところ。 愛せなかった子は不幸になって死んでしまうから、覚悟を示しているんだろうけど、その設定を彼女たちは知らない。 あらすじに書かれているママが起きているのに、読んだらどこか違うなんて初めて見た。 読まずに毛嫌いするなんて、もったいない。 男女逆転しても、いや性別が入り乱れても、性別なんてなくなっても、恋太郎はこのテンションで皆を愛しそうだし、恋人たちも同じテンションで恋太郎を愛しそう。 がんばれ、恋太郎。
相席いいですか?
仕事極振り女とコミュ力極振り女の出逢い #1巻応援
相席いいですか? 河上だいしろう
兎来栄寿
兎来栄寿
『三十路病の唄』の河上だいしろうさんの新作です。 仕事はバリバリにできるものの、対人コミュニケーションに難があるアラサーの椿。 コミュニケーション能力だけ激烈に高いものの、実務能力が壊滅的な大学生で飲食店でアルバイトをしている桃子。 ランチの相席でたまたま一緒になったふたりが、互いが互いにないものを持っていることを感じてお近づきになっていくコメディです。 隣の芝生は青く見えるのが世の理。自分からすると相手が持っているものはすごく良いものに見える一方、相手からすれば自分がごく当たり前に持っているものがとても良いものに見えているらしいという、大小や多寡はあれど現実的にもあるあるな構図が面白いです。 椿はこの時代に私用のスマホすら持っておらず、撮った写真をSNSに上げることの機微もわからないという想像以上のコミュニケーション難を見せつけてきますし、桃子は桃子で初日から店の皿のほとんどを割るなどの規格外のドジっぷりですが、そんなふたりのささやかながら強い秘密の結びつきが何だかとても良いです。 相互に感化されて、自分なりに頑張って部下や同僚とのコミュニケーションを改善してみようといろいろな方法で頑張っていく椿や、生活習慣から改善していこうとする桃子。人と人との出逢いによって、少しずつ変化が訪れる瞬間が切り取られているのが趣深いです。 椿を強く意識する柊と親しいヤニカス子ちゃんや、桃子の大学の友人で会うたびに卑猥なぞなぞを出してくる八重ちゃんなど癖の強いサブキャラたちも良い味を出しています。河上だいしろうさんのスタイリッシュな絵もあいまって、魅力的です。 楽しく読めて、読んだ後は少し背筋を伸ばして自分が不得意な部分も頑張ってみようと思える作品です。
アイアンファミリア
『オナ禁エスパー』作者が描く王道バトルファンタジー #1巻応援
アイアンファミリア 竜丸
兎来栄寿
兎来栄寿
『オナ禁エスパー』で一躍名を馳せた竜丸さんの、待望の連載作品です。 人造人間であるホムンクルスが存在する世界を舞台に繰り広げられる、随所に王道少年マンガ感が溢れているダークファンタジーとなっています。 王道であるが故に展開には既視感を覚える方、特に第1話はプロットに『チェンソーマン』を感じる方は少なくないでしょう。しかし、そこは竜丸さん。徐々に独自の持ち味を発揮していきます。 特に1巻で見どころなのは、3話の「新人の通過儀礼」。主人公テツヲが新たな生活を始める拠点となる蜂須館において、自称「かしこくて知的で頭の良い十四歳」シローと自称「十三歳で館一番の美女」カレンが課すとんでもない対決です。ここに竜丸さん節極まれり。 蜂須館の主であり母性と底知れぬ強さを感じさせる蜂須さんや、自称蜂須館で一番キュートなホムンクルスことクレコさんなどのキャラもとても良いです。立っているキャラは続々出てきますし、それぞれの固有の能力に伴った掘り下げも楽しみです。 また、 「多勢に無勢 去勢のひとつでも張ってみろ」 や 「血飛沫に反吐と硝煙」 のような七五調が滲み出る独特のセリフのセンスも小気味いいです。 時折混じるギャグとシリアスの塩梅も良く、濃ゆいオリジナリティを上手く人口に膾炙するように落とし込んである作品となっています。純粋な尖った作家性を見たい方は『オナ禁エスパー 竜丸短編集』の方をお薦めしますが、王道少年マンガを好きな方にはこちらもお薦めです。
ガス灯野良犬探偵団
『緋色の研究』より前のホームズと「ベイカー街イレギュラーズ」 #1巻応援
ガス灯野良犬探偵団 松原利光 青崎有吾
兎来栄寿
兎来栄寿
本格ミステリ『体育館の殺人』の青崎有吾さんが原作を、『リクドウ』の松原利光さんが作画を担当する、19世紀末のロンドンを舞台にした新たなミステリ。 19世紀ロンドンといえば、コナン・ドイルが生んだ世界中に愛好家がいる最も有名な探偵、シャーロック・ホームズですね。本作は、そのホームズを助ける浮浪少年のリューイが主人公の物語です。 巻末に北原尚彦さんの解説がある通り、ホームズ正典における「ベイカー街イレギュラーズ」、ホームズからお駄賃をもらって彼を助ける1ダースの浮浪少年たちという存在からリューイは着想されているものと思われます。 レストレード警部のような原作でもよく見かけた登場人物や名前だけ言及された事件名などが登場して、原作で書かれていたわけではないけれど仄めかされていた事柄を上手く繋ぎ合わせながら補完するような立ち位置の新たなシャーロック・ホームズの物語となっています。ホームズがまた開業したばかりでワトソンと出会う前段階ですね。 とはいえ、ミステリとしてサスペンスとして、また明日もわからぬ浮浪少年が今日を必死に生き抜く物語として純粋に面白いので、ホームズをまったく知らなくても面白く読めることでしょう。本格を得意とする青崎さんらしい、質実剛健な謎解きの楽しみを味わえます。 また、松原さんの高い画力で描かれる19世紀末のベイカー街と息衝くようなキャラクターたちがとても魅力的です。リューイの目力が良いですね。ホームズも癖はありながら、ずば抜けた慧眼を発揮するところはやはり格好いいです。アクションシーンも迫力があります。 今後、原作の他の有名なキャラクターたちは登場するのか、どのように料理されて提供されるのか。非常に楽しみです。
この部屋から東京タワーは永遠に見えない
タワマンを通して描く人間模様
この部屋から東京タワーは永遠に見えない 川野倫 麻布競馬場
六文銭
六文銭
タワマン文学なる、格差社会にルサンチマンこじらせたようなものがSNS界隈で話題になった。 そのコミカライズな本作。 テーマ的にあまり興味がなかったのだが、アプリで読んでいて特に添付画像にある2話目がよくてハマってしまった。 結局自分は、男側がうらぶれて、女性が現実をみて早々に見切りをつけて去っていく展開に弱いのだと思う。 それだけだと、男性がいつまで変わらず思い続ける純情っぽく描かれ、他方、女性が変わってしまい不純というか強かというかの対比になりがちですが、本作がグッときたのは 「自分の幸せを自分で選んだ」 というセリフ。 これがキツイ。 変わってないから純情とかではなく、ただその状態を、ともすれば結果的に不幸になってしまう状態でも、怠惰だとか思想に合わないからやりたくないだとか自己を正当化して選択しているだけに過ぎないことを突きつけられる。 そりゃフラれるし、そんな自分に酔っている感じが痛々しい。 (でも、自分はやっぱりこういう男主人公話が好きだったりします。) こんな感じで、うまくいかない人間関係や、一見順調そうにみえて裏がある人間模様をタワマンという現代の成功の象徴通して描かれる作品です。 題材を今っぽくしてますが、本質的なものはあまりかわらない感じが文学だなと感じました。
ダイヤモンドの功罪
大谷翔平もこうだったのかと思いを馳せる
ダイヤモンドの功罪 平井大橋
六文銭
六文銭
今、めっちゃ面白い野球マンガ。 野球マンガ・・・というよりも、天才が才能に苦悩する様のほうが目を引くので、単純なスポーツマンガになっていないのが、少年ジャンプではなくヤンジャンなんだと思った。 内容は、スポーツなら何をやってもずば抜けた結果を出してしまう主人公・綾瀬川。 しかもその結果を鼻にかけることなく純粋に競技そのものを楽しんでいるだけで、底抜けにいいヤツという感じ。 ただ周囲の同年代のメンバーにとって、彼の眩しすぎる才能は絶望を与える存在となり、少し経つと嫉妬かヒカれてみんな離れていってしまう。 少年マンガの主人公がもっている高い能力って、むしろ羨望か格好いいもののはずなのに、この違い。 だからこそ現実的でもあり、それをきちんと描いた作品に出会えたのは個人的に初めてだったので新鮮だった。 そして、この恵まれた才能によって狂わされたのは本人ではなく、指導者である大人で、彼の意図に反し野球のU-12日本代表という大きな流れに飲まれていく。 そこでもずば抜けた結果を出してあっさりエースに。 だけど、根っこである動機や情熱がないから、その価値にも気づかず誰もが憧れたエースの称号も粗末に扱う。 この幼さゆえの、残酷さがエグい。 自分が結果を出すことで、相手が傷つくことを恐れわざと負けようとしたり、それをナジラれて板挟みになったり。 天才すぎるゆえの苦悩が見事に描かれ、そしてまた周囲の言い分もわかり双方に共感できて面白い。 随所に出てくる、主人公が甲子園?にいっているようなシーンも伏線となって今後出てくるのかと思うと期待しかない。 また現在の時の人でもある、大谷翔平も幼少期はこんな気分だったのかな?とか思いながら読むのも一興です。 上述のとおりスポーツ漫画としての枠におさめるのはもったいない作品なので、ヒューマンドラマとか青春群像劇的なものが好きな人にはぜひおすすめしたい作品です!