かしこ
かしこ
2021/03/27
土田世紀は熱心な宮本輝ファンだったそう
文藝春秋が発行していた「コミックビンゴ」という雑誌で連載されていたらしいです。原作は宮本輝の同名小説。土田世紀は熱心な宮本ファンだったそう。 【あらすじ】普通の大学生だった主人公は父親が急死したことで、いきなり借金取りに追われる生活を送ることになる。まだ電気も通っていない夜逃げ先のアパートで帽子をかけようと柱に釘を打ったところ、偶然にもトカゲを刺してしまう。しかしトカゲは生きていた。こうして釘が刺さったままのトカゲを飼育しながら、借金取りに追われ八方塞がりになっている自分を重ねて生活していく…。 宮本輝の小説は「錦繍」を読んだことがあるんですが、どんな内容だったか忘れてしまいました。映画監督の是枝裕和のデビュー作も宮本輝原作の「幻の光」で、これも観たんですが忘れちゃいましたね(主演の江角マキコがよかったことだけは覚えてます)…。久々に宮本輝作品に触れて「そういえばこういう作風だったなぁ」と何となく思い出しました。普通のコミック雑誌だったら物足りない連載になっていたかもしれないけど、文藝春秋の雑誌だし、土田世紀との相性はとてもいいです。 「生き方は死に方なんやと…」と言いながら借金を残した父親がものすごい形相で死んでいくんですが、もっとすごい死顔の人も出てくるのでギョッとしてしまいました。ちょっと笑えるくらいすごかったです。
ぺそ
ぺそ
2021/02/23
20世紀初頭、アメリカの豊かな森で番人をする心美しい少年の物語 #完結応援
camera
竹宮惠子先生の1巻完結の作品ということで読みやすそうだなと軽い気持ちで手にとったのですが、 若草物語や大草原の小さな家に通じるアメリカの古き良き時代と大自然を感じさせる本当に素敵なお話でした! 本当の名前すら持たない、片腕でアイルランド訛りの少年「そばかす」が、林業で賑わうアメリカはインディアナ・リンバロストの飯場で森の見回りとして働く物語。 自分を雇ってくれた支配人に恥じぬよう正直に一生懸命働き、リンバロストの森に棲む鳥や虫など様々な生き物を慈しむそばかすの姿に、周囲の人々はみな心を打たれ愛情をもって接します。 材木泥棒と鉢合わせ目をつぶれと持ちかけられたのを毅然と断り、殴りあったそばかすを、偶然居合わせ目撃した支配人などは 「なんてヤツだ! 美しい……神のみわざそのものだ」 と心のなかで讃えるほど。どれだけそばかすが素晴らしい少年なのかがわかると思います。(ちょっと大げさに聞こえるかもしれませんが本編を読めば全くそんなことないです) 「鳥のおばさん」と呼ばれる写真家のご婦人のために森で見つけた生き物や珍しい出来事を報告したり、賢く勇気と思いやりのある製材会社の令嬢・エンゼルに叶わぬ恋心を抱いたり(エンゼルが沼地を歩いたあとに残った足跡に、そっと板切れをかぶせて大切に残しておくなんていじらしすぎる)、材木の窃盗団に立ち向かったり…。 そばかすのリンバロストの森での生活は充実していて目が離せません。 最後には、そばかすの出生の秘密が明かされ物語はハッピーエンドで幕を閉じます。 この『そばかすの少年』は、アメリカの女性小説家ジーン・ポーターが1904年に書いた原作『Freckles』を、『赤毛のアン』でおなじみの村岡花子が翻訳した小説をもとに竹宮惠子先生が1982年に漫画化したもの。 この時代の少女漫画って言葉遣いが古風で上品で本当に素敵だなと思うのですが、海外小説が原作ということで台詞回しが輪をかけて魅力的で原作の小説も読んでみたくなりました。 【原作】 https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309464077/
野愛
野愛
2021/01/28
諸行無常の響きあり
天才浮世絵師・葛飾北斎という圧倒的な存在を軸に、弟子・捨八や娘・お栄らの生活を描いた作品。 捨八と彼を取り巻く女達の姿が艶っぽく、移ろいゆく四季と相まって心を掻き乱されるのです。 捨八への想いを内に秘めたまま彼を見守るお栄と、派手好きで大胆なお七、正反対のような女2人がなんとも魅力的。 どちらも激しくて悲しくて、どうしようもないくらいに「女」として描かれています。 個人的に一番感嘆したのはお栄の手の描写です。冬は北斎や捨八の世話を焼く手があかぎれだらけになり、だんだん暖かくなるにつれてもとの白い手に戻っていく。綺麗になった頃にはまた厳しい冬がやってくる。 季節の移り変わりとともに、お栄という女の強さと儚さがこの描写に凝縮されているように思います。 手が綺麗になっても、男と女が関係を持っても、浮世絵が完成しても、終わりに向かっているだけである。失われていくだけである。 激情に満ちていながらも、根底に流れる諦念のようなものが美しく儚い作品でした。純文学に出会えました。 決して理想的ではないけれど捨八に惹かれてしまうのは女の性だし女の業ですね。狂おしいほど好きです、捨八。