野愛
野愛
2021/05/05
人間は誰だって幸せになれる
ある意味タイトルの通りと言いますか、トモちゃんは顔立ちも頭身も他の人物とは明らかに違うものとして描かれています。 そんな見た目のトモちゃんですが、あっという間に周囲に溶け込んで生きる気力すらもなくしていたチコちゃんの世界を広げていきます。 トモちゃんは主人公を成長させるためのある意味ドラえもんみたいな存在なんだろうなあ、それ故の見た目なのかなと思っていたのですが、そんな単純なキャラクターではなかったです。 優しくて愛情深くて、チコちゃんや車谷や陽介先生と同じように心に傷を負った人間でした。 チコちゃんが成長すればするほど、幸せになるのを恐れているようなトモちゃんが見えてきます。 物語を追っていくうちに、チコちゃんを見守ってあげてねという気持ちから、チコちゃんはもう大丈夫だからどうかトモちゃんが幸せになってと祈るような気持ちに変化していきました。 最後の陽介先生の言葉が全てです。何度読んでも最後で泣いちゃうんだなあ…。 どんなに壊れていても、傷ついていても、人間はいつだってやり直せるし幸せになれるんだと教えてくれるような作品でした。
ひさぴよ
ひさぴよ
2021/05/03
切なくも爽やかな感動を呼ぶ、リバーサイドストーリー
「ここは何もないところさ でもね 何があっても水が流してくれるのさーーー」 多摩川近郊の町を舞台に、視覚障害者の青年・一太郎と、生活に困窮する女性・ちはやの、二人の心の交流を描いた物語。 ヒロインである「ちはや」を通し、視覚障害者の現実を知ることができると同時に、ちはやが抱える生活環境の苦しさにも直面させられる。 ちはやの家は、母親が居なくなり父子家庭でアル中となった父親をちはやが世話をして、家計を支えるため、ひたすらに働けども貧しい状態から抜け出せない。心が荒みきって、他人を助ける余裕など全くない状況から物語が始まることからも、この『花に問ひたまへ』が視覚障害者側の綺麗事だけで描こうとしていないことが伺える。 1話目での一太郎と出会いは、非常に気まずいシーンとなっている。早朝、急いで仕事に向かうちはやが、鬼のような形相でエスカレーターを駆け上がって、一太郎の持つ白杖を蹴り落としてしまうのだ。罪悪感を感じながらも、何もせずに立ち去ってしまうちはや。その後、町中のコンビニで一太郎に”発見“されてしまい、彼の優しさによって、ちはやの心は徐々に変わり始める…。 私たちは、障害者の物語と言えば、助けられるのは障害者の役割だと決めつけがちだが、この物語において本質的に手を差し伸べられているのは、ヒロインのちはやの方である。視覚障害者である一太郎が、ちはやにとってのヒーローのような存在となっている事が、人は目だけでモノを見るわけではない、ということを体現しているように思う。 視覚障害者にしかわからないことも、綺麗事抜きで読者に伝わりやすいように描かれていて、リアリティを持って伝わってくる。ヒューマンドラマとしても、ラブストーリーとしても上質な作品でありながら、障害を持つ人たちの日常を考えるきっかけを与えてくれる作品でもある。 ※ちなみに、冒頭でアリの巣を覗いてるお婆さんは、さそうあきら珠玉短編集「子供の情景」に登場する人物だったりする