樫村一家の夜明け

夫婦合作!!

樫村一家の夜明け 沙村広明 岡村星
かしこ
かしこ

元々2人のファンだったのでご夫婦と知って大興奮しました!私の勝手な妄想ですが夕飯時に晩酌しながら漫画談義とかしてそう…。後書きで嫁のかき揚げが美味いって惚気ていてニヤニヤしました。岡村星先生が作ったネームを沙村広明先生が直してくれるってエピソードが語られてましたが、ストーリーもお互いの意見を取り入れて作ってるんだろうな。収録作品全て面白かったです!! 以下、個人的な作品ごとの感想です。 「樫村一家の夜明け」引きこもり息子の苦悩が真面目に語られるところからの親父の本気が炸裂するぶっ飛んだ流れが面白すぎる。何回でも読みたくなる。 「アンチ・ドレス」自分が作ったドレスによってSNSの裏アカで虚勢を張るような女の子になってしまった…と気づいたファッションデザイナーの男が「俺が新しい呪いをかけるんだ」というところ。女達が本来持ってる魅力を活かすことも「呪い」と言うのがいいな。ファッション業界の話だから「何であんな色の口紅が流行ってるんだ…?」とかワードセンスも洗練されていてカッコよかった。 「ミッシングコード」すごい深い話だった。人間はみんな罪深いって本当その通りですよ!今年読んだ漫画の中で一番刺さったかも。

とめはねっ! 鈴里高校書道部

筆を握って歩き出した道には

とめはねっ! 鈴里高校書道部 河合克敏
名無し

少年時代をカナダで暮らしてきた大江縁(ユカリ・男子) は8年ぶりに日本へ帰国して高校に入学。 帰国子女でありながらどちらかというと おとなしくてパッとしない縁だったが 強引に書道部に勧誘されて入部することに。 習字すら知らず筆など握った事もなかったのに。 さらに女子柔道界期待の星の望月結希(ユキ・女子)の 背負い投げに巻き込まれたことで、 結果、望月も書道部に巻き込むことに。 個性的な先輩たちや仲間や教師に導かれ 自分の気持ちや資質に目覚めていった縁は 書道の道にどんどん分け入っていくことになって・・ 「帯をギュッとね!」でニューウェーブ柔道漫画を 描いた河合克敏先生が柔道、競艇の次に 漫画で手掛けたのが「書道」の世界。 「帯ギュ」でそれまでにない明るく厳しい柔道漫画を 描いた河合先生でも「書道」が舞台の漫画ってのは 流石に盛り上げにくいのではないかとも 思いながら読み進めたけれど、杞憂でした。 地味で難しく暗い?イメージのある?書道すら 河合先生は明るく楽しく面白く描いてくれていました。 シリアスな話の合間にも適度にユーモアも入ってきて、 それでいて物語が脱線したり判りにくくなることもなく スムーズに話が展開していくのが本当に上手いです。 それでもやはり書道に関する説明や蘊蓄も膨大なので 読むのが大変な部分もありますが・・ それでも読み進めてしまう面白さがありました。 実際の書道作品を漫画の中に取り入れたり、 しかもそれが単なる説明や引用としてだけでなく ストーリの中に組み込んであったり、 しかもそれが読者参加のコラボだったり、 漫画の手法としても凄い部分があるなあとも思いました。

バニーズクエスト

月の兎人は自由を求む! #1巻応援

バニーズクエスト 戸崎映
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

人々はAIに全てを監視され、生活を任せ、提示された選択を受け入れる、安心で快適な人生を選んだ。しかしそんな人生を拒む個体が現れる…… とここまで書くと、なんだか『ハーモニー』みたいですね。 平凡を好む兎の遺伝子を掛け合わせた従順な「兎人(うじん)」。月で暮らす兎人の集団から逃げ出した女の子?兎子(うこ)は、地球でもう一人の兎人女子・跳(はね)に助けられ、一緒に暮らすことに。 好きなだけ肉を喰ったり、自分で好きな物を選ぶ楽しさの反面、生活はAIがやってくれなくてメンドクサイ。でも全てが新鮮な兎子は表情が晴れやか。一方、意外と寂しがりの跳が、マーキングの習性で兎子にアゴすりすりするのはとっても百合。百合ですわ……。 新鮮な異世界を楽しむ感じは『メイドさんは食べるだけ』に近い感覚も。兎型AI(劣化版)のおもちも含め、たくさんの「カワイイ」に満ちていて、最初「ハーモニーみたい」と思ったのは何だったんだ……というくらい明るく楽しいお話でした。 しかし、どこまでも付き纏うのは「兎人であることが、バレてはいけない」こと。この設定、シリアスに振れるのか、それともコメディになるのか……。

回顧 冬虫カイコ作品集

仄暗い世界の言語化と、奇異な縁の美しさ

回顧 冬虫カイコ作品集 冬虫カイコ
兎来栄寿
兎来栄寿

冬虫カイコさん初の商業作品集。女性同士の関係性を主軸とした話が中心となっており、仄暗さがあるのが特徴となっています。 私は冬虫カイコさんの鋭利な眼差しによる世界の切り取り方が好きです。 例えば、webでも大いにバズったこの短編集の1作目「帰郷」の冒頭。従妹の葬儀のため数年ぶりに帰ってきた故郷でタクシーの運転手に行き先を告げただけで悼句を返された時に出る 「半径数キロメートルの円の中で  すべてが進行し  すべてが共有される  だだっ広いくせに狭苦しい社会」 という息苦しい田舎の閉塞感への端的な表現。 こうした良さが随所に見られます。多くの人が抱いたことがあるであろう何とも形容しがたいモヤッとした想いの見事な表出など、マンガによる抽象概念の言語化に非常に長けている方だと感じます。 「きずあとに花 第2話 ふたりの色目」も6万RT・20万いいね以上されたお話ですが、個人的にも特に好きです。「かわいい」という言葉にトラウマのある年配の古文教師と、何かにつけて「かわいい」を連呼するギャルの物語です。 描き下ろしの「刺青」もそうですが、普通に生きていれば交わらない者同士が偶然の縁で美しく結びつく瞬間が謳うように描かれており、沁みます。 劣等感や嫉妬など負の感情に苛まれる主人公たちは、他の物語であればそんな感情とは無縁の主人公に隠れた脇役だったかもしれません。そうした陰の存在に寄り添い、こうして巧みに物語化する冬虫カイコさんの手腕。 そして、そんな感情も清濁合わせていつか懐かしく回顧する日が来るのかもしれない、と本を閉じてタイトルを見返した時に思います。 良さに嘆息しながら今後の作品も楽しみに待ちたいです。

仏ガール

きっと仏像に会いにいきたくなるマンガ

仏ガール 柚ちえこ
兎来栄寿
兎来栄寿

1コマ目が誕生釈迦仏、2コマ目が軍荼利明王のポーズの真似をする主人公から始まるマンガもなかなかないでしょう。 この作品は、「仏像変態」と呼ばれるほど仏像に偏愛を寄せる美術部顧問の江西先生と、その教え子である城上(しろかみ)さんが主人公の物語です。 江西先生の推しと押しの強さによって、城上さんはさまざまな仏像巡りに付き合わされていきます。 京都・奈良を中心とした寺社仏閣、平等院や永観堂禅林寺などが精緻に描かれ、思わず二重の意味での聖地巡礼をしたくなるほどです(六波羅蜜寺の空也上人像のエピソードでは『空也上人がいた』などもフラッシュバックしつつ……)。 とにかく江西先生のキャラが濃く、 「才能のある後輩やなんで売れてるかわからない作家を見ると気が狂いそうになるわ」 「みんなも早くお酒飲める歳になるといいわねえ  飲んでる間は嫌なこと忘れられるわよ〜」 と、闇の深さ・人間的な弱さを生々しく感じさせます。 一方で、 「私たちは結果が出ない時不安になっちゃうけど… 人間いくつになってもアップデート可能なのよ!」 「人生の時間を使って何かやってるだけで偉いわよ」 といった言葉で教え子を優しく導いていく側面もあり、仏像を通して開いた悟りの境地を感じさせてくれながら読み手である現代人にも寄り添ってくれる内容となっています。 作中でも語られる通り仏像を見ている瞬間に私たちは仏像を通して自分の願いや悩みを見つめ直していて、そうした瞬間を人生の中に持つことは大事であると思います。この作品を読む時間もそれに近しく、間接的にそうした効用も生まれるかもしれません。