鬼火  ―フランス人ふたり組の日本妖怪紀行

妖怪カメラと旅する2人のフランス人

鬼火  ―フランス人ふたり組の日本妖怪紀行 駒形千夏 アトリエ・セントー
たか
たか

海外の反応まとめサイトで知り日本語版が出てすぐに購入した作品。見てもらえればわかるけど、とにかく絵がメチャクチャ良い…! ジブリを思わせる可愛らしい絵柄と水彩の色使いが超最高。PVもメッッッチャいい…! https://youtu.be/o3k8TlaOX38 妖怪の姿を写すカメラを持ってフランス人のセシルとオリヴィエが日本を旅するというストーリー。日本の日常生活とともに神道・信仰・妖怪が描かれていて、すこし不思議でとても心地よい。 バンド・デシネということで、「読み心地」は妖怪や神霊をテーマにした日本の漫画とはぜんぜん違う。 でも何かに似てるんだよなあ…と、あらためて振り返ってみて気づいた。この不思議な感覚は、荒木飛呂彦の「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」を読んでるとき同じだ。 バンド・デシネというスタイルがそうさせるのか、「現実の舞台を旅して不思議な体験をする」内容がそうさせるのかわからないけど、とにかく似てると思う。 「妖怪」、「旅行記」というワードにワクワクするタイプの人はぜひ読んでください。 『海外マンガの人々―アトリエ・セントーインタビュー』 https://comicstreet.net/interview/author/atelier-sento/ https://www.shodensha.co.jp/onibi/about.html

学校へ行けない僕と9人の先生

不登校、いじめ、先生の当たり外れ。環境に大きく左右される子供の話

学校へ行けない僕と9人の先生 棚園正一
兎来栄寿
兎来栄寿

いじめを受けるその前段階に存在する名状し難い大きなストレス。それによって不登校に至る感覚というものを、これだけ端的に言語化して見せたマンガはそうそうありません。 筆者の実体験を元に描かれた本作は、一つ一つの主人公の心理の動きに非常にリアリティがあり説得力を持って語られます。 また、心に傷を負った経験があってもちょっとした切っ掛けで自分がいじめを行う側に回ってしまう、誰しもが立場や環境次第でそういった行為に容易く及んでしまうという現実にも触れられています。 人生では多くの先生に出逢いますが、そこには自分で選べない「当たり外れ」があります。本作では良い意味でも悪い意味でも「この先生に会わなければまったく別の人生を送ることになったのではないか」という数多くの先生との出逢いと交流が描かれます。全くもって理不尽なことですが、先生は自分で選ぶことが極めて難しいのに対して人生に与える影響は絶大です。なので、先生もそれ以外の部分も含めてあまりに酷い環境にある場合は逃げることはむしろ推奨されると個人的には考えています。 かつて自分が師事を受けていた先生のことや、子供の頃の感情を読みながら喚起させられずにはいられませんでした。その時に覚えた苦味は大人になった今、子供たちに伝えていくべきものなのでしょう。 筆者は幸いなことに、大好きなドラゴンボールの作者である鳥山明先生が母親と同級生だったという縁で鳥山先生に会い、自分の描いたマンガを見て褒めてもらうという掛け替えのない経験を果たします。私も幼少期はドラゴンボールに没頭していたので、その時に鳥山先生にもし直接会えていたらどれだけ興奮しただろうと大きな共感を覚えながら読みました。 「おおげさじゃなくて 生まれてきて良かったと思った」 最終的にそんな言葉が筆者の口から出てきたことには心から安堵しました。人生は辛いことも多いですが、生きていればそうした無上の幸福を感じる瞬間も訪れることがあるものだと思います。 今現在不登校であったり、それに準じた状況にあったりする子が読めば大いに勇気付けられる部分のある作品です。そうでなくとも、様々な示唆に富んでおり一読の価値がある素晴らしいマンガですのでぜひこの機会に一人でも多くの方に読んで頂きたいと思います。

ライフル・イズ・ビューティフル

かわいい女の子の玉手箱や…!!

ライフル・イズ・ビューティフル サルミアッキ
ななし
ななし

高校射撃部の1年生女子たちのゆるい4コマ漫画。こういういわゆる「可愛い女の子が可愛いことしてるだけ」な漫画は普段読まないんだけど、ライフルというテーマに惹かれて読んでみたら良さに目覚めた。 主人公たちの部活のメンバーはもちろんのこと、各地のライバル校の選手たちも個性豊かでとにかく可愛い! **お嬢様、ちびっ子、メガネ、色黒、V系、幼馴染、部長副部長、最強などなど、、多種多様なJKとその関係性を見ているだけで最高に癒やされる。** ちなみに1巻表紙のメインの4人は、他の漫画のキャラで例えるなら唯・紬・レイ・アスカという感じ(エリカに関しては完全にアスカオマージュのセリフがある)。 日常パートも試合パートも、基本的には4コマ形式で描かれるけど、クライマックスではコマ割りが自由になる演出がすごく好き。 初めは射撃について何にも知らなかったけど、読み進めていくうちに勝手に知識がついていったし、ライフル射撃の魅力がわかるようになった。たぶんだけど採点競技が好きな人は**「反復を繰り返し、自己ベストを尽くしつつ他者の得点と競う」**ライフル射撃にハマると思う。 4巻ではエア(実弾)への挑戦も始まったし、10月からはアニメも始まるし今一番作品が盛り上がってるタイミングなのでぜひ…! 【第1話】「ライフル・イズ・ビューティフル」サルミアッキ https://tonarinoyj.jp/episode/13932016480028985966

緑の黙示録

植物から“人間”という存在そのものを考えさせられる

緑の黙示録 岡崎二郎
名無し

手塚治虫や藤子不二雄、少女マンガの諸作品を読んでいて思うのは、昔は本当に短編マンガが多かったなあということです。そのどれもに鋭くきらめくようなアイディアがあって、それが短いページ数でドラマチックに展開してハッとする落ちそして、いつまでも記憶に残る読後感がそこに生まれます。手塚治虫作品でいえば「ドオベルマン」、藤子・F・不二雄作品なら「カンビュセスの籤」に「ノスタル爺」。大友克洋作品で「宇宙パトロール・シゲマ」。諸星大二郎作品なら「感情のある風景」と、どの作品も、読んだその日の情景まで思い出させるほど、記憶に強く残っています。  そういえば、『ブラック・ジャック』『MASTERキートン』のようなオムニバスの作品も減ってきたイメージ。短編マンガは、現代のマンガ状況では完全に日陰者のようです。  そんな今でもショートショートのような味わいの短編を数多く発表しているのが岡崎二郎という漫画家です。代表シリーズの『アフター0』は、これはもう完全に星新一ショートショートの世界。一編一編新しいアイディアのつまった短編がこれでもかと並んでいてとても贅沢な作品群となっております。その後、発表された作品は完全に短編という形ではないものの、やはり連作短編形式のものが多く、一話一話できちんと完結し、独特な読後感を残す作品ばかりです。  僕が特に好きなのは『緑の黙示録』です。樹木と心を通い合わすことができる少女・山之辺美由の4編の物語です。  山之辺美由の能力は超常的なものですが、そこから起きる事件に関しては科学的な説明がなされるというのも面白いです。「第一話 ウパス」では温室で育てられたウパスという木の下で人が死んでいたという事件に山之辺美由が関わるという筋書きです。もともとウパスは矢毒につかわれるような毒を持つ木ではあるのですが、原因がわからない。そこで美由が自分の能力で事件の真相に近づこうとします…。  岡崎二郎作品の魅力はこういった科学的なワンダーが全て人間につながって行くことです。恐竜や宇宙や動物や植物といった人間以外を題材にしていながら、そこから“人間”という存在そのものを考えさせられる、そのダイナミックな読後感にいつもぼーっとなってしまうのです。