推し殺す

推しを殺したい

推し殺す タカノンノ
ゆゆゆ
ゆゆゆ

憧れすぎて、好きすぎて、これはもう嫌いなのかもしれない。 そんなセリフを言う恋愛漫画があったような気がする。 これはそれの漫画描き版といえばいいんだろうか。 自分がマンガ家・大森卓を超える存在になって、大森卓を殺したいという意味不明な発言をする大学1年生女・三秋縁。 人に作ったものを見られると快感を覚えるという性癖も意味がわからない。 普通なら見られることに抵抗を覚え、それに抗って人に見せ、批評を聞いて、プライドをずたずたにされながら強くなっていくはずなのに。 作品を見られて快感を覚えるせいか、配布するほど、見られることに躊躇がない。 作品に対する指摘はその場で直し始める。 この子、ものすごくできる子だ!! 対して主人公の小松くん。 若い時分に、ネットで好き勝手に作品を批評され、荒らされ、潰れかかっている所を担当らしき編集者はリアルでも批評してメンタルを潰してきて。 トラウマが深すぎるだろうに、小松のトラウマを横に置かせてしまう、三秋さんのマイペースさもなかなかすごい。 デコボコというか、デコデココンビだと思うのだけど、この二人によるボーイミーツガール&サクセスストーリーとなるのか。 今後の展開が楽しみ。

ポンコツ魔王の田舎暮らし

笑えて癒されて少し泣けるスローライフ魔王 #1巻応援

ポンコツ魔王の田舎暮らし 渡邉ポポ
兎来栄寿
兎来栄寿

『埼玉の女子高生ってどう思いますか?』の渡邉ポポさん最新作です。今作も推せます。 最強にして最凶でありながら、その性格は圧倒的に陰キャでコミュ障というアンバランスな魔王が本作の主人公。 ″骨″との闘いに疲れて 「知っているか 魔王は逃げられる」 とばかりに魔界から人間界の田舎に逃げてきた彼女が、奇妙な新生活を送っていくゆるいコメディとなっています。 話しかけられることを極端に忌み嫌い、無人販売所や自販機を見ては人間界とは何とコミュ障に優しい住みやすい世界かと感激する魔王が憎めず楽しいです。 個人的に特に好きなのは、ゆるさ極まったドラゴンちゃんたち。ヴィジュアルからしてとてもかわいくて大好きですが、いろいろな仕草もまたかわいい。ぬいぐるみなどがもしあったら欲しいレベルです。 渡邉ポポさんの描くかわいいキャラと田舎の風景とゆるい空気を纏ったギャグが合わさった心地よさときたらないのですが、本作はそれだけでは終わりません。エピソードによっては少し切なくなるところもまた味わいのひとつ。普段のゆるさとのギャップもあって堪りません。 『よつばと!』と『ぼっち・ざ・ろっく!』と『葬送のフリーレン』の要素を併せ持つ作品、というと売れ線感がある気がしてきますね。

働かないふたり

新しいゲームって嬉しいよね

働かないふたり 吉田覚
ゆゆゆ
ゆゆゆ

この働かない兄妹はとっても仲良し。 両親も二人のニートを見捨てていない。 この設定だけで、なんとほのぼのすることか。 新しいゲームに喜び、兄と一緒に遊ぶ妹。 流行りのアイドルの踊りとやらを深夜に二人して踊ったり、深夜に突然料理を作り始めたり、二度寝だと二人で一つのベッドに寝ようとしたり。 仲が良すぎて、小学生か幼児の兄妹をみている気持ちになるけど、彼らは既卒かつ未就労。 仲が良いのは兄妹だけでなく、両親とも仲が良い。 愛情たっぷり込めて、今も育てられている、働かないふたり。 餃子にわさびを入れる驚きプレーを母が止めないのに驚き、そしてわさび味に当たる父に驚き。 でも毎年肩たたき券をくれる娘というのは、一周回って、嬉しいものなのかもしれないなと思った。 お母さんは将来を考え、兄には就職活動、妹には花嫁修業をさせようとしているのだけど、妹の就職活動はいいんだろうか。生きていくすべをまず身につけろということだろうか。 お父さんの方も会社の人に料理上手な息子を主夫にいかがと勧めているので、なんとかなると思っているのは働かない道もあるということかもしれない。 スエット着た兄妹(特に妹の春子)の言動を見ていると、忙しくする日々で忘れていたものを思い出せるような気がする。

婚活バトルフィールド37

婚活は戦場だ!

婚活バトルフィールド37 猪熊ことり
ゆゆゆ
ゆゆゆ

タイトルを見て37巻と思ったら、37歳のことだった。 いやいや、なりたてだから、36歳のようなもの! 乳児のように37歳と何ヶ月かを気にする主人公・赤木。 わずかな差に繊細な主人公。 派遣会社勤務、趣味は海外旅行、好きなものは寿司、元ミスなんとか、元地方のモデル。 これはきっと、港区女性にならなかった、港区女性。 作中には、婚活に使用するあれやこれ、いろいろ出てきます。 婚活アプリは有料のほうが恋人を見つけやすいとか、相談所も大変ではあるけど結婚相手を見つけられるとか、社会人運動サークルで付き合い始めたとか、成功話を聞いたことある方法が次々出てきます。 しかし、本作はバトルフィールドなので、チャンスを倒し続けます。 赤木さん、倒しちゃだめだ!そこはブリッコを!! いやでも、婚活が疲れてきた人には、倒し続ける赤木さんを見て、すっきりするのかもしれません。 赤木さんのブリっているところも、本性も、突き抜けていて爽快です。 周りの独身女性キャラクターも、なかなかこじれた性格の方々が多く、デフォルメされたリアルを感じます。 しかし、年収500万で共働き必須って、都心で生きるのは大変だなあ。

ドルおじ #ドールに沼ったおじさんの話

美ドールを愛でるおじさんを眺めるのがこんなにも幸せ #1巻応援

ドルおじ #ドールに沼ったおじさんの話 さとうはるみ
兎来栄寿
兎来栄寿

先月の新刊でもトップクラスに大好きな『133cmの景色』に続いて、こちらも『月刊コミックバンチ』で連載中の大好きな新作です。 タイトルがすべてを物語っていますが、端的に言えば42歳の冴えないおじさんがドール沼にハマるお話です。 まず作者のさとうはるみさんの絵がとても良く、もうひとりの主役であるスターレットちゃんを始めドールたちが美麗なタッチで抜群に可愛らしく描かれているのが大きな魅力です。絵の説得力により、おじさんが急激にドール沼の深みにハマっていくのも自然に感じられます。今後、どんどん可愛くさまざまなおめかしをしていくであろうスターレットちゃんも楽しみです。 そして何より、本作で良いなと思うのはドールに出逢ったことで輝き出すおじさんの「生」です。 人生すべてを賭けることに何ら躊躇いのない推しとの運命的な出逢いを果たした瞬間のドラマチックさ、その出逢いによって世界が輝きに満ち、日々自然と人に優しくなり善行を積めるようになったり今まで気にも留めていなかった路傍の花の美しさに感動したり、といった描写が実に鮮やかに行われているのが良いのです。 彼は、いい歳をしたおじさんの自分が人形に興味を持ち好きであるということが社会的にどう見られるか、というところにはしっかりと自覚的です。それでもなお堰き止め切れず想いが溢れるシーンの数々を見ていると、しみじみとしながら口元が緩んでしまいます。 "ただの挨拶なのに… なんでこんな染みんだよ" というシーンなどは本当に好きです。 少しずつ、明らかになっていくおじさんの過去の事情がまた良いんです。 恋人もおらず会社でも疎まれて何のために生きていたのか解らない日々から一転、ドールによって「救われた」男性の物語は、きっと誰かの人生を救ってくれることでしょう。何もないと思っている人生にも、ある日突然予想もしないところから何かが起きることは往々にしてあります。 球体関節人形を作る友人はいても私自身はドールにそこまで詳しくなく、ラジオ会館の店の前も通ったことはあるくらいですが、読んでいるとドール知識が身に付いていくのも楽しいです。 細かい好きポイントとしては、 "ウィドマンシュテッテンの輝きは幾星霜の祈りの記憶" という1ページ目冒頭の文学的な書き出しからして、最高です。 マンガイントロクイズがあったら「ウィドマンシュ/」くらいで押して「『ドルおじ #ドールに沼ったおじさんの話』!」と力強く回答したいです。人の力では作り出せないものたちと、人によって生み出され人の形をしているドールという存在の絶妙な対比も美しさを感じます。 読んでいて心底幸せになれる作品で、人間ドラマとしての面白さがあるので特にドールに興味がない人にもお薦めです。

セブンティドリームズ

子育てと、終活と。 #完結応援

セブンティドリームズ タイム涼介
兎来栄寿
兎来栄寿

今この世界に生きている私たちは、誰しもがとんでもない確率と幸運の上に生きているーー そんな当たり前すぎることを、逆に当たり前すぎるからこそ忘れてしまいがちです。 生まれてきたこと、生きていること。 そのかけがえのなさ。 そして、それを成り立たせてくれている人々。 それは何も直接関わる家族や知人だけではなく、身の回りにある物品やこれまで飲み食いした物ひとつひとつの向こう側にいるそれに携わった人々も。 70歳で初の出産をする『セブンティウイザン』では赤ちゃんであったみらいちゃんは、数々の困難もありながらすくすくと成長し『セブンティドリームズ』開始時点では3歳になり幼稚園に通うようになりました。 子供を育てることの難しさ、大変さ。 その合間に訪れる、言葉にできないほどの嬉しさや幸福。 みらいちゃんを始めとする子供の目線からの思考や言動が非常にリアルで、自分が子供のころの思い出が蘇ってきます。感情をまだうまく処理できない友達との付き合い方の難しさや、何気ない一言が嬉しかったり傷ついたりする様などなど……。 タイム涼介さんが実際にご自身の子育てで経験したこともふんだんに含まれているであろう粒度の高いひとつひとつのエピソードから、知り合いの子供の成長を見ているような、あるいは自分ではしたことのない子育てをしているような気分にさえさせてくれます。モロー反射やラン活といった言葉は、この作品で学びました。 しかし、希望に満ち溢れたみらいに対して朝一たちは否が応でも残された時間の短さを常に意識させられる日々。子育てと終活、あらゆる人にとって他人事ではないふたつの軸が同時並行で語られていくからこそ、私はあらゆる人がこの作品を読む価値があると感じます。 ときに辛い現実も襲いかかります。2人目不妊や、終盤ではコロナ禍という未曾有の事態に陥った世界で生きる子供たちなど、困難なテーマも描かれます。今この作品を描くのであれば、そこから逃げてはいけないだろうという覚悟も感じました。 人は、人に何を伝えて、何を残していくのか。 何を幸せとし、何を喜びとするのか。 前作『セブンティウイザン』から全体を通して、人間が生きる上で大切なことがたくさん描かれている作品です。 先月、完結巻が発売となりましたが最後の5~7巻は紙媒体では発売されず電子限定となってしまっています。見つけにくくなってしまっているのが非常にもったいなく、多くの人に読まれるべき素晴らしい作品です。いつか『セブンティウイザン』同様に実写化などしてより広く知られて欲しいと切に思います。 子供の目線でも読んで感じるところは多いと思いますし、ぜひ親子で読んで語り合ってみても欲しい作品です。