ポンコツ魔王の田舎暮らし
笑えて癒されて少し泣けるスローライフ魔王 #1巻応援
ポンコツ魔王の田舎暮らし
兎来栄寿
兎来栄寿
『埼玉の女子高生ってどう思いますか?』の渡邉ポポさん最新作です。今作も推せます。 最強にして最凶でありながら、その性格は圧倒的に陰キャでコミュ障というアンバランスな魔王が本作の主人公。 ″骨″との闘いに疲れて 「知っているか 魔王は逃げられる」 とばかりに魔界から人間界の田舎に逃げてきた彼女が、奇妙な新生活を送っていくゆるいコメディとなっています。 話しかけられることを極端に忌み嫌い、無人販売所や自販機を見ては人間界とは何とコミュ障に優しい住みやすい世界かと感激する魔王が憎めず楽しいです。 個人的に特に好きなのは、ゆるさ極まったドラゴンちゃんたち。ヴィジュアルからしてとてもかわいくて大好きですが、いろいろな仕草もまたかわいい。ぬいぐるみなどがもしあったら欲しいレベルです。 渡邉ポポさんの描くかわいいキャラと田舎の風景とゆるい空気を纏ったギャグが合わさった心地よさときたらないのですが、本作はそれだけでは終わりません。エピソードによっては少し切なくなるところもまた味わいのひとつ。普段のゆるさとのギャップもあって堪りません。 『よつばと!』と『ぼっち・ざ・ろっく!』と『葬送のフリーレン』の要素を併せ持つ作品、というと売れ線感がある気がしてきますね。
ドルおじ #ドールに沼ったおじさんの話
美ドールを愛でるおじさんを眺めるのがこんなにも幸せ #1巻応援
ドルおじ #ドールに沼ったおじさんの話
兎来栄寿
兎来栄寿
先月の新刊でもトップクラスに大好きな『133cmの景色』に続いて、こちらも『月刊コミックバンチ』で連載中の大好きな新作です。 タイトルがすべてを物語っていますが、端的に言えば42歳の冴えないおじさんがドール沼にハマるお話です。 まず作者のさとうはるみさんの絵がとても良く、もうひとりの主役であるスターレットちゃんを始めドールたちが美麗なタッチで抜群に可愛らしく描かれているのが大きな魅力です。絵の説得力により、おじさんが急激にドール沼の深みにハマっていくのも自然に感じられます。今後、どんどん可愛くさまざまなおめかしをしていくであろうスターレットちゃんも楽しみです。 そして何より、本作で良いなと思うのはドールに出逢ったことで輝き出すおじさんの「生」です。 人生すべてを賭けることに何ら躊躇いのない推しとの運命的な出逢いを果たした瞬間のドラマチックさ、その出逢いによって世界が輝きに満ち、日々自然と人に優しくなり善行を積めるようになったり今まで気にも留めていなかった路傍の花の美しさに感動したり、といった描写が実に鮮やかに行われているのが良いのです。 彼は、いい歳をしたおじさんの自分が人形に興味を持ち好きであるということが社会的にどう見られるか、というところにはしっかりと自覚的です。それでもなお堰き止め切れず想いが溢れるシーンの数々を見ていると、しみじみとしながら口元が緩んでしまいます。 "ただの挨拶なのに… なんでこんな染みんだよ" というシーンなどは本当に好きです。 少しずつ、明らかになっていくおじさんの過去の事情がまた良いんです。 恋人もおらず会社でも疎まれて何のために生きていたのか解らない日々から一転、ドールによって「救われた」男性の物語は、きっと誰かの人生を救ってくれることでしょう。何もないと思っている人生にも、ある日突然予想もしないところから何かが起きることは往々にしてあります。 球体関節人形を作る友人はいても私自身はドールにそこまで詳しくなく、ラジオ会館の店の前も通ったことはあるくらいですが、読んでいるとドール知識が身に付いていくのも楽しいです。 細かい好きポイントとしては、 "ウィドマンシュテッテンの輝きは幾星霜の祈りの記憶" という1ページ目冒頭の文学的な書き出しからして、最高です。 マンガイントロクイズがあったら「ウィドマンシュ/」くらいで押して「『ドルおじ #ドールに沼ったおじさんの話』!」と力強く回答したいです。人の力では作り出せないものたちと、人によって生み出され人の形をしているドールという存在の絶妙な対比も美しさを感じます。 読んでいて心底幸せになれる作品で、人間ドラマとしての面白さがあるので特にドールに興味がない人にもお薦めです。
133cmの景色
現代を生きる痛みを強さと優しさに変えて #1巻応援
133cmの景色
兎来栄寿
兎来栄寿
「生きづらさ」。 一言で表すのであれば、本作のテーマはそこです。 多くの人が感じずに済んでいる痛みを受けながら生きている人に、凛々しく優しくエールを送る作品です。 バンチが送る女性向け新レーベル「バンチコミックスコラル」の先陣を切って送り出されたこの『133cmの景色』は、読切時からクオリティの高さで話題沸騰でした。そして、すぐさま連載化し本日単行本も発売となりました。女性向けレーベルとなってはいますが、連載は『月刊コミックバンチ』で行われており、内容的にも男女問わず広くお薦めしたい内容です。 133cmの身長のまま、小学生から成長が止まってしまい25歳になった主人公・華。 そして、華の後輩であり、ある事情を抱える岩見。 食品会社に勤める彼女たちを中心とする、群像劇です。 華は、低身長であることで過去から現在に至るまで数々の心無い言葉のナイフを刺突されて生きています。困ったことに、ナイフを突き立てる側の人間は自分の放つ言の葉が凶器となって人を傷つけていることに極めて無自覚です。しかし、そんな経験を積んできた華ですら、ときに人を傷つけかねない言葉を無意識に発してしまう。そんな人の世のリアルを的確に描いています。 それでも、 ″人の価値観とか苦労とかって 目に見えないから汲み取るのは難しいよね だから損とか得とかって一面的に見て判断してると いつか他人も自分も傷つけちゃうんだと思う 私はどうせなら自分や他人の「無い物」探しを するんじゃなくてそれぞれの良い面に 目を向けていきたいな″ という華。毎日の仕事が戦場であるという彼女。同じように傷つけられる人に手を差し伸べる彼女。主人公としてあまりに気高く、推せます。 岩見との絶妙な関係性が進展していく様子はもちろんのこと、周りの登場人物ひとりひとりにも味があり、それぞれの生きづらさを抱えているところも堪りません。そうした人たちが集まってできている社会というものの複雑さ・難しさを感じながらも、読んだ後には一欠片の優しさを得られる作品です。 非常に現代的・令和的な物語で、今年の新作で推したい作品ベスト10には確実に入る、大注目作品です。 バンチ編集部へのインタビューでも本作を取り上げておりますので、ぜひこちらも。 https://manba.co.jp/manba_magazines/23852