読前と読後で表紙の印象がまるで違う。知られざる現実にせまる『しっぽの声』

読前と読後で表紙の印象がまるで違う。知られざる現実にせまる『しっぽの声』

おすすめの1巻を紹介していくこのコーナー。基本的にはマンガ好きの人に向けて書いてるんですけど、今回のはマンガ好きという範囲を超えて、なるべく多くの人に読んでほしい作品です。

その作品とは、ビッグコミックオリジナルで連載中の『しっぽの声』。1巻の表紙がとてもいい。かわいんだけど、どこか「強い意思」のようなものを感じさせる黒柴。

作者は夏緑(画)、ちくやまきよし(作)の二人。かつて『獣医ドリトル』を手がけたコンビです。『獣医ドリトル』は、動物病院に運び込まれる動物やその飼い主たちにスポットを当てたマンガだったのですが、この『しっぽの声』もまた動物……というか、犬や猫などのペットをテーマにしたマンガです。

作品のイントロを紹介する前に、1話の試し読みのページを貼っておくので気になる方は先にこちらへどうぞ。

物語は月夜の晩、犬たちがある場所から逃げ出そうとする場面から始まります。

逃げ出そうとする母犬を見て、子犬もついていこうとしますが、まだ体力が弱く、高いところへ飛び上がることができません。そうこうしているうちに、母犬は子犬を置いて出ていってしまいます。

あの犬たちはいったい何だったのか。あの場所はどんなところで、なぜ逃げ出そうとしていたのか。

それからしばらく時が流れたある日。一人の獣医がある家を訪問します。

獣医の名は獅子神太一(ししがみ・たいち)。アメリカの大学で獣医学を学んだエリート獣医師です。

彼の動物病院に運び込まれた身元不明の犬にネグレクト(飼育放棄)の様相があり、動物愛護団体に問い合わせたところ、その犬はこの家から逃げ出したのではないか……という情報を聞き、動物保護のために飼い主のもとを訪れていたのでした。

ところが家主は「運び込まれた犬はウチの犬じゃない」の一点張り。家の中を見て確認したいのはやまやまですが、家主が拒否しているのに家に入ることは不法侵入になるため、獅子神はしかたなくその場を引き払います。

そのとき。帰ろうとする獅子神とすれ違って、ある男がズカズカと家に入っていきます。

「貴様、何をしてるんだ!?」と問いただす獅子神に、悪びれもせず「不法侵入だが、何か?」と返す男。彼の名は、天原士狼(あまはら・しろう)。獅子神に同行した動物愛護団体の職員いわく、「お金持ちのおばあさんを騙して手に入れたお金で、動物保護シェルターを騙った施設を運営して、保護した動物を売りさばいたり、寄付金を騙し取っている」という、いわくつきの男です。

ならず者の侵入を見逃すわけにはいかんとばかりに、飼育部屋に立ち入ろうとする天原を止める獅子神。正論をふりかざす獅子神に、天原は言い放ちます。

「忠告してやるぜ、獣医のお坊ちゃん。現実を知らないままでいたいなら、消毒された病院の中に座ってろ。おとぎ話みてぇな可愛いペットの甘い夢から覚めたくなけりゃ…これから俺が行く場所には一生かかわるな!」

ドアを開ける天原。そこに広がっていたのは、想像を超えるショッキングな光景でした。

凄惨な「現実」を目の当たりにして、獅子神はショックを受けるのですが、読んでいるこちらもあまりの悲痛さに泣いてしまったほど。ペットに対するネグレクトが存在するのは知っていたし、それで飢えたり病気になったりする犬がいるのも知っていましたが、ここで描かれているのはその認識をさらに超えたものでした。

犬たちを救うため、獅子神は天原に協力し、一緒に犬たちの状態をチェックしていきます。冒頭に出てきた子犬もここに閉じ込められていたのでした。

さて、犬たちを保護して一件落着……となるわけではもちろんなく、天原と獅子神は、ここからさらにペットをめぐるいろいろな現実にぶつかっていくのです。

と、ここまでがイントロダクション。続きは1巻でどうぞ。

ところで。

この『しっぽの声』には原作の夏緑と作画のちくやまきよしのほかに、女優の杉本彩が「協力」としてクレジットされています。

あまり知られていないかもしれませんが、杉本彩は「公益財団法人動物環境・福祉協会Eva」の理事長として動物保護活動に長年従事してきた人物。動物愛護イベントで彼女とビッグコミックオリジナルの編集長が出会ったことが、今回の協力につながったとのこと。マンガの新連載では珍しいことですが、『しっぽの声』の連載スタート時には、編集長と杉本彩による記者発表がおこなわれています。

杉本彩、ペットの殺処分描く新連載に協力「“かわいそう”の先を考えてほしい」(コミックナタリー)

1巻の最後には、杉本彩によるあとがきも。

「『しっぽの声』を初めて読んだ方は、その内容に衝撃を受け、にわかに信じがたいかもしれません。ですが、残念ながらこれが現実なのです」(あとがきより)

マンガで描かれている動物たちの現状は、何かしらの実体験や取材にもとづいて描かれているのだろうと思っていましたが、こうやって「これが現実なのです」と明言されると、かなり動揺してしまいます。

で、気になって、ちょっとこの手の話題を調べてみたら、まさに直近の3月1日付でこんなニュースが。

すし詰め子犬工場、地獄の光景 マスやケージ所狭し、強烈悪臭(福井新聞)

(ついでに言うと、「先進国では、商業目的で繁殖されたペットの生体販売は禁止される流れになってきている」ということも、恥ずかしながら全然知りませんでした)

このマンガではこれからもいろんな「現実」を突きつけてくるのでしょうし、おそらくそれは(普通の動物好きである)読者にとってはショッキングなことなのかもしれませんが、このマンガが広く読まれることで現実が変わっていくことも十分あるんじゃないか。少なくとも作者の2人と杉本彩はそういう気合いで描いているように思います。

1巻を読み終わった人は、ぜひもう一度表紙を見てほしい。最初に見たときとは、また別の感慨がこみあげてくると思うので。

というわけで『しっぽの声』1巻、ぜひ読んでみてください。

 


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