株式豚野郎、異世界で杖になる。【単行本】
『電波教師』作者が描く異世界×株式投資 #1巻応援
株式豚野郎、異世界で杖になる。【単行本】 東毅
兎来栄寿
兎来栄寿
日経平均株価がATHを迎え一時は4万円を超えた今日この頃。ビットコインも1千万円を超えて話題になっておりますが、さくらインターネットの急落などもあり投資はあくまで自己責任で、大事なお金には手を出さないようにしましょう。 というわけでこちらは『電波教師』や『異世界シェフと最強暴食姫』でお馴染みの東毅さんの新作、異世界転生×株式投資の物語です。 天才投資家の大蔵雑華(おおくらさいか)24歳が、会社で億単位の損失を出して自殺を図った妹の命を救うために女神が課した「1年で2兆円稼ぐ」というミッションを果たすべく、異世界に杖の姿で転生するというストーリーです。 冒険者は皆ギルドで自らの株を発行してそれを活動資金としており、クエストの成否や将来性などに応じて変動する株価や戦利品の配当などが投資家の利益となるという世界設定にまず面白さがあります。 何で女神が人間界の貨幣を欲しがるのか、本気で2兆円稼がせたいならもう少し初期所持金を優遇してあげるべきではとか、言語・通貨・株のシステムなどは異世界でありながら日本仕様であるなど設定的には大雑把なところもありますが、一方でこの異世界においては魔物よりも飢饉や疫病で死ぬ人の数の方がずっと多いという設定もなされています。 その際に出るもうひとりのヒロイン・ソルスの母親である勇者ルーチェが呟く 「私の剣は、病も貧困も斬ることができない」 といったセリフなどは流石の味わいです。随所で東さんの良さが出ており、鍛冶屋のシーンなども好きです。 ソルスが5年で1000億を溶かしたというところから見ても世界にある富の総量はかなりのものであるように考えられますが、それでも飢餓や貧困が蔓延しているとなると極一部に富が集中しているであろうことが予想されます。そんな海千山千の世界で、雑華がどのように現実の投資テクニックを用いて無双し稼いでいくのかが見どころです。 PER、PBR、ROE、スキャルピングなど基本的な株式用語を楽しみながら学べるのは良いと思います。一方で、S級冒険者の名前が「ミズホクリミナル」であるなどの小ネタには笑います。 しかし、作者コメントによると何やら東さんの近況が穏やかでないようで心配になってしまいます。