冷たくて 柔らか
20年ぶりに再会した女性同士の関係性 #1巻応援
冷たくて 柔らか ウオズミアミ
兎来栄寿
兎来栄寿
『三日月とネコ』のウオズミアミさん最新作。本作もまた大人の女性の上質な関係性が描かれています。 「ヤキモチを焼かれないので、本当に愛されてるか自信を失った」 という同棲して2年の彼氏と別れた主人公・宝(たから)。 33歳にして結婚を考えていた相手と別れてどうしようかというところで偶然にも中学生の頃の同級生・エマと20年ぶりの再会を果たしたことで、ふたりの物語が再開します。 当時のエマにとって、宝は単なる同級生に留まらず自分の存在を救ってくれていた掛け替えのない存在で、宝さえいてくれれば他に誰もいらないと思っていたほどでした。 宝は、そんな強い想いを昔から変わらずぶつけてくる美しくてかわいいエマに対して少しずつ自身も絆され、感情が徐々に溢れ零れていきます。何も障害がなければひとつの美しい祝福されるべきふたりの物語で終わるのですが、いかんせん既にエマは人妻。相手の男性は経営者で、性格もとても優しくエマのことを大事にしている人であるというのもまた複雑です。 ただ、当のエマ自身は現状に満たされない想いがあるようで、宝との再会によってよりその想いも強くなっており……。 いちごミルクキャンディの香りによって呼び覚まされる甘酸っぱく切ない記憶が、郷愁と共に胸の奥へと焦がすような熱を灯します。丁寧に紡がれていく彼女たちの関係性に目が離せません。中学時代のふたりの姿は、血流を良くしてくれます。 全体的に上品なんですが、友達のお母さんが作ってくれたおでんの味が忘れられずにずっと探求していてその正体はおでんの素だったという庶民的なエピソードも好きです。
三日月とネコ
"自分にとっての幸せ"とは何かを見つめ直せてくれる物語
三日月とネコ ウオズミアミ
sogor25
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2016年の熊本地震をきっかけに同居することになった40代書店員の灯、30代女医の鹿乃子、20代インテリアショップ店員の仁、そして(元々は鹿乃子の飼い猫であった)ミカヅキ。年齢も性別も境遇もバラバラの3人が、地震という不意の出来事を契機にして共に生活を送る物語。 といっても、3人の中の誰かが付き合ったり、もしくは恋仲に発展しそうになったり、というような展開は出てこない。なんなら灯以外の2人にはどうやらちゃんと恋人がいるという描写がある。 いわゆる"シェアハウス"を舞台にした作品では、同性どうしであれば外での恋愛模様に喧々諤々としたり、もしくは異性間の同居となると同居人どうしの恋愛に発展したりしなかったりと、どうしても"シェアハウス"という空間と恋愛が相反する存在として描かれる傾向が強いように思う。しかし、この作品では3人の中での楽しい共同生活とその外の恋愛というのが完全に独立した状態で存在している。一応3人の間に恋愛が生まれなさそうな設定上の仕掛けがあるのだけども、恋愛そのものを否定せず、むしろ肯定したうえで、恋愛に囚われない幸せもあるということを描いている稀有な作品。 もちろん現実ではこんなに人たちに出会えるとは限らないし、この3人も奇跡的なバランスで関係性が成り立っていると思うけど、何が自分にとって幸せなのかを見つめ直させてくれると共に、恋愛だってなんだって、探せば幸せはいろんなところに転がっていると気付かせてくれる、読んでいて多幸感で満たされる作品。

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