1年以上前
少年ガンガン初期の看板漫画であり、FCⅢの世界を元にストーリーを練り上げたドラゴンクエスト漫画。 同じくドラクエを元にしつつも設定を借りたオリジナル漫画の様相が強いダイの大冒険に比べると、陰鬱で重いがゲームに登場する武器や防具を公式ガイドブックのデザインでしっかり登場させ、ゲームだからこそな部分を漫画に落とし込んでいるがのは同様だが作風はかなり違う。 しかし俗に「ダイ大はドラクエである前にジャンプ漫画」「ロト紋は少年漫画である前にドラクエ漫画」と称されていたように、その作風の違いはそれぞれ別の魅力として昇華されている。 まず冒頭から勇者の子孫にして王国の王子である主人公が、魔王軍に「なまえ」を巡る陰謀を仕掛けられているのが面白い。 ドラクエにおける最初のイベントは色々思い浮かぶのだが、この作品では「なまえ」を付ける部分を、聖なる名前アルスと邪悪な名前ジャガンを巡る壮大な序章として位置付け物語がスタートしている。 結局王国は魔王軍により陥落し、落ち延びた主人公は家臣と共に逞しく成長して旅立つ、いわゆる貴種流離譚である。 その後も幾つも苦難が襲い掛かるのだが、船を手に入れてから海の冒険を大きく扱っているのもドラクエ的で、一気に行動範囲が広がり過ぎて、海のモンスターなどをそのまま漫画に落とし込むのは難しそうな部分を「海王は本来中立」「魔王軍の陰謀で勇者と戦う」「事態を解決した勇者たちに海の魔物は協力を誓う」としてストーリーに取り込んでいる。 そうしてこの作品の一大イベントである「アリアハン決戦」に至って、民衆の逆恨みと再起、伝説に語られていた仲間たちの結集、初期から居た仲間の死と、立て続けに起こる名場面の連続で少年漫画としてのこの作品のピークを迎えている。 しかしその後、間もなく起きた呪われた勇者ジャガンとの決闘、ココがもう容赦ない位に主人公アルスと読者の心をへし折りにかかっている。 なんせやっと仲間が揃って激闘を潜り抜け主人公たちの成長を感じた矢先だというのに、剣も呪文もまったく通じないし、邪悪な存在なのにロトの剣術を受け継ぎ、ゲームだと主人公しか装備できない、特別の証である筈のロトの装備を装備してこちらを殺しにかかってくるのだ。 最早強制敗北イベントにしか思えないのだが、仲間たちが3人がかりでどうにか勝利…しそうになったら勇者にしか無いだろう聖なる守りで逆転されてしまい、主人公は死亡…。 そこからの再起や王者の剣に対する伝説の武器を探す冒険や空飛ぶ乗り物等は面白いが、ココの重くるっしさは後々まで後を引いていて、その後の魔王軍相手の戦いは相手が搦め手を使ったり諸々の事情で、アリアハン編程のテンションは無く、青年漫画寄りの作風になっている。 そしてこの漫画が少年漫画である前にドラクエ漫画と称される理由の一つがラスボス「異魔神」である。 当初この異魔神は世界征服を目的としていたが、実は世界を無にすることを目的としていたという事が明かされる。 この作品が発表された当時、スクウェアとエニックスはまだ別会社で、合併前だったのだが、当時ドラクエと並び称されていたRPGファイナルファンタジーに登場するラスボスで多かったのが「無の力」「世界を滅ぼそうとする」という物であり、封印が解けてから主人公たちに繰り出すのが流星を落とす、いわゆるファイナルファンタジーの最強魔法「メテオ」を想起させる攻撃だったのである。 このため異魔神対勇者とはFF対DQのメタファーなのではないかと、まことしやかに囁かれた物である。 最終決戦はそれまで巨大だった異魔神が小さくなっての戦いだが、漫画としては小さくなってくれないとアクションを描けない事情は分かるが、やはり強そうなのは巨大な方で、苦戦の果てに大団円を迎えるが旧版は正直ややあっけなさが感じられる。 コレはページの都合も有ったらしく、完全版で書き下ろされたエンディング部分は少ないながらも雑誌版に比べて良い余韻も残る終わりとなっていてようやく完結したのだなと感慨深い。 ドラクエのエッセンスを漫画に落とし込むという点で様々なアプローチを試み、見事に完結に導かれた名作。