鳥人間
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2019/04/14
言葉で説明しづらい、不思議な読後感に浸れる
panpanya先生の作品は、不定期だけど繰り返しパラパラと読み直したくなる、アナログで手元に置いておきたいマンガのひとつ。 その商業第1作『足摺り水族館』。 個人作品を再構成しつつ、未収録作品を追加されたもの。この雑多な感じが魅力だなーと思う。panpanya先生といえば現実と非現実をフワフワと漂いながら行ったり来たりするような、不思議な世界観が魅力。 表題作「足摺り水族館」は作中で3編に分かれて描かれている。古めかしい栞に誘われて不可思議な空間へ向かう。中編は写真と文章で日記みたいな感じ。後編はなんだかもう集大成といった雰囲気。 他にも様々なテイストの作品があって面白い。 お母さんからのメモに全く読めない謎の言語で書かれた品物が一つあり、それをなんとかして買いに行こうとする「完全商店街」。木炭絵?っぽい画風の「イノセントタワー」(2つ目の京都タワーに向かうお話)。不可思議な空間を少年が歩いていく描写で台詞が一切ない「無題」。喋るし動く自動販売機のお話「マシン時代の動物たち」などなど多種多様。 これ以降の作品も、もちろん素晴らしいけれど、本作はとくに各作品個性が際立っている気がする。まさに混沌。中には合わない作品もあるかもしれないが、「読んでよかったなー」と思うエピソードがきっとみつかる、はず。 そして「無題」がさっぱりわからないので誰か教えてほしい……(笑)
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2019/04/04
近未来老後SF!
軌道エレベータが建設された結果、沸き起こる宇宙バブル。数多くの建造物が宇宙に作られ、そこに移住する人々が増えた時代。冒頭で、若い夫婦が宇宙へと旅立つ。その先にある夢が語られると思ったら……そういうのはすっ飛ばして、まさかの老後が描かれている。 老夫婦の暮らす場所は、宇宙バブルの頃には最先端だったホテルが老人ホーム化され、老朽化に耐えながら運用されているようなところ(低重力環境は老人ホームにちょうどいい)。医療の進歩で高齢者の肉体的な若返りはある程度、実現している。しかし脳についてはまだ未知数な領域で、認知症は解決されていない。そんな状況で暮らす、認知症を患った妻と、その夫のお話。 なるほど自分たちが年老いた場合、こういう環境に身をおくことになるのか……そんな想像をしてしまうほど近未来の世界観がすごく興味深かった。そして、ほとんどのSFが寿命を超越したり、心身共に若さを保ったものな気がするが、この作品は「わりと普通に老いる」という視点で描かれていてとても新鮮に感じた。 作中、リハビリを受ける高齢者たちが描かれている。認知症になっても手先を使うことは覚えているということで、キーボードやゲームコントローラーをガシガシ使っている姿にちょっと笑った。 自分が老人になっても……ゲームはしてそうだなぁ(笑)
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2019/03/12
ネタバレ
アスペルガー症候群の女性の自伝的バンド・デシネ
アスペルガー症候群の女性を主人公とした物語。病気を知る前の日々思い悩む姿と、病気を知って、共存していこうとする姿が描かれている。カラーで描かれていて、主人公の女性の感覚を、本人の言葉や表情で語ることなく、色で表現しているかのような使い方が素晴らしいと思った。真っ赤に染まるコマはこれほどのストレスなのかとゾッとする。 フランスも日本的なところがあるんだね。むしろ、自閉症についての理解がかなり浅い。一般の人はもちろん、医者ですら「君は自閉症なんかじゃない」と言い切るというのはある種の恐ろしさを感じる。 そして社会に入るのであればその社会になじまないといけないという、同調圧力。日本っぽく感じたほどだけど、これはフランスの物語。程度の差はあれど、どこにでもあるのかもしれない。 郷に入れば郷に従えというがそれができない病。何がつらいってそれを「病」であると主観的にも客観的にも理解するのが難しい病気であるということ。でも、それに気づき、理解してくれる人が周囲に増えて、ただただ思い悩みながらルーティンで刻んでいく生活から、日々を楽しむ生活へと切り替わっていて、本当に良かった。 純粋に面白かったし、病気のことや、それを取り巻くフランスの状況が垣間見えて良かった。あと、パン屋さんの伏線もいい。
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2019/03/05
原作リスペクト感がたっぷりあるコミック版
Bloodborneは元々はフロム・ソフトウェア開発のゲーム。その海外でのコミカライズ版があると知って早速買って読んでみた。購入したのは日本語化されたもの。中身は海外著者のアメコミ風(?)だが、日本語版のカバーイラストは、漫画家の林田球先生による描き下ろしだそうだ。 たぶん原作ゲームを知らない人が読むと、さっぱりわからないと思う。死んで、狩人の夢の中で目覚めて、また現実をやり直すというループめいた現象は、ゲームをやってる人しかピンとこないだろう。逆に原作を知っている人であれば、この雰囲気や謎めいたストーリーで「あぁこんな感じこんな感じ!」と思うはず。 ストーリーは著者のオリジナルだそうだ。とはいえ原作のストーリーはフロムお得意のユーザーに想像をさせるところが多く、多様な解釈ができる不明瞭なもの。ストーリーについては数あるアイテムテキストや状況から推測しなければならない部分が多いゲームだ。おそらく著者もその辺りをよく理解しており、原作の世界観に著者の考えを上手く盛り込んでいると思う。 そして原作リスペクトがとてもよくわかる描写やキャラクターたち。例えばボスモンスター「血に渇いた獣」が原作通り絶望感たっぷりに描かれている。ゲームで最初こいつに出会ったときの「どうやって倒すんだよ……」と途方に暮れた感覚を思い出した。他にもボスでいえばアメンドーズ。NPCでは狩人デュラ、ゲールマン、人形など。ノコギリ鉈や回転ノコギリといった仕掛け武器。旧市街や禁域の森、漁村などのエリアが描かれていてファンならニヤリとするだろう。 全編オールカラー、カッコいいコマも多く、見応えがある。ストーリーは希薄だが隙間を想像しながら楽しめる。とりあえず1回だけ読んでみたが、繰り返し読めば色々発見がありそう。言い換えれば不明瞭な話なので、モヤモヤとした感じを覚える人もいるかもしれない。原作ファンでも好みは分かれそうだ。
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2019/01/16
ありそうでなさそう?(いやないかなw)素粒子研究所内ラブコメ
アルキメデスのお風呂ってあれか、黄金の王冠の逸話かな。 東海村のJ-PARCが監修しているということで、興味を湧いて読んでみた。 弁当屋店員でぽっちゃり女子の原陽子は仕事でもプライベートでもボロボロになり、駅のホームで自殺を図るという、いきなりなんとも重い話からスタートする。 しかし、そのとき助けた人物が(ちょっとおかしな)王子様のような理系男子。二人には意外な接点があり……といった感じでラブコメ展開へとつながっていく。 作中の舞台となるA-PARCは実質、実在のJ-PARCなのだろう。たぶん。筑波のKEKへは一般公開日に何度か行ったことがあるので、そういうときに見聞きしていたので存在は知っていたけど、さすがにこちらは行ったことがない。その内情が見て取れるというのは面白い。 ラブコメ要素には正直あんまり興味がない(笑)が、素粒子の基礎研究という何に役に立つんだかわからない研究と、暗中模索な恋愛模様を交錯させて描く様はなかなか面白い。それに各キャラクターがなかなか個性的で面白いし、1巻時点では各キャラクターの背景に何やら色々抱えていることがありそうで、この先が気になることは確か。おそらく今後登場するであろうエミィも曲者であってほしいなー。
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2018/01/15
ネタバレ
哀しいけれど希望を見出すことができた下巻
相変わらず表紙が素敵。二人が手を繋いで並んでいる姿を読後に改めて読むとグッとくる。 プラティーノは西暦2320年の未来からやってきた旅人だった。大きな争いによって地球土壌が汚染され、その結果、放棄政策が取られたようだ。貴重な人的資源である若者たちが宇宙へと半ば強引に移民させられる。大人たちは地上へ取り残された。 娘が定期的に戻ってくると信じていたプラティーノの妻サラが娘を取り戻そうと自暴自棄になり、立入禁止区域に侵入した結果、銃撃を受けて死んでしまう。絶望したプラティーノは流刑者が行っているという特殊な任務に一般人として初めて志願する。目的は過去に飛び、土壌汚染を防ぐ準備をすること。 過去に飛んで土壌汚染を防ぐ植物の種を各時代、各地に撒く。その際、記憶は消去され任務遂行にのみ邁進するよう思考をプログラミングされる。可能な限り他人と交わらず、様々な時代を歩くことになるようだ。 そして孤独な旅を続けていたプラティーノは、西暦1851年のペルー付近に降り立つ。何度目かの旅路で村の住人達に出会い、記憶が紐解かれていくわけだ。 プラティーノはチロと出会って救われ、希望が持てた。チロもプラティーノと出会ったことで、父親を失った悲しみからやっと立ち直った。 過去にも未来にも悲痛な出来事があった。けれどバッドエンドではなく良い終わり方だったと思う。 意外とSFだったなぁという印象。細かいところは省かれているが、物語の構造上これくらいがバランスが良いのだろう。チロの物と会話できる能力というのは、もうそういうものだと割り切るしかないw
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2017/09/04
1つ1つに様々な要素が濃密に詰まった逸品SF短編集
SFといってもジャンルに多少の幅があり、王道なSFの他に、ファンタジーっぽいもの、超常現象や超能力など色々ある。岡崎二郎作品は宇宙家族ノベヤマを読んだことがあるけれど、あの作品のようにとても気持ちがほっこりとするような話が多い。このアフター0もバッドエンド的なお話はほとんどないと思う。 これでもかというくらい示唆に富んだストーリー、感情表現、舞台設定など多種多様な要素がみっちみちに詰め込まれている。「そうきたか!」と唸らざるをえないひねりや、なるほどと思わせる登場人物の考え方(たぶん作者の考え方なんだろう)など、読むと自分の世界が広がるような漫画だ。こういう感覚を抱いたのはグレッグ・イーガンの「ディアスポラ」を初めて読んだとき以来かもしれない。比較的ゆるい感じの絵なので、いわゆるハードなSF好きな方々はそこで敬遠してしまうかもしれないが、騙されたと思って一度読んでみてほしい。 「これも学習マンガだ!」にも選出されているようで、なるほど確かにお子さんが読んでもほぼ安心だし、かつ、多くの驚き・発見が得られる良書だと思う。しかもわかりやすい話が多い。自分も、もっと子供の頃に読んでみたかった。 http://gakushumanga.jp/manga/%E3%82%A2%E3%83%95%E3%82%BF%E3%83%BC-0/
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2017/04/25
比較的よくあるような青春ラブストーリーと思いきや
「響〜小説家になる方法〜」作者による作品。 ド直球すぎるタイトル。そしてぱっと見、ある意味王道ともいえる内容だけど、全体の構成がよくできていてなかなか読み応えがある。 新しい高校生活に大きな期待を抱く元気な少女・千穂がイケメン男子・和哉とその幼馴染の余命幾ばくもない少女・遥と出会って仲良くなってあれこれあるラブストーリー。と、これだけ書くといたって普通。 普通の青春ラブストーリーならもっと3人の交流が描かれそうなものだけれど、ちょっと普通ではなく、タイトルにもあるようにあまりにも唐突に遥は亡くなってしまう。 その後、場面は十数年後に急転換。いくつか謎を残しつつも暖かさの漂う余韻で終わる。 普通であればここでおしまいだと思うが次の章で亡くなる1か月前の遥の病室に再度場面が急転換。このとき何があったのか?という前章で現れた謎が解かれつつ、遥の強い決意が描かれる。 3人のそれぞれの想いと読者の思いが絡まって、きっと人それぞれ思うところが湧いてくるんだろうなーと思える作品だった。 結構ドスンとくる内容。でも1巻完結でとても綺麗にまとまっているし読んでみてほしい。
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2017/03/29
ネタバレ
とてつもなく哀しいがどこか美しさもある短編集
たまに心温まるようなお話や救いのあるお話も混じっているが、殆どが不幸。とてつもなく不幸。でもどこか美しさや輝きめいたものも感じる。絵が綺麗なせいもあるだろうけど、それだけじゃない気もする。 1話の後2話を読んだら、ほとんと同じ顔の登場人物が出てきて「あぁ続きの話かな?」と思ったら、どうも違う。どうやらキャラクターを役者のように見立てて、各話を描いているようだ(タブン)。それに気づくと何かすごくよくできたドラマを見ているような気分になった。 主役格の男は、現代では考えられないほどごつい体格に濃い顔をしたいて、どこか昭和スターを彷彿とさせる。妹のいる兄であったり、結婚詐欺師、トラックドライバー、サラリーマン、結婚詐欺師などなど、さまざまな設定を演じている(脇役で登場することもあったと思う)。 同僚に勧められたときに「話が重すぎて1日1話読むのがやっとだ」と聞いてちょっと身構えていたけれど、「これはドラマなんだ」と気づいてことでほんの少し気楽に読めた。 例えば「ラメのスウちゃん」。源という男が不細工で誰からも全く相手にされないホステスのスウちゃんに一目惚れする。同棲を始め幸せそうな生活を過ごすことになるが、源が事故で失明してしまう。目を失ってどんどん自暴自棄になる源に対してスウちゃんは献身的に尽くしていくが、ある時、源が階段から落ちて死んでしまう……。 作中、スウちゃんが繰り返し繰り返し歌っている軍歌が頭にこびりつく。時代や世相を反映したもので、公開当時の人々にはもっと実感としてグサリと突き刺さるものだったのかもしれない。 短い作品だけど、とても人間臭く、濃密な人生の一端が描かれている。 こんな作品が詰まり詰まっている。