兎来栄寿
兎来栄寿
1年以上前
大学を舞台にした作品は数多くありますが、大学というアカデミックな場で現実的に起こっているリアルな問題をメインテーマとして扱っている作品は珍しいです。 本作では、大学の金銭的な問題や歪なパワーバランスによって生まれる闇の部分が描かれます。最高学府といえども、経営や研究を維持していくためには先立つものが絶対に必要です。そして、大学における研究はときに莫大な富を生む原動力となります。そこで動く金額の大きさやそれに付随する諸々は、望まずとも腐敗を招く要因となり得ます。また、閉鎖的な世界では一部の者の権利が不当に強くなることがままあります。そして、普通では有り得ないことも起こってしまい、あまつさえそれが闇の中に葬られてしまうことも。 そうした闇に対して、主人公が立ち向かうという構図はシンプルで共感しやすくなっています。大学というピンポイントな場所での出来事を扱ってはいますが、似たようなことは世界でたくさん起こっており、またこの作品で苦しんでいる人と同じ苦しみを持つ人もたくさんいることでしょう。「アカデミックハラスメント」というと難しそうと感じるかもしれませんが、多くの人にとっては想像以上に解りやすいエンターテインメントとして楽しめるはずです。 この作品の最大の美点は何よりも非常にテンポが良いことです。第1話からその良さが存分に出ているので、まず1話だけでも読んでみてください。1話で大きな目標が掲げられるのですが、そこで強く主人公に感情移入させられることで話に乗っていけます。サクサクと話が進んでいくのですが、しっかりと1話ごとに見せ場も強い引きも作られていて素直に「面白い!」と思える作品です。 実写ドラマ化なども非常にやりやすく映えるでしょう。作画こそまだ初々しさが出ていますが、キャラクターの魅力やマンガ力などもっと大事な部分の力量を感じる作者さんですので、今後も楽しみです。
兎来栄寿
兎来栄寿
1年以上前
タイトルからして、とても不穏な百合マンガ。 主人公のレイは、ずっと好きだった同姓のアミに思い切って告白したら意外にもすんなりOKをもらえてこの世の春が到来……したかと思いきや、恋人関係になっても周りの友達と扱いがほぼ変わらず「一人の時間を大事にしたい」と言われ、ますます悶々とさせられることに。 そして、何やら他の女の影も見え隠れしてますます不穏さは募っていきます。ただ、この作品のポイントとしては、レイの愛情の深さが挙げられます。何があっても、何をされたとしてもそれでも変わらない、変えられない思いの丈。 その果てに押し寄せてくるのは、まさにタイトル通りの絶望感。読んでいて、「一体どうなっちゃうの〜?」と頭の中の次回予告ヒロインが叫び倒します。 ちょっとしたことでも起こる10代少女の激しい浮沈や、そもそも何故レイはアミを好きになったのかというところのきっかけの些細であるが故のリアルさ、アミのフリーダムな性格がどこに起因しているのかなどのディティールが良いです。 それらを踏まえた上での、決定的なシーンでレイがアミに放つセリフは特に好きです。 1冊で過不足なく完結しており、私は連載で追っていましたが単行本で初めて読むとまた一段と満足感は高まりそうです。 富沢未知果さんの今後の活躍も楽しみです。