小池一夫の凄さを、どう伝えれば良いのか、かなり悩む。 吉田豪や映画秘宝的な「豪快で変な巨匠」アプローチも、それはそれでアリなんだろうが、「なぜ一時期の小池一夫は、あんなにもヒットを連発したのか」という部分についての答えにはなりえないだろう。 小池一夫の漫画は(少なくとも70年代の作品は)、とんでもなく「面白い」のです。 漫画が大衆の娯楽であることを、これほどまざまざと感じさせてくれる作家はなかなかいない。 今の読者が読んでも、それは充分に理解できると思う。 これだけ「サービス満点」の原作、そうはないですよ。 この『道中師』には、小池一夫の作劇の卓越性が凝縮されている。 言うまでもなく、小島剛夕との名コンビには『子連れ狼』や『首斬り朝』のような有名作がズラリで、それらももちろん文句なく素晴らしいのですが、個人的に思い入れがあるのは、『道中師』だなあ。 基本の物語は、チャールズ・ブロンソン『狼よさらば』のような復讐譚。 もともとは任侠映画の世界観の変奏なのだろうが、小池作品はマカロニ的な荒涼とした「水っぽさ」、エロ&バイオレンスに溢れていて、土着っぽいのにバタ臭い。ロジャー・コーマンやタランティーノが心酔したのも宜なるかな、ですね。 とにかく、虚実入り交じる「水っぽい」設定や蘊蓄、小ネタの圧倒的量と配置が素晴らしい。 オープニング・エピソードから順番に、いろいろと例を挙げつつ細かく説明しようと思ったけど、やっぱやめよう。読めば分かりますから。とりあえず読んでみてください。 その「通俗」的な面白さの凄みは、今の漫画が忘れてしまっているもの、と少し大上段に振りかぶりたくなるくらい、良質ですので。 以下、雑談。 なんとなく、現在の壮年世代の時代小説ブームって、池波正太郎や藤沢周平よりも、この小池版時代劇画と地続きなんじゃないだろうか、と愚考しているのです。一時期のノベルス・ブームの元が、小松左京や星新一じゃなくて永井豪だった、みたいな。 70年代の小池一夫には、まだまだ忘れられた鉱脈がある気がするんだよなあ。