鉄腕バーディー

一読して、読み返して、何度も楽しめる良い漫画

鉄腕バーディー ゆうきまさみ
名無し

YS(ヤング・サンデー)で連載された本作も、 YS休刊でBS(ビッグコミック・スピリッツ)で 連載された続編「鉄腕バーディーEVOLUTION」も 連載時に、どちらもほぼリアルタイムで読んでいた。 だが、あまりにも話が長く大きく内容も多岐にわたり、 正直、最初の頃がどうだったか途中でどうなったかとか 忘れていたりした。 なので改めて全巻通して読んでみたのだが、 やはり面白いし、 改めて読んだからこそ、ああそういうことで あのときそのあとこうなったんだったな、と ストーリーの機微や面白さや深さの再確認が出来たりした。 私の理解力や記憶力を棚上げにして言いますが(笑) 読んだ瞬間に面白く、読み返してまた面白い漫画です。 宇宙連邦の女性捜査官・バーディは異星人として 地球・日本で潜入捜査をしていたがミスで 地球人高校生男子・千川つとむ、を殺してしまいかける。 緊急措置としてバーディは自身の体に、つとむの意識を 取り込まざるをえず、本来のつとむの体の修復を完了し、 つとむの意識を本来の体に戻すまで、 一つの体に二つの意識を共有(もちろん周囲に秘密で)しつつ 地球人男子として日常生活を過ごすことになった。 しかし怪事件ともかかわらざるを得なくなり、 宇宙人捜査官・バーディとしての任務も 普通の男子高校生・千川つとむとしての生活も、 どんどんシッチャカメッチャカに。 さらに、怪事件は深く広く、宇宙的規模で 未来をも左右する大問題に拡大していって・・ 二心で一体という設定だけでも十分にSF的なのに、 そこからさらに多種多様な宇宙人や人造人間、 異種混血人や獣人からアメーバ的でいて知性がある生物など、 これでもかというほどに多士済々?なキャラが登場する。 そのうえで宇宙規模で連邦とか同盟とかの組織的対立もあり、 さらに宗教的黒幕も登場したり、旧帝国なんてのも出てくる。 よくもまあこれだけ多彩な登場人物と複雑な設定を 良い意味で面白い漫画として見せてくれたものだと思う。 とはいえ、さすがに話が大きすぎて複雑で、 そしてそれはそれで前述のとおり、 毎週にリアルタイムで読んでいた私は 理解や記憶が追い付かなくなってしまったが、 改めて今回に読み直して あ、やっぱ凄いわこの漫画、と思ってしまいました。 そういう意味では、今作品が単行本で全20巻、 続編のEVOLUTIONが全13巻と結構なボリュームなので 可能ならば1週間とか1か月とかの期間をかけて、 けれども間を開けずに続けて全てを読むのがおススメです。 一発でストーリー展開を全体像として 正しく理解したいならば。 そのように適度に集中しながら時間もかけて読まずに、 間を開ける読み方をしたらすぐにストーリーが 判らなくなりそう。(個人差はあるでしょうけれど) とはいえこれまた前述のとおり、 一話ごとの内容も面白いので、私みたいに一話ごとに 楽しみながら、気が付いたら色々と忘れていて あれこれってどういうことでこうなったんだっけ、と 思ったら改めて全巻を読み通すってのも良いかも知れません。 そういう意味で二度三度と読み返しても楽しめる漫画かも。 自分の脳力は棚に上げますが、面白さに太鼓判を押します(笑)。

バッテリー

ダンディズムが溢れ出す野球漫画

バッテリー かわぐちかいじ
名無し

かわぐちかいじ先生と言えば 「沈黙の艦隊」「太陽の黙示録」など、 国家問題・国際紛争レベルのテーマを扱った大作を 幾つも描かれた巨匠だ。 その巨匠が描いた野球漫画「バッテリー」。 最初は「え、かわぐち先生がスポ根物を描くの?」 と戸惑った。 とりあえず読み始めたら、 「沈黙の艦隊」の登場人物の海江田と深町を そのまんま野球選手にしたようなバッテリーが 主人公のようだった。 なのでああ野球が舞台だけれどスポ根ってわけじゃないんだ。 もしかして沈黙の艦隊の海江田や深町のキャラを 先生自身が気に入ったので、そのキャラを使って息抜き的に ゴラク作品を描く気にでもなったのだろうか。 などと思った。 海部は沈黙の艦隊の海江田をそのまま投手にしたような 天才肌で何を考えているかわからない男だったし、 武藤は深町をそのまま捕手にしたような 武骨な男だったし。 あのキャラを使った野球漫画ってのも面白いかもね、 くらいに考えていた。 プロ入りした海部が 「自責点ゼロ、失点したら引退」 を宣言し、 徐々にそれが現実的になっていく展開を読んでも 「風呂敷を広げまくる野球娯楽漫画か」 くらいに感じていた。 天才児・海部と努力家・武藤がそれぞれ成長して、 クライマックスは二人が桧舞台で勝負して、 とかになるんだろうな、と。 良い意味で裏切られ、自分の読みの浅さを思い知らされ そして感動した。 まさか、ラストに向かって、こんなにもダンディズムが 溢れる話になっていくとは思わなかった。 なんせ国際問題をリアルに描き切った大先生なんだから、 それに比べたらたかが球技を舞台にしては、どうやっても スケール的に小さい話で終わらざるを得ないと思っていた。 もちろんプロ野球の世界で「自責点ゼロ」を貫くことが とてつもなく困難な偉業であることはわかるが、 所詮は漫画なんだし、達成しました、大団円です、か 達成は出来ませんでした、これも人生です、か、 どっちかで終わるんだろうな・・くらいに考えていた。 だがそれだけじゃない、かわぐちかいじ先生流の ダンディズムが溢れ出しまくるいい終わり方だった。 面白かった。さすがは、かわぐちかいじ先生。

純(ジューン)ブライド

愛するという一つの例として

純(ジューン)ブライド 𠮷田聡
ナベテツ
ナベテツ

まだ少年と呼ばれる頃に、何も知らずにこの作品を買って読みました。マセガギと言われても仕方ないし、母親にこっぴどく叱られたこともあります(それでも捨てられたりはしなかったんで良い親だと思います) 恋愛が甘い物である、ということは流石に否定出来ません。ただ、二人が一つ屋根に暮らすということは、終わらない「日常」に暮らすということでもあります。そこは決して天国ではないし、息が詰まるようなこともある。 それが「愛」という感情によって始まることだと、この作品はかつての少年に見せてくれました。恋人は決して美しいだけの存在ではない。自分と同じように肉体を持った存在であり、そのことで苦しめられることもあるんだと、異性のことを何も知らなかった頃に学んだものでした。 バブルの頃、恐らくこの作品のような生き方は現実感を失っていたのではないかと思います。今の時代にはどうでしょう。若者が貧しくなっている現実もありますが、こんな関係からは恐らく逃避するんじゃないかとも思います。ただ、作中に登場する人達は、自分自身を取り巻く日常に対して必死で生きています。誰に笑われても構わない。唯一人のために生きているという現実は、自分のためだけに生きている人間には、まっすぐで美しいものに映ります。 この時期スローニンやDADAを描いていた吉田聡先生にとって、明らかに異なる作品であり、ある年代にとっては忘れられない作品だと思っています。

赤×黒

この世の中で私が美しいと思うもののひとつ、それがハイキック

赤×黒 上條淳士
マウナケア
マウナケア

この世の中で私が美しいと思うもののひとつ、それがハイキック。滑らかな動きとか、凄まじい破壊力とか、ではなくて、うまく言葉では書けないんですが、積み上げてきたものの浄化、カタルシスあるというか。そんなシーンを見るのがこの上もない幸せ。まあこれは自分でも何百回と練習したあげくに腰をブッ壊し、結局それを実体験として味わえなかった苦い過去があるからかもしれないんですが。それはさておきこの作品、緻密な絵柄に定評のある著者のアクションストーリーで、主人公・シバのライバルがハイキックの使い手という設定。まあすぐわかるのでばらしてしまいますがこの男は能楽師で、なぜかハイキックだけに固執する。その思い入れの強さにのめり込んでしまいました。見開きがうまくつながっていないのはちょっと残念ですが、何度も出てくる至高の蹴りに、ため息状態。どうせなら、主人公との対決に至るまでをもっと長くやってほしかったと思うほどです。お話の方がこれからのシバの歩む道を示唆して終わっているだけにねぇ。ただ私としてはこのハイキックへのこだわりが美しい絵柄で読めただけで満足です。