あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ
1年以上前
作家、画家、漫画家など、創作者の物語はたいてい苦しい。独自の表現を追求する戦いは必ず、己のつまらなさ、発想の貧困、そして個人的な問題とどう向き合うかのせめぎ合いになる。 まだ幼い子どもが創作と向き合うのは、さらに困難だ。絵が上手な本作の主人公・ヘレナは孤児で、弟の命も失われようとしている。そんな中で「願いを絵にしてみよう」と絵本作家「悪いオオカミさん」に言われ、できずに涙を流すが、自分でもその苦しみを理解できていない。 物語を完成させるために「悪いオオカミさん」と共同作業に挑むヘレナは、その過程で作家に煽られ、引っ張られて、自分の本心に踏み込んでゆく……それまで明るく振る舞ってきたヘレナが感情をむき出しにする様に、苦しみを感じると共に、子供らしさを見出して少し安堵してしまう。 泣いて眠った夢の中で見せる心の解決は、切なくも美しい。 ヘレナのあまりの境遇に、彼女の明るさがいつか崩れてしまうことを想像しながら読むことになる物語だが、優しい大人たちの支えでヘレナは心に安寧を取り戻す。そしてその感動的なラストから、さらに彼女が創作者としても成長することまで想像してしまう。ヘレナはきっと素敵な絵本作家になると思う(もちろん悪いオオカミさんとは全然違う方向性で)。 (『ヘレナとオオカミさん』台湾の漫画賞「金漫奨」の年度漫畫奨&金漫大奨をダブル受賞おめでとうございます!)
まみこ
まみこ
1年以上前
2013年2月、漫画サンデーが休刊。すべての連載は強制的に終了します。 長期連載であった「蒼太の包丁」も、かなり強引な終わり方をしてしまったのです。 …で? 同じ座組で、同じ様な読者層である、「漫画ゴラク」にスライドできれば良かったのですが、そうは中々行かない事情があったのでしょうね。新しい主人公と舞台を用意して、新しい物語が始まりました! …え? 全然新しくないですよ。正直、主人公、春野ハルは、北丘蒼太の女体化ですし。両方、眉毛太いですよね。性格や話し方もそのままです。舞台となる居酒屋「大門」で出てくる料理も、「富み久」のまかないや、立ち飲み屋「みなと」で出す、雑駁無い料理とほぼ同じです。とは言え、グルメ漫画にも盗作やトレス疑惑が極まってきた頃なので、参考にしたレシピや料理描写も、クレジットが欄外に入っているのも良いですよね。 と言うか、そもそも、「蒼汰の包丁」の舞台、銀座と、「ハルの肴」の舞台、両国は、隅田川挟んで隣町、タクシーだと15分位なんですね。 …だから? だからこそ分かって欲しい、東京/江戸の食文化の変さ加減。 凄く手っ取り早く、漫画で理解、これは本当にありがたいですね。
mampuku
mampuku
1年以上前
『亜人ちゃんは語りたい』や『ルリドラゴン』の系譜、というのが一番わかりやすいでしょうか。 「幻人」とよばれる亜人種がマイノリティとして溶け込んでいる社会。彼女らとの違いに対する戸惑い、ちょっとしたつまづきや戸惑いやすれ違いなどを、悪意や悲しさで表現するのではなく、さりとて目を背けるわけでもなく、優しさと前向きさで爽やかに描いている。 このタイプの漫画、どれも心温まるしキャラクターもチャーミングで良作揃いなイメージなんですよね。 本作『尾守つみきと奇日常。』においてはメインヒロインのつみきはウェアウルフ(人狼)でヒトと比べるとしっぽが生えてたり怪力だったり、満月を見ると遠吠えが出てしまったりするのですが、それらがどれも彼女の魅力的可愛さに繋がっています。 とはいえすべてが彼女のようにハッピーなわけでもなく、例えば蜘蛛女と思われるモブの少女が周囲の視線を気にしながらそそくさと昆虫食を食べていたり、この世界にも“生きにくさ”は確かに存在するようです。 主人公のヒト少年・友孝はメタ認知が暴走して周りと距離を取ってしまうが、ヒロインつみきは持ち前の鈍感力で他種族とガンガン距離を詰めていく。この凸凹すぎる2人がゆえに周りとのドタバタの中で見えてくるそれぞれの「本音」──ただただ「優しい」だけの世界じゃねえぞとふんわり覗かせてきます。