まみこ
10ヶ月前
土山しげるのグルメ漫画の中でも、今になってすれば「え?誰が読むの?」とも言える、随一のカルト作、2011~2012年連載作品。 飛ぶ鳥を落とす小規模ラーメンチェーン「天守閣」に入り込んだ主人公が、その頭脳と立ち振舞の物腰柔らかさで、人を操り堕し、時には蹴り落としつつ、実権を握り、のし上がっていくピカレスクロマン(悪漢物語)なのです。 土山しげるのラーメン漫画、と言うか土山しげるの描くグルメ漫画全般には、構造的な問題があります。 それは、「そも、土山しげる、食に執着がない」です。 ここら辺は『味いちもんめ 食べて・描く! 漫画家食紀行』のインタビューでも描かれていますが。…なので、出てくるラーメンが、あの連載時期時点ですらの、工夫が無さすぎて、全然美味しそうに見えない、って言うのは事実です。 ただ、食べる時に、必死に麺を啜ったり、食べたりする勢いの描写は凄くて、これは一つの発明であって、唯一無二だと思います。それが極まったのが『極道めし』なんでしょうね。 そういう前提が分かった今、読み返すと、作中、女子スタッフだけのラーメン店を作る際の最終面接が、「実際にラーメンを食べさせて、美味いと言う仕草や表情をやっていた者を採用する」と言うのは、フフッって感じでした。 主人公、兵頭新介は、この国の最高頭脳が集まる大学で、経営学の権威と言われる教授から薫陶を受けて、総合商社10数社から内定を貰っていたのに、半年の在学期間を残して退学し、そして小規模ラーメンチェーンに入り、壊しつつも再生させていくのです。 主人公の意図は?動機は?と言うのは、作中小出しにされるんですが、その出発点が何か、みたいなのは最終巻まで待たねばなりませんでした。 でも、そこから数話でヤマを作って、最終2話で全てをたたみにかける、ここら辺のヒキの強さって言うんでしょうか?流石は土山しげるの手腕です。 ラストは、令和4年7月8日を連想させる、実に後味悪い終わり方。ピカレスクロマンかくあるべし、と言う感じです。