映像研には手を出すな!

作者は漫画界のウォルト・ディズニーだ

映像研には手を出すな! 大童澄瞳
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)

女子高生3人が高校入学後に出会い、自分たちが思い描く「最強の世界」をアニメーションで実現すべく映像研を作って猛進する! この漫画は、プロの仕業だな感とどこか素敵な隙のある素人感を合わせもっているのがとてもいい。 というのは、この漫画は細部まで設定が凝られてるから読み応えがあって素直に言って最高なんだけど、実は漫画単体では完成していなくて、読者がいてそれを受け止められて初めて立体的にこの世界の存在が立ち上がってくる感じを体感できる。 この漫画を読んでいると、読んでいる自分も映像研の活動に参加している気分になってくるし、その気分になれて初めて合格をいただけてるような気持ちになる。 この世界では僕たちはただの傍観者にはなれない。 どれだけ読者自身を作品に巻き込んでくれるか、という点において突き抜けているものがある。 特に、彼女らの妄想が、イメージが、恐ろしいほどスムーズにシームレスに現実を侵食してくるその快感たるや! その自由な想像力こそが彼女らの遊び場であり友達だったのだと伝わってくる。 誰だって計画段階、準備段階が一番楽しくて本番や完成品になるとあれ?こんなんだっけ?のやつは経験したことがあると思う。 それはイメージと完成品に誤差があるからだ。 作っていくうちに様々な要因で思い描いていたものからいたものから離れていってしまうことはよくある。 この映像研では、それが妄想・イメージした瞬間に即その場に疑似的に出現しイメージを全員で五感で共有できてその世界にどっぷり浸っている、もしくは少なくともそう見えるほどには深い部分で全員が共有できているのだ。 こんなに幸せなことはない。 読者はその幸せをおすそ分けされている。 嬉しいのは、その世界を強化してくれるポイントが作者のこだわりによっていくつもあることだ。 例えば吹き出し一つとっても、セリフの文字に角度、パースがついていることで空間の立体感、キャラの実在感が目に見えてくるし、そのセリフの吹き出しのレイヤー上に人物が重なってセリフを見えなくすることで実際にセリフの音を妨げている感が視覚的に分かるような演出が素晴らしい。 デジタルで描かれているいい点として奥行の演出のための背景のぼかしがあったりする。 とにかく作者はこの世界の独裁者として細部に至るまで思う存分こだわりという名の権力を振るっているので、完璧に作り上げらえた世界であるディズニーランドと根本的に変わりはないのだ。 あとはそのディズニーランドに僕たち読者が遊びに行って参加し楽しむことで初めて完成される。 客がいないディズニーランドはディズニーランドではない、ただの土地だ。 3巻を読み終わって、次はこの世界にまたいつ遊びにいこうかなという気分でワクワクしている。 十年後、二十年後にこの作者が描く漫画がどこまで進化しているのか、どこまで成熟しているのか楽しみでならない。

フレデリック

望月ミネタロウ流の多様性を肯定してくれそうな新連載

フレデリック 望月ミネタロウ 山川直人
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)

望月ミネタロウ × 話・山川直人 かつて描いた漫画は評価されたが、しばらく新しく描けていない30過ぎの主人公がフランスで翻訳、出版されてサイン会をすることになったところから話は始まる。 1話目には出てこない『フレデリック』とは一体なんなのか? 気になって調べたら、 https://www.excite.co.jp/news/article/Rooftop_30674/ 「絵本『フレデリック』(作:レオ・レオニ、 訳:谷川俊太郎)からインスパイアされた、 まったく新しい物語。」 らしい。 絵本『スイミー』と同じ作者の作者さんですね。 この絵本『フレデリック』を読んだことはないけど、評判を見てみると人の存在や役割にはいろんな形があり、他の人とは違う考え方をするようなことがあってもそれでいいんだよ、と多様性を許容してくれるっぽい内容なのかなと受け取れる。 読まずにこんなの書くのは駄目すぎると思うので早めにちゃんと読みます。 待ち合わせの空港で、モブ化してて気づかなかったと担当編集に言われたのは、どこかで見たことあるような髪型、ファッションだからだろう。 冒頭で、マクドナルド(っぽい店)にいて、旅先であるパリでさえ知った味であるスタパ(スタバっぽい店)に行きたがるのは、そういった誰もが知り冒険しない安心感を求めてのことからなのではないか。 主人公は内向的で人見知りだと自覚しているが、担当からそれがプラスになるなら評価するしマイナスになるようなら見捨てると宣言される。 誰もが知るなにか、ハズレがない、尖ってないなにか、例えばファッションだったり食事だったりそういったところで、他人と同じことをしていることに安心しきって、挑戦すること刺激を受けること他人と違ってしまうことをどこか怖がっているようにも見える。 他人と違ったっていいのに。 旅に同行する大手出版社担当編集・大畑壮吾(40)、同出版社入社3年目の国際室の風見悠子はそれぞれ分かりやすく極端に違う人間だし、それを気にする様子もない。 そして、こういった他人による違いをこの漫画がさらに奥までつっこむためのフランスだろう、移民の問題だろう。 1話の終盤で少しだけ出てきたチュニジア移民で清掃員をやってる女性、メリナ。彼女に焦点が当てられていくことで、その国ではマイノリティとして扱われるということなどの問題にスポットライトが当てられ自分らしく生きることへのヒントを掴むのではないか。 そこで、冒頭のマクドナルドでの移民女性従業員に対してモヤッと感じたなにかもはっきりするに違いない。 担当編集が求めているのも、人間至上主義、その作家自信から滲み出るものだから再び漫画を描けるようになるのではないか。 そうなってほしいと願ってしまう自分もいる。 最近自分自身、何をしたらいいのか、どこへ向かえばいいのか混乱している部分がある。 自分が何をしたいのか、はっきりさせて道を見つけたい。 誰かが言っていたからとか、最近こうだからというのは抜きで、自分の意志を貫きたい。 主人公の井手陸さんと僕も年齢が近い。 職業も不安定だ。 この連載が進む中で、読者として僕自身も何かつかめたらいいなと思う。 君は、何のために生まれたの、フレデリック。 君は、何のために生きてるの、フレデリック。 君は、何のために働くの、フレデリック。 僕は、誰のために戦うの、フレデリック。

バルバラ異界

他人のする夢のはなしほど面白みに欠けるものはない

バルバラ異界 萩尾望都
影絵が趣味
影絵が趣味

唐突ですが、他人のする夢のはなしほど面白みに欠けるものはない、と思ったことはないでしょうか。 夢、それ自体は魅惑的なものにちがいありません。何なら、夢のたったひとつで人生だって狂いかねない。私には経験がありますが、当時の恋人に「夢のなかでひどいことをされた!」と泣きながら怒られたことがあります。その当時は、なんて理不尽な! 寝言は寝てから言うものだ! と思って、まったく取り合わなかったのですが、いまでこそ気持ちが少しわからないでもない。 他人のする夢のはなしほど面白みに欠けるものはなけれど、夜にみる夢ほど魅惑的なものもまたとないのです。 まだ経験があります。ある夜、知人が夢にでてきたのです。そして翌朝、目が覚めると、私はそのひとのことを現実に好きになっていました。たかが夢にみたことで、そのひとと現実になにかあったわけではないのにもかかわらず……。夢で体験されたことというのは誰とも共有できない代わりに、少なくとも本人にとってみれば、まがうことなき事実なのです。 夢の夢たる最たる由縁はきわめて体験的なところにあると思います。夢はほかでもない当の本人に体験されてはじめて夢となる。夢でひどいことをされて激怒する、というだけにとどまらず、夢に知人が出てきて、それがきっかけでそのひとを好きになってしまうことがあるのも、それが当人にしてみれば、きわめて体験的な事実だからだと思われます。夢をはじめから嘘と決めつけていればそんなことは起こるはずもありません。それどころか、夢には現実を変容させる力さえあります。 他人のする夢のはなしが往々にして面白くないのは、体験という夢の本分を欠いて、それを言葉にのせて話しているからなのでしょう。しかも、その言葉が夢にみた事実に近づけば近づくほど、かえって面白さからは遠く離れてゆく。というのは、やはり、夢は体験された本人"だけ"のものだからです。 夢のはなしを面白く聴かせるのには、ある種のテクニックが必要となってきます。すなわち、夢をわたし"だけ"のものにしないということです。つまり、嘘という手法をつかって、夢の枠をあなたにも伝わるようにひろげてあげるんです。そうすることで、夢の核たる部分は失われてしまいますけれど、少なくともあなたには伝わるようになる、共有に耐えうるものになるんです。 それは、なんだか不誠実だと感じられますか。そんなひとのために、もうひとつだけ方法があります。つまり、嘘をつかって夢の枠をひろげるのと真逆のことをするのです。ひろげるのではなく、夢を閉ざしてゆく、針先の鋭い一点のように凝縮するまで閉ざしてゆく。そうすれば、もし運がよければ、生きているあいだに、もうひとつの針先とぶつかることができるでしょう。確率はとても低いと思われますが。しかも、それまであなたは誰とも夢を共有することができず、とても孤独な思いをすることになるでしょう。 もし、それでも誠実を貫こうという方がいらっしゃるならば、萩尾望都の『バルバラ異界』を読むことをオススメします。あなたはここで夢を体験することができる、ひとに聴かされる夢のはなしではなしにです。この『バルバラ異界』というマンガを読んでいる時間だけは、あなたは孤独を忘れることができる。なぜなら、バルバラ異界はほかでもないあなたに体験される夢なのですから。

WeTuber おっさんと男子高校生で動画の頂点狙ってみた

動画配信というビジネスの真髄

WeTuber おっさんと男子高校生で動画の頂点狙ってみた 稲井雄人 原田まりる 飲茶
兎来栄寿
兎来栄寿

ソニー生命が行った調査によると、中学生男子が就きたい職業ベスト3は3位がゲームクリエイター、2位がプロe-Sports選手、そして1位がYouTuberなどの動画配信者だそうです。 実際に子供たちと触れ合う時に感じるのが驚くほど皆動画を見ているなということ。大人に怒られてもスマホを離さず動画に齧り付く姿は、私自身が子供の頃にマンガやゲームに対していた姿を思い起こさせます。学校で流行っている人気の配信者などを教えて貰い勉強する日々です。 そんな、ある程度以上の年齢の人には実態のよく解らないであろう動画配信者という存在を、リアルかつ解り易く描いた作品がこちらです。 この作品が上手いのは、動画のことなど全く知らないものの昔放送作家に憧れていて企画力に長けた大企業のおっさんと、今時の動画で成り上がろうとする若者の二人が軸になり動画に詳しい人も詳しくない人もそれぞれの目線で読み進められる所です。 また、実在するYouTuberや、モデルがいるであろう有名配信者も多数登場。夢に溢れた部分、表には見えない大変な部分、モラルを問われるエピソードなど動画配信周りのかなり深い所まで描かれていきます。 YouTuberが好きな人も、知らないけれど勉強してみたいという人も、一度読んでみてはいかがでしょうか。