兎来栄寿
1年以上前
一部の人は、タイトルを聞いただけで胃が痛くなりそうな小説のコミカライズ作品です。 現場のことなど何も解っていない上の決定によって、現場が大混乱に陥るのは古今東西どこにでもある話ですね。 「何事もその基は人です 人を得る国はさかんになり 人を失う国は亡びましょう」 とは『三国志』の周瑜公瑾の言葉ですが、会社にも同じことは言えるでしょう。人を大事にする会社は栄え、そうでない会社は亡びます。 本作も、主人公・佐藤愛が新社長のリストラによってタイトル通り解雇されてしまったことで亡びへの一途を辿っていきます。愛が1人で管理していたシステム運用に、後任の社員が「最低8人は必要です」と訴えるも新社長は「前は1人でできていたものがそんなに掛かるわけない、エンジニア特有の大げさな方便だ」とバッサリ切り捨てるさまは現実ならそら恐ろしい話ですが、お話として見る分には『アリとキリギリス』のキリギリスの末路を見ている気分です。音速で有給消化に走り転職していく人事の姿や愛を信頼していた同僚がこぞって辞めていく姿も滑稽で、この後どのように社が転覆していくか、社員なんていくらでも代わりの利く歯車だとしか思っていない経営者がどのように慌てふためくかは見所のひとつとなっています。 一方、会社を辞めた愛は新たに幼馴染のスタートアップにジョインし、そこで新たに「真のプログラマ塾」を開いて、迷える社会人たちを救済していきます。超ブラックな環境下で死ぬ気で努力し続けても報われなかった愛ですが、そこで培った知識と経験で多くの人を救っていくことになります。普遍的な悩みを持つ受講生たちへの実践的なアドバイスや、それによって彼らが生活を立て直し人生のハリを取り戻していくさまは、読んでいて心が軽やかになります。個人的に本作で最も好きなポイントはここです。 「通常業務でも手一杯なのに同じ人が同じ質問を何度もしてくる  質問するのは良いけどせめて少し感謝の言葉が欲しかった  どんなことでも『やってもらって当たり前』はダメ」 という節なども、強く頷き共感する人が多いところではないでしょうか。そして、それが何もビジネスの場だけでなく家庭においても大事なことなど、解ってはいても実践できていないという人も少なからずいることでしょう。 本書を読むことで日々の行動をほんの少しでも改善して、仕事や家庭で昨日より良い日を迎えられる人が増えたらいいなと思います。また、そうでなくともマンガを担当する伊於さんの上手さによって非常に読みやすく、物語としても純粋に楽しめるものになっているのでお薦めです。